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第二十九話:これは……お茶会?(わたしが主催するお茶会はこうなの!)


 わたしが王立高等学園へやってきて、はじめての休講日。そして初の主催お茶会当日だ。


 早朝から「君といと(まみ)えし泡沫(うたかた)夢殿(ベルヴェデール)」で、ディルフィナ嬢と、ゲオルグさま、ケマルさまと一緒に準備の追い込みをする。

 ――といっても、わたしは会場に椅子とテーブルをセッティングしたり、お花を飾ったりする程度で、あとは間抜けが関与しても大失敗しない部分でお菓子や軽食作りを手伝うくらい。


 ディルフィナ嬢は、キュウリのサンドウィッチとマカロンという、お茶会の標準メニューのほかに、マロンクリームのロールケーキを作ってくれた。マロングラッセも入っていて、とてつもなく美味しそう!

 ……あまりに我慢できなかったので、生地にクリームを挟んで巻きあげ、切りわけたときにしっぽの部分をつまみ食いさせてもらいました。クリーム部分は甘さひかえめなんだけど、そのぶんだけマロングラッセの濃密な甘みが引き立つ! これは、なんと形容すれば……ああだめだ、美味しすぎて語彙が死んだ。

 すみません、べちょっとならないように、キュウリとパンはまだ合体させてないですから、サンドイッチにする作業はわたしがやります。


 ゲオルグさまは、ディルフィナ嬢と一緒にまずブランマンジェを作った。これは、一昨日いただきました。美味しかったです。

 あらかじめ作って持ってきてくれたのが、アップフェルシュトゥルーデル。いわゆるりんごパイのゾーゲンヴェクト領バージョンですね。これもすごい美味しそうだけど、まだ切りわけられてないので我慢します。

 ディルフィナ嬢がロールケーキを作っているときにゲオルグさまが取りかかっていたのが、クレープ生地を焼いて、それでジャムを包み、クルミとチョコレートのソースを上からかける、という、これまた美味しそうなメニュー。パラチンタというそうです。は、早く食べたい……。


 ケマルさまは、表に組んだ長いかまどで、ケバブを焼いていた。お肉は羊だそうで。長い鉄串を回転させながら火にあてて、表面が焼けたらナイフで削ぎ落とし、さらに中を焼いていく――ものすごくいい匂いが漂ってます。ていうか、丘の下に人だかりができてる……。お茶会で肉焼きはじめるって、前代未聞のことかもしれないですね。

 ケバブのほかに、ケマルさまはシュトゥラチというプティングを持ってきてくれていた。ライスが入ってるんですって。どんな味なのかな?


 お茶会開始まであと五分。丘をあがって、シモーヌ嬢とクラウディア嬢、カザリーン嬢、セティ嬢がやってきた。

 準備が間に合わなかったわけじゃないですよ。ケバブが焼けていくところは見ていて面白いから、デモンストレーションとしてあえてやってるんです。


 デモンストレーションといえば、わたしもアレの準備をしなければ。主催としてのごあいさつは、みなさまがそろってからするとして、ディルフィナ嬢とゲオルグさまに出迎えを頼んで、わたしは昨日制作した例の装置を引っ張り出しに向かった。


 円筒形の装置の底に収まっているサラの、ちょっとくぐもった声が聞こえてくる。


「……お、出番か?」

「みなさまがあらかたお料理やお菓子を食べてからにするから、まだ準備だけ。これは軽いから、お腹いっぱいでも食べられるし」

「そうか。悪役令嬢の挙動に注意しろよ」

「わかってる」


 サラがひと晩かけて調査した結果、マルガレーテ嬢の過去に、生命に関わるような事件や事故の気配はなかった。彼女は幼いころ特別な資質を示していたが、ある日を境にそれが失われた、というようなこともなかった。ただ……マルガレーテ嬢は六歳のころ、一度、鏡を見てひどくおどろいたことがあったという。


「この顔――マルガレーテ……わたくしが……?」


 その声を聞いたのは、当時侯爵令嬢の侍女だったメイドふたりだけ。いまはフェリクヴァーヘン侯家本邸の家政婦長になっている、アマーリエ=ヘイスティングが、日誌に書き残していた。以降、マルガレーテ嬢は、さまざまな書物や、語学へ強い興味を示すようになったのだという。


