第二十一話:開こうお茶会!(……あ、主催したことないや)
思い立ったら即実行。まず手はじめに、お役目に戻るディルフィナ嬢へ、彼女とマルガレーテ嬢のぶんの招待状をたくした。なお、開催場所は空欄のまま。あずま家の貸し出し申請したら、一度返してもらって書き加えます。
おふたりのほかにお茶会にお呼びするべきなのは、シモーヌ嬢とゲオルグさまと、クラウディア嬢とカザリーン嬢とセティ嬢と、ユフード皇子とケマルさまに、ダグラス王子。……王子のご学友四名さまはどうしよう? 明日冶金学の講義があるから、そのとき訊けばいいか。
よーしやるぞ、と、サラに意気揚々とお茶会を開いて親睦を深める構想を語ったところ、あきれ声が返ってきた。
「よくもまあ、そんなめんどくさいことをやる気になるな」
「だって、争う価値もないのにわたしが不和の原因になってるって、いやだもの」
「悪役令嬢にしろ、ダグ公にしろ、ユフードの坊主にしろ、黒髪ロングにしろ、エルの相棒がおいらだからすり寄ってきてるだけだ」
そういうサラをひょいと持ちあげ、抱き枕代わりにして一緒にベッドへ飛び込む。あー、さわり心地いいなあ。ぬいぐるみとしては自分で作ったものだけど、サラが中に入っていて自律して動くから感覚的にはかなりペットに近い。犬や猫とちがって、苦しくしないように気を使わなくていいから思いっきり抱きしめられるし。
「だからこそよ。サラの威が借りられるうちに、いろいろやっておかなきゃ。サラがいなくなったら、マルