二百三十七告目 悪は裁かず 27
……話を聞き終えても信岡玄の目は厳しいままだった。
「同情はするがそれだけだ。全てがチャラになるなんて思うなよ」
「ああ、それは覚悟している。だがオレだけだ。お嬢はもう……」
城戸琉侍が多門真夕貴をかばうように前に立つ。その背中にすがって彼女が城戸琉侍に話しかける。
「話は終わったんでしょ? さっさと支度して帰りましょう。ねえ琉侍」
「はい、もう少し待っていてください。今済みますから」
「アンタ! アンタもいつまでも睨んでんじゃないわよ! 呪われたいの? あははははははははっ」
途中から多門真夕貴は言動がおかしくなっていき話の終わりのほうは城戸琉侍が継いだ。こうなったときの多門真夕貴は時系列や人の顔の識別すらできなくなり、記憶が混乱して城戸琉侍以外とは会話が成立しないのだという。
「罪というならオレが背負う、それで勘弁してくれ。オレをあんたの好きにしてくれていい」
「それは構わないが後ろのそいつはどうなる? 病院行きならまだしも放り出されれば仕返しで犯され刺されて死ぬのが関の山ってとこだろう」
「それは……」
信岡玄は君成歩三男から銃を受け取ると、それを真っ直ぐ多門真夕貴に向けた。
「だったら多聞はここで殺すか。勘違いするなよ。これは慈悲なんだぜ」
「ふざけるな! そんなわけないだろうが!」
「一人で生きて行けないならそうするしかないだろう。甘えるなよ」
「やめてくれ! だったらオレを先に殺してくれ!」
「これはお前のためでもあるんだぞ? 共依存から解放してやろうっていうんだ。多少荒療治ではあるがな」
信岡玄の気が変わらないと見て城戸琉侍が多門真夕貴に覆い被さる。
「城戸、それは何の真似だ」
「お嬢はオレが殺させない。番犬の意地だ」
「そうかよ。残念だな」
そう言って信岡玄は銃を構え直す。
しかし引き金が引かれることはなかった。何か見えない力が信岡玄の動きを封じている。
「それじゃあ僕が困るんですよ。銃を下ろしてここは引いてくれませんか?」
ステージの袖から現れた男が信岡玄にそう声をかけた。