二百二十七告目 多門真夕貴 8
『……突然弁護士だという人がやってきて真夕貴さまと手を切るよう言われました。そして彼が私の代わりに交渉を仕切った。守られているたは名ばかりで蚊帳の外に追いやられ私は最後にその結果を書いた書面を弁護士から受け取っただけでした……こう書きながら自己弁護ばかりで言い訳にもなっていない。彼に騙されていたとはいえ自分のしたことを今は恥じるばかりです。
でも騙されたと言えば彼はそれは誤解だと否定するかもしれません。何故なら彼の行動には何の悪意もなく、彼の姿は信奉者にとっては彼らが思い描く正義の象徴なのでしょうから。
あのあと彼は私に「今日から君は自由の身だ。誰に気兼ねもなく胸を張って堂々と生きていけばいい」とそう言ったのです。事件を解決して去って行くヒーローのように手を振って別れを告げられた。背中を押してくれたと言えばそうなのでしょう。でも私からすればそれは優しさでもなんでもない。知らない世界で一人で生きろと言われたのと同じです。
そのときにやっと私も気づきました。彼は私を好きだから寄り添ってくれたわけじゃない。私だから不幸な境遇から救いたかったわけじゃない。そういう「正しい生き方」をしている自分に酔いしれているだけなのだと。そして不幸じゃなくなった私の隣に彼がいる理由はもうなくなったのだと……』