二百十告目 悪は裁かず 17
「ぼくのこれまでの人生は勘違いや間違いの連続でした。でも信岡先輩のことだけは間違うべきじゃなかった。それなのに……」
奥村稜の悔恨を聞いて阿川飛名子は彼が羨ましかった。涙をこぼす姿を美しいとさえ感じた。同時に自分は彼のように泣く資格などありはしないのだと自覚させられる。
阿川飛名子は裁かれるのが叶わないなら、奥村稜に尽くすことが自分の贖罪になるではないかと考えるようになった。身勝手な行為だとは思ったが阿川飛名子自身何かすがるものが欲しかったのだ。
しかしそんな阿川飛名子の行動を周りの人間はまたも無責任に噂する。曰く、
「援交に飽きて今度は年下の男をたぶらかそうとしている」
「騙して自分の借金を肩代わりさせようとしている」
「呪われた男を奴隷のように飼って女王様プレイにふけっている」等と。
どんな荒唐無稽な話も人を介しているうちに真実となっていく。それを【あの女】が意図的に広めているとすれば尚更だ。そして噂が奥村稜に伝われば、その原因となった阿川飛名子にはもう心を許さないだろう。そのことは阿川飛名子の心を折るのに十分だった。
(それならいっそ自分から話して奥村君の前から消えてしまおう。もう間違えるのは嫌だもの……ええ、最後くらい)