二百十八告目 悪は裁かず 25
「だって私は……セイを騙して、それに奥村君のことだって」
「自分を許せませんか? だから生きる価値がない、そういうふうに思ったんですね。だったらぼくが許します。
阿川先輩とぼくは似ていると思いませんか? 人に傷つけられてそのせいで人を傷つけた。だったらその傷をなめ合って生きていくのもいいじゃないですか」
「優しすぎるわよ……何でそんな」
「それでも罰を望みますか? だったら噂を受け入れたらいいじゃないですか」
「えっ?」
「呪われた後輩を騙して奴隷にして自分の借金をなすりつけるひどい女。それを演じてみませんか。ぼくが協力すればどうですか? 借金だって2人のほうが早く返せますよ」
「そんな! だってそれじゃ奥村君が」
「そのかわり阿川先輩もぼくに協力してください。執着する毒親からまだ利用価値のある息子をたぶらかして攫っていく泥棒猫、そう呼ばれてくれませんか」
「あなた……奥村君」
「罰というなら阿川先輩はぼくの赤い影を見るたびに信岡先輩のことを思い出すでしょう。そしてぼくも阿川先輩が側にいてくれれば自分のこれまでしたことを忘れない。
これは一方的な施しじゃない、お互いがお互いを支え合う契約です。だから負い目を感じる必要はないんです。……どうです? 一緒に生きてくれませんか」
その言葉に阿川飛名子は奥村稜にすがって号泣した。
「ありがとう……いいの、私なんかで?」
「ぼくの方こそ……ええ、よろしくお願いします」
「何よ、こんなときにまで……馬鹿ね」