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3分読み切り短編集

敬意を込めて。

作者: 庵アルス

「なかなかいいセンスしてるじゃない」

 彼女の反応は、僕には意外だった。別に怒られたり罵られたかったわけではないが、とにかく僕はほっとした。

 職場の先輩へ、敬意を込めて贈った誕生日プレゼントが、気に入ってもらえたようだから。

「ありがとう」

 そう微笑む先輩の、なんと美しいこと。

 先輩の装いは、流行に疎い僕でもハッとするほど洗練されている。落ち着いた色合いを基調に、ビビットな差し色が目を惹くのだ。

 ずば抜けてスタイルがいいというわけでもないが、下品にならない程度に身体の曲線が出ており、女性らしい優美さが感じられる。

 仕事の手腕は素晴らしく、同僚から一目置かれている。殊に、新人は彼女に付ければ間違いなく育つとされるほどだ。

 かくいう僕も、彼女にしごかれて育ったクチである。

 僕が先輩の誕生日を知ったのは、ひと月以上前のことだ。なにかの折に先輩の同期が話しているのを聞いた。

 日頃お世話になっている先輩に、僕はなにかお礼を兼ねてプレゼントを贈りたかった。

 けれども、なにを贈ればいいやら見当がつかずに難儀した。デキる女性を絵に書いたような先輩は、なんでも持っていそうだし。

 結局、三日ほど前にデパートに飛び込んで彷徨った僕が決めたのは、アラーム機能が付いた置き時計。

 今の時代、スマートフォンがあれば目覚まし時計なんて必要ないが、僕は豪奢な見た目にこれだと確信した。

 厳かな金古美の色を纏い、繊細な花をあしらったフレーム。文字盤はシンプルながら、古地図のような色味。その中心に、控えめに座するターコイズ。

 中世のお姫様が持っていたと言われても信じられる。時間を忘れて魅入るほど、美しく置時計を作る必要があるのかとすら思うほどに。

「先輩、そういう色が好きなのかなと思って⋯⋯」

 シックだしオシャレだし⋯⋯、とごにょごにょ口の中で付け足す。

 デパートで見た際はこれ以外にないとまで思ったが、いざ渡すとなると取るに足らないのではないかと不安になった。

 しかし、先輩の笑顔は僕のちっぽけな感情を吹き飛ばすほど綺麗で。

「えぇ、とっても素敵ね。寝室で使わせてもらうわ」

「ありがとうございます!」

「ふふふ、もらったのはこっちなのに、あなたがお礼を言うの?」

「え、あっ、いや、その⋯⋯、喜んでくれてありがとうございますってことで」

「こちらこそ、ありがとう。それにしても⋯⋯」

 先輩は悪戯っぽく僕に笑いかける。

「これを見る度に、あなたのことを思い出すわね」

「⋯⋯え?」

「大切にするわ」

 ⋯⋯先輩は寝室に置くと言った。

 僕は顔から火が出る思いだった。

2021/01/22

身近な人の誕生日、ある月に集中しがちな気がします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一言目から先輩の美しさが想像できて拝読するのが楽しかったです! 顔から火が出そうになってる後輩くん…!選んだ甲斐があったね!よかったね!と思いました! そしてあとがきがあるあるで和みました…
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