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第三十話:三国料理の食い倒れ祭り!(……やっぱりお茶会じゃなかった?!)


 ふた皿目は、ゾーゲンヴェクト辺境伯領のご当地クレープであるパラチンタです。中の具しだいでは主食にもなるんだって。


 フレデリック殿下たちのリクエストで、ゲオルグさまはケマルさまからちょっとケバブをわけてもらって、ヨーグルトソースをかけた肉入りパラチンタも即興で作ってました。

 ジャム入りのクルミチョコレートソースがけパラチンタは美味しいに決まってるけど、さきにそっちが食べたいな。


「すみません、わたしもお肉入ったパラチンタひとつください」

「ヴィカは食いしん坊ね。地元では、ハムを包むこともあるわ。ケバブ入りパラチンタって聞いたことはないけれど、きっと合うでしょうね」


 と、ジャム入りのパラチンタを召しあがっていたシモーヌ嬢がくすりと笑って教えてくれた。ハムかあ、それも美味しそうだなあ。


「どうぞ、エルゼヴィカさま」

「ありがとうございます。いただきまーす」


 ゲオルグさまからケバブパラチンタとジャムパラチンタをひとつずつもらって、さっそくケバブ入りからいきます。

 んんー、これも美味しい! さっきのピタと、クレープ生地の差、ザワークラウトとヨーグルトソースの差はあるけど、どちらも甲乙つけがたし。これはどう組み合わせてもうまいやつですよ。


 主食系はここまで。一度お茶で落ち着きまして、ジャム入りクルミチョコレートソースがけパラチンタをいただきましょう。


 中身はミックスベリージャムですね! またしても酸味、でもこれまでとは意味が違う、チョコレートソースの甘みが引き立つ! そしてクルミの歯ごたえと香ばしさ! わたしこれ、お肉入りとジャム入り、それぞれ毎食五枚ずつ食べられちゃいますよ!?

 ゾーゲンヴェクトに生まれてたら、わたしアザラシみたいに太ってたと思うんですけど。シモーヌ嬢はどうしてそんなに細身なんですか?


 追い討ちをかけるように、アップフェルシュトゥルーデルが切りわけられはじめた。……おっと、運ぶのやらなきゃ。すみません。


 薄い生地で包むお料理やお菓子が多いんですね、東のほうは。これも絶対美味しいやつですよ。わたしがそもそもりんご大好きだし。主催だからって自重してられるかー、お皿配りましたよ? いただきまーす!


 ――ああー。外はさくっと中はしっとり、りんごに少し歯ごたえが残ってるのがすばらしい! だめです、わたしこれ切りわける前の状態で一本丸々いけます。


 さらにディルフィナ嬢のマロンロールケーキ。わたしは準備中につまみ食いさせてもらったけど、これには、お菓子よりお肉がお好みの男性陣も感歎の声をあげた。マロングラッセってそもそも貴賓向けの一品だから、食べつけてはいるでしょうけど、ここまで美味しくなるとはちょっと予想しがたいですよね。 


 シモーヌ嬢も、これはやられた、って顔をしてる。


「マルガレーテさま、うちのゲオルグに、ディルフィナ嬢からこれの作りかたを教えていただけないかしら?」

「おそらくですが、もうお伝えしていると思いますわ。わたくしは、今度ディルフィナにアップフェルシュトゥルーデルを作らせると決めました」

「そういえば、フェリクヴァーヘン侯領はりんごの名産地でしたわね。わがゾーゲンヴェクト領には、良質な栗を産する山がありますの。特上のマロングラッセをお届けしますわ」

「ありがたいお心遣い、痛み入りますわ。秋が深まりましたら、最高のりんごをお贈りさせていただきます」


 ……お、なんかいい感じの雰囲気になってる。マルガレーテ嬢とシモーヌ嬢が仲良くなってくれるといいな。

 特上のマロングラッセを使ってディルフィナ嬢が作ったマロンロールケーキと、最高のりんごを使ってゲオルグさまが作ったアップフェルシュトゥルーデル、ぜひ食べたいですね。


 お茶会のメニューはまだまだつづきます。マカロンとブランマンジェに、シュトゥラチの登場です。マカロンとブランマンジェはレッセデリアではお茶会の定番だけど、それだけに違いがはっきり出るんですよ。


「……こんなうまいマカロン、王宮でしか食ったことないんだけど」

「いや、王宮で出てきたやつよりうまいんじゃないか?」


 ダグラス王子のご学友がたが、そんなことをいいながらひょいひょい食べている。そうでしょう、絶品でしょう? いやわたしが作ったわけじゃないんだから、おまえがドヤるなって話ですけど。


 今度はマルガレーテ嬢が感歎の吐息をついている。


「こんなに美味しいブランマンジェを食べたの、はじめてですわ。これを毎日食べられるだなんて、うらやましいですわ、シモーヌさま」

「さっきゲオルグが、今日はディルフィナ嬢と一緒に作ったといっていましたわ。明日からは、同じものを彼女も作れるようになったのではないかしら」

「アップフェルシュトゥルーデルやパラチンタと、どちらを先に作らせるか、迷ってしまいますわ」


 よしよし、計画どおりだぞ。やっぱり女子が親睦を深める鍵はスイーツですよね。


 それはそうとして、シュトゥラチ美味しい! プティングの一種って話だけど、またちょっと別感触。ライスの粒がほんのり残ってて、そのもちっとした食感と、くどくない甘みが、焦がしてある表面のカラメルとシナモンの香ばしさによく合ってる。ライスがあれば、これならわたしでも作れるかも。今度試してみよう。


 ケマルさまがケバブのかまどの炭火を消そうとしたところで、アップフェルシュトゥルーデルを切りわけて以降会場から席を外していたゲオルグさまが戻ってきた。ケバブの鉄串よりは太いけど、やっぱり長細い、鉄か銅でできた棒を持っている。


「片づけてしまう前に、かまどを使わせていただいてもよろしいですか?」

「もちろん。それを焼くんですか?」

「クルトーシュカラーチといいます。煙突ケーキという程度の意味ですね。ふつうは、縦型のかまどを使ったりはしませんが」


 ゲオルグさまが持っている棒には、細く引き延ばされた生地がらせん状に巻きつけられていた。なるほど、お肉とケーキ生地の差はあれど、回しながら焼きあげる発想は同じだ。


 あずま家の中や周囲でご歓談をしていたみなさんが、ふたたび長いかまどの周りに集まってきた。……クルトーシュカラーチが焼けるにはしばらくかかるでしょうね。よし、ここでわたしの準備していた出しものを披露しよう!


「みなさま、焼けるのを待っているあいだに、わたしが余興をかねてもう一品メニューをご提供します」

「お、エルゼヴィカ嬢も用意をしてたのか。ディルフィナ嬢たちをうまく使って、プロデュース能力を披露して終わりかと思ってた」


 フレデリック殿下が軽く茶化してくれた。くすくすと笑い声があがる。まあ、ここまで美味しいものがそろってたら、わたしはほんとになにもしなくてよかったかもしれませんが。


 そうはいっても、いちおう主催ですからね。味はともかく、インパクトはあるはず!




食べ物のこと書いてるとお腹が減ってきます。

この点に関して作者とエルは完全に似たものどうしです。

作者はエルみたいに善い子じゃない不埒千万な輩ですけどね!


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