敬意を込めて。
「なかなかいいセンスしてるじゃない」
彼女の反応は、僕には意外だった。別に怒られたり罵られたかったわけではないが、とにかく僕はほっとした。
職場の先輩へ、敬意を込めて贈った誕生日プレゼントが、気に入ってもらえたようだから。
「ありがとう」
そう微笑む先輩の、なんと美しいこと。
先輩の装いは、流行に疎い僕でもハッとするほど洗練されている。落ち着いた色合いを基調に、ビビットな差し色が目を惹くのだ。
ずば抜けてスタイルがいいというわけでもないが、下品にならない程度に身体の曲線が出ており、女性らしい優美さが感じられる。
仕事の手腕は素晴らしく、同僚から一目置かれている。殊に、新人は彼女に付ければ間違いなく育つとされるほどだ。
かくいう僕も、彼女にしごかれて育ったクチである。
僕が先輩の誕生日を知ったのは、ひと月以上前のことだ。なにかの折に先輩の同期が話しているのを聞いた。
日頃お世話になっている先輩に、僕はなにかお礼を兼ねてプレゼントを贈りたかった。
けれども、なにを贈ればいいやら見当がつかずに難儀した。デキる女性を絵に書いたような先輩は、なんでも持っていそうだし。
結局、三日ほど前にデパートに飛び込んで彷徨った僕が決めたのは、アラーム機能が付いた置き時計。
今の時代、スマートフォンがあれば目覚まし時計なんて必要ないが、僕は豪奢な見た目にこれだと確信した。
厳かな金古美の色を纏い、繊細な花をあしらったフレーム。文字盤はシンプルながら、古地図のような色味。その中心に、控えめに座するターコイズ。
中世のお姫様が持っていたと言われても信じられる。時間を忘れて魅入るほど、美しく置時計を作る必要があるのかとすら思うほどに。
「先輩、そういう色が好きなのかなと思って⋯⋯」
シックだしオシャレだし⋯⋯、とごにょごにょ口の中で付け足す。
デパートで見た際はこれ以外にないとまで思ったが、いざ渡すとなると取るに足らないのではないかと不安になった。
しかし、先輩の笑顔は僕のちっぽけな感情を吹き飛ばすほど綺麗で。
「えぇ、とっても素敵ね。寝室で使わせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
「ふふふ、もらったのはこっちなのに、あなたがお礼を言うの?」
「え、あっ、いや、その⋯⋯、喜んでくれてありがとうございますってことで」
「こちらこそ、ありがとう。それにしても⋯⋯」
先輩は悪戯っぽく僕に笑いかける。
「これを見る度に、あなたのことを思い出すわね」
「⋯⋯え?」
「大切にするわ」
⋯⋯先輩は寝室に置くと言った。
僕は顔から火が出る思いだった。
2021/01/22
身近な人の誕生日、ある月に集中しがちな気がします。