二百二十九告目 多門真夕貴 10
『……それはほんの憂さ晴らしのつもりでした。道ばたの石ころがヒーローをちょっとつまづかせてやろう、それができなくてもコケて照れ笑いをする彼のコミカルな姿を想像するのも楽しいかもしれない。そんな軽い気持ちでした。
彼が私にした嘘告というのも「君を救いたいと告白めいたことを言いながらあっさり私を棄てた」というこじつけでした。他に告白なんてされたことはなかったですから(真夕貴さまのことは別にして)。
そしてそれだけでは弱いと思った私は保険をかけるつもりでもうひとつシニコクの呪いをかけた。「真夕貴さまに告白して振られた彼が当てつけに私とつき合おうとした」という真夕貴さまの嘘を真実に見立てたのです。言ってみればこれもこじつけです。
だから呪いが成功するかどうかなんて本当はどうでもよかった。その行為自体がゲームみたいなもので、平凡な暮らしをつかの間忘れるイベントぐらいの感覚だった。
なのに……なのに呪いは成功して、しかもその呪いが跳ね返されて自分にかかってくるだなんて!
もし真夕貴さまの体のどこかに赤い影ができているとしたらそれはシニコクの呪いです。私のくだらない自己満足のせいで真夕貴さまにも迷惑をかけてしまった。でもどうか私が真夕貴さまを呪ったのではないということだけは信じてください!
今すぐに真夕貴さまの足元に土下座して謝りたい。でもそれもできなくなりました。
彼の父親は彼を呪った犯人を捜しています。捕まったら何をされるかと思うと恐ろしくなります。
私はどこか知らない所へ行ってひっそり暮らすつもりです。最後にひと目でも真夕貴さまに会いたかった。それが叶わないことは百も承知ですが。
せめて心で真夕貴さまを思うことを許してください。勝手なことばかり言っていますね。ごめんなさい。さようなら』