 ……言霊を使い走りにして、王都を遠く離れたフェリクヴァーヘン侯領の使用人たちの記録や記憶を掘り返してくるって、四大精霊の調査能力が気持ち悪いレベルなんですけど。


 むかしの夢を見るのは、耳や鼻の穴から入ってきた言霊が過去の記憶を探ってるせいかもしれないって、おちおち寝るのも怖いわ。


「並の精霊にそんなマネはできないし、おまえにだれかが放ってきた言霊は近寄らせない」


 ってサラはいってるけど。


 ――台車に乗せっぱなしの装置をケマルさまのかまどのほうへ押していったら、もうみなさまおそろいになっていた。マルガレーテ嬢にダグラス王子と、フレデリック殿下たちご学友四名さま、ユフード皇子も到着している。

 香ばしい匂いがそこら中に漂っているから、お肉を焼いているのは近寄ってくるだけでわかっただろうけど、ユフード殿下以外にとってはケバブを炙っている光景ははじめてのはず。案の定、みなさん長いかまどと、剣のような鉄串に刺されて、回転しながら炙られている羊肉に見入っている。


 台車をがたがたいわせながらお茶会の主催者が登場するというのも、きっとこの学院はじまって以来、初のことだろう。


「みなさま、ようこそお越しくださいました。お茶会として作法が正しいのかどうか、ちょっと自信がありませんけれど、ディルフィナさま、ケマルさま、ゲオルグさまのご協力で、美味しいものがそろったことだけは間違いありませんから、ぜひ楽しんでいってください」

「いいね、お茶会って肉や魚がまったくないわけじゃないけど、たいていもの足りないんだよな。会場で直接焼いて出してくれるって、これ、今後定番にしたほうがいいんじゃないの?」


 わたしのつたないあいさつに対し、フレデリック殿下がうまく口火を切ってくれた。ユフード皇子が、ケマルさまの仕事ぶりを手で示しながら、


「ケバブはペルガモンの名物料理ですよ。肉料理はだいたいなんでもケバブというのですが、海洋交易がさかんになってからは、とくにこの大串焼きのことがケバブと呼ばれるようになったんです」


 と説明する。ほうほう、そうだったんですね。


 ――さあて、ケバブもどんどん焼けてるし、さっそくはじめますか。


 わたしとディルフィナ嬢、ゲオルグさまで手わけして、キュウリのサンドイッチをお皿に乗せる。そのとなりに、ピタという丸パンの真ん中に切れ目を入れて袋状にしたものに、焼きあがったケバブと刻んだザワークラウトを詰めたものを、ケマルさまが追加。今日のひと皿目は、多国籍サンドイッチセットだ!


 ペルガモンではヨーグルトソースや酢で味つけした刻み野菜をトッピングにするのだそうで、それならザワークラウトが合うんじゃないかとディルフィナ嬢とゲオルグさまがアイデアを出したんだって。お三かたは試作品を味見しているけど、わたしはまだなのでとても楽しみです。

 みなさまにお皿が行き渡ったところで、いただきましょう!


 ――ぱく。……おおっ!!


 スパイスが利いてて臭みをまったく感じさせないマトンの重厚な旨味! これはラム肉だったら出せない味の深みだわ。さらにザワークラウトの酸味が絶妙! ピタに包むことで、ケバブと刻みザワークラウトが同時にお口に入ってくるのが完璧なバランスを実現してますね!

 これすっごい美味しい! あと三個はいける。主催だから自分だけ食べてるわけにはいかないけど。


 お口の中が肉々しさとスパイシーさと酸味で大爆発してるところを、いつものそっけないお味のキュウリサンドがいい感じにクールダウンさせてくれますね。この先は繊細なお味のお菓子がつづくから、スパイス漬けになった舌を一度休ませてくれるのは図らずも有効でした。


「こりゃ美味いな」

「このお肉、なんのお肉ですの?」

「羊ですよ、マトン」

「羊って、ラム肉じゃないと食べられたものじゃないと思っていましたわ……」


 みなさま口の機能を九割食べるほうに振り向けて、会話は最小限。いいんですこれで。

 まだまだ美味しいものはつづきますからねー!


 ……え? お茶会どこいったって? 気にしない、気にしない。




お茶会メニューはあまり時代考証に忠実ではありません。美味しそうだな…というエルと同じ発想での選択です。


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