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第三話:令嬢ぞくぞく登場!(……憶えきれない予感)


 きょろきょろしていたわたしへ、向こうから声をかけてきてくれる人がいた。われながら目立つ外見は、こういうときは便利だ。逆に、こっそり行動したいときは、この上もないペナルティになるが。


 振り返ってみると、肩まで伸びたくせのないダークブロンドで、はしばみ色の目に眼鏡をかけた女の子が立っていた。クラウディア嬢ではない。彼女もお茶会の参加者で、たぶん、わたしがフラフラしているのが遠くからでも見えたのだろう。


「はい、エルゼヴィカ=レキュアーズです。このたびは、ご招待ありがとうございます」

「わたしはカザリーン・メシェ=ル・クォールともうしますわ。よろしくね」

「お初にお目にかかります、カザリーンさま。わたしのことはエルとでもお呼びください」

「エルね。わたしはキャスでいいわ」

「クォール子爵家のご令嬢にそのような無礼、畏れ多いことですわ」

「子爵といっても、金銭で(あがな)ってまだ三代たっていない成りあがり。格はそちらのほうが高いのよ、レキュアーズ男爵令嬢エルゼヴィカさま」

「わたしは……拾ってもらえただけの、卑賎の身ですから」


 ……なんて、疲れる会話。しんどいなあ、これだから貴族は肩がこる。


 わたしが目を伏した理由を違う風にとらえたようで、カザリーン嬢はふんわり笑ってこちらの手を両手で取った。笑顔同様、手のひらも柔らかい。

 わたしの手はけっこう筋張っている上に、錬金実験をよくやっているから肌もガサガサだ。


「みなさまお待ちかねよ、いきましょう」

「あ、はい」


 カザリーン嬢に引っ張られるまま、あずま家のひとつへ。池のほとりに建っている、青い柱が六角形をかたち作っている小屋だ。いや、あずま家とか小屋と形容するには立派な造りで、柱の張り出しはほぼ壁といっていい。あずま家というには規格ギリギリなような。

 それでもすき間が多いことは多いので、近づいてくるわたしたちに気づいて中から人が出てきた。女性が三名、男性が二名。


 わたしを招待してくれた、サンローム男爵令嬢クラウディアさまが進み出てきた。深い水色の目で、亜麻色の長い髪を三つ編みでまとめている。こちらも眼鏡女子。


「よかった、きていただけて。お待ちしていましたわ、レキュアーズ男爵ご令嬢エルゼヴィカさま」

「すみません、まだ荷解きが終わっていないので、着るものを探すのに時間がかかってしまって」

「あ……そうよね。入学初日そうそうにお呼びたてしまって、ご迷惑だったかしら」


 おーっと、いらない地雷踏んだぞわたし。遅れたイイワケにするにはふさわしくない口実だったな、いまのは。前々から入学が決まっていたみなさんと違って、わたしが荷物とともに寮へやってきたのは昨日の朝。だから、なんにも片づいてないっていうのは事実なんだけど。


「とんでもない! 急に決まった入学でしたから、知っている人とかだれもいなくて。クラウディアさまにお誘いいただいて、心細さが軽くなりました、ほんとうに」


 われながら白々しいセリフが出てきた。でもまあ、あながち心にもなくはない。サラとさえ話せれば、ぼっち学園生活でも苦にはならないけど、友人どころか知り合いすらひとりもいないままで卒業したら、さすがに両親が心配し、かつ残念がるだろう。

 わがレキュアーズ家をわたしの代で断絶させるわけにはいかない。拾ってもらったのだから、そのくらいの恩返しはしなければならないとわかっている。


 入り婿候補なり、養子に出せる三男坊四男坊を弟にお持ちの名家次期当主の知遇なりを、見つけなければ。


「ふふ……とてもかわいらしいかただとクラウディアさまからうかがっていましたけれど、本当にお人形さんみたい」


 クラウディア嬢の右手に立っていらしたご令嬢が、そういってわたしをしげしげと視線で撫でまわす。はいはい、こういうのは馴れてますだいじょうぶ。わたしは珍獣ですよ。変わった毛色でしょ?

 なんなら一回転しましょうか、と思ったところで、彼女は視線をわたしの目に合わせてほほえんだ。


「わたくし、シモーヌ・イヴェレッタ=ラ・ゾーゲンヴェクトともうしますわ。お友だちになってね、エルゼヴィカ嬢」

「わたしのことはエルとでもお呼びください。よろしくおねがいします、ゾーゲンヴェクト辺境伯ご令嬢シモーヌさま」


 意外な大物出てきた。ゾーゲンヴェクト辺境伯といったら、東方国境守護職。国内で最強の兵備を擁する大貴族だ。フェリクヴァーヘン侯爵とはたしか不仲……。親世代の確執は、高等学院内には無縁というのが建前ではあるけど。


「姓名を聞くだけで爵位がすぐに出てくるなんて、お詳しいのね」

「ここへの入学が決まって、大急ぎで憶えました」


 これは本当です。王侯貴族のお名前なんて、以前はさっぱり興味なかった。第二王子に名乗られて気づかなかったくらいですからね!


 つやつやのストレートロングの髪も、濡れたような瞳も、どちらも漆黒で、オリエンタルの神秘をどことなく感じさせるシモーヌ嬢は、つい、と肩をすくめた。


「如才のない子ね」


 ……ちょっとふくみを感じましたね。かわいげがないといわれた? でも、地金の平常運転なわたしだともっとまずそうだしなあ。


 一瞬の沈黙は、すぐに破られた。


「わたしは、セティ・リーズ=ル・ラングデルトといいます! エルゼヴィカさま……ヴィカって呼んでいい?」


 待ちかねていた、といった感じで、クラウディア嬢の左にひかえていたご令嬢が勢い込んでそういいながら、わたしの右手を取る。なかなかのノーマナー、でも、むしろ気軽でいい。


「ラングデルト子爵ご令嬢セティさまですね。わたしのことはどうぞ、お呼びしやすいように。あまり突拍子のないあだ名をつけていただいても、反応できませんけど」


 エルでもヴィカでも、自分が呼ばれてるとわかれば問題なしです。わたしを「モントレーガチャ目金魚」と呼んでくる人がいたけど、何度いわれても自分のことだと思えなかったんですよね。


「わたしはセティとしか呼ばれようがないから、おしゃれなお名前のかたに憧れちゃうの」


 そういうセティ嬢は、琥珀色の髪をゆるい縦ロールにしていて、眼は翠。お召しものも流行りのモードで、とてもおしゃれだと思います。わたしみたいに浮くほど奇抜な見てくれでもないし。


 それにしても、家格はゾーゲンヴェクト辺境伯が高いけど、この集まりの中心はクラウディア嬢みたい。残る男性陣おふたりは、どういうかたなのだろうか。




最近長いタイトルばっかりリリースしている私ですが、略称をうまいこと考えつかず悩んでいました。

今回は「ごきピン」とか「ご淫ピ」とか「ごいピン」とか「ごき淫」とか、いくらかパターンありそうですね。

「ごきピン」の語呂がすごいいいんですけど、なんか、人類の敵たる黒いアイツが脳裏をよぎります…。

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