二百三十一告目 多門真夕貴 12
「傀儡道士は呪術を生業とする一族で、特に人心にかかる術を得意とする一族だ。先般の呪い、ああシニコクだったか。呪いを君に返したのは俺のじじいの仕業だよ」
雑然としたショッピングモールのフードコートに腰を据えたあと、鎌波亥縫は多門真夕貴にそう話した。
呪術と聞けば陰気な男を想像するが鎌波亥縫はにこにことメロンソーダをすすっている。同時にその貼り付けた笑顔のせいで内面が読み取れないのも事実だ。
「そうは見えないって顔だね。俺も君が呪いに手を出すような人間には見えないんだけど」
鎌波亥縫ははね返した呪いの残滓を追って多門真夕貴にたどり着いたのだと言った。
(じゃあまだ橙萌にはたどり着いてないってコト? だったらワタシがこのままアイツを呪ったふりをすれば……)
「どうでもいいでしょう。それで? ワタシをどうするつもりなの? 社会的に呪いを罰することなんてできないし、実際に負けて呪いを受けたのはワタシなんだから、何もアイツに迷惑なんてかけてないでしょう?」
「ははは、俺の存在理由があっさり否定されたよ。それに呪いの矢は2本あったんだけど? もう一人は誰なんだろうね」
「それは……どっちもワタシがやったのよ」
「嘘だね。それに君からは起こりを感じない。誰かをかばってる?」
多門真夕貴の嘘は鎌波亥縫に簡単に見破られた。
「お願い、彼女には手を出さないで。お金なら……」
「いや、それはいらない。何なら君が僕に協力してくれるなら忙しいととぼけて当分時間を稼いでもいい」
「えっ?」
「俺はね、一族の縛りから抜けて自由になりたいんだよ。そのためにはあのジジイ、鎌波丹午を殺さなくちゃならないんだけどね。どう? 頼めるかな?」
鎌波亥縫は笑った顔のまま、ケーキでも勧めるように多門真夕貴にそう言った。