二百十四告目 悪は裁かず 21
キャンパスでの騒ぎのとき奥村稜は信岡聖をかばうことができなかった。
ようやく話せるようになった同じ学科の人間からまた距離を置かれるのが怖かった。自分のことで手一杯で彼女を気にする余裕がなかった。どんなに言い繕ってもだがそれが逃げたことの免罪にはならない。
信岡聖が葉見契一に脅され恥ずかしい罰ゲームをやらされているのを見た奥村稜ができたのは、その場を離れて目をつぶり耳をふさぐことだけだった。しかしそれは指さして笑う野次馬と五十歩百歩で、彼女にとっては何の助けにもなっていない。
(婚約者と別れたと聞いたときに「じゃあ今度は自分が」なんて言い寄ろうとしたくせに。阿川先輩と抱き合って泣いているときに代わってぼくが抱きしめたいなんて妄想したくせに。ぼくも葉見と何も変わらない、とんだクズ野郎だ!)
そんなふうに自分を責めていたせいで信岡聖がアパートの前に立っているのを見たとき、奥村稜は一瞬これは夢なのかとあやうくドアを閉めるところだった。
「お酒買ってきたの。今夜だけでいいから泊めてくれない?」
少し淋しそうに笑ってそう言われれば奥村稜は一も二もなく彼女を部屋に迎え入れた。このときばかりは貧乏な物のない部屋で掃除しやすかったことに感謝した。