二十告目 滝村涼香 8
「まあいつかはこうなるとは思ってました。残念ですが」
浅里誠一が大仰に首を振る。その仕草が殊更に滝村涼香の感情を逆なでする。
「たかが遊びじゃないの! そのくらいどうにかしなさいよ!」
「そうはいきません。自殺とはいえ人が死んでいますから。警察も動いていますし。ああそう言えば、お嬢様は気がつかれませんでしたか」
「何のことよ?」
「石谷という刑事は手袋をしてハンカチを受け取ってましたよ。最近は布や紙からも指紋が採れるようになったらしいです」
浅里誠一はにこりともせずそう言った。滝村涼香はさっきの違和感に思い至る。
「今回はただの脅しみたいなものです。私が聞いたところでは、自殺の現場にあれと同じハンカチがお嬢様の名前が書かれた紙と一緒にあったということです。まあそちらは血まみれで指紋などは採れないとは思いますが」
それを聞いて滝村涼香は浅里誠一が柊修二の自殺の内容をほぼ掴んでいることを知る。
「何もなければそれはそれで構いません。ただこれ以上は困ります。先生は次の選挙で中央に打って出るつもりです。そのときにテレビやマスコミにこのことを嗅ぎ付けられては面倒です。そこは理解していただけますよね」
浅里誠一の目は冷ややかだ。滝村草介の孫、滝村穂香の娘といって庇うのはもう限界なのだろう。彼はもう滝村涼香の味方ではない。