十九告目 滝村涼香 7
その後も交友関係を中心に刑事たちの質問は小一時間ほど続いたが、滝村涼香が得られる情報はなかった。
「またお話を伺うかもしれません。その時はまたご協力をお願いします」
言い置いて刑事達は帰って行った。
玄関で2人を見送った滝村涼香に浅里誠一が話しかけてくる。
「お嬢様、ちょっとよろしいですか? 先生から大事な話を預かっています」
第一秘書を降りた今も、彼は滝村隆三のことを先生と呼ぶ。
1階奥の浅里誠一の仕事部屋で彼は滝村涼香に告げた。
「お嬢様には語学留学という形で外国に行ってもらいます。カナダに私の妹がおりますのでそちらが適当かと思いますが、他にご希望があればそれでも構いません」
「ちょっと待って! 突然そんなこと言われても……」
浅里誠一はいつも結論を先に言う。相手の考えや理解を量る癖だ。
「今回の件はいつもの悪ふざけをもみ消すようにはいきません。ほとぼりが冷めるまで姿を隠すように先生に言われております」
「何よ、その言い方! むかつくわね、私に面と向かうと何も言えないくせに!」
滝村隆三は入り婿だった。滝村穂香と結婚して滝村草介の選挙地盤を継いだ。しかし滝村穂香は滝村隆三を軽く見て家庭は幸せとは言えなかった。そんな母親の姿を見て育った滝村涼香の、父親に対する態度といえば推して知る所と言えるだろう。
同時に滝村穂香は滝村草介の血にこだわり、後継者となる男児を産むことに執着したが叶わず早世した。その後滝村隆三は日に日に母に似てくる滝村涼香から多忙を理由に距離を置くようになる。寂しさを紛らすための彼女の傍若無人な振る舞いは逆効果でしかなかったが、それを自制することは彼女にはもうできなくなっていた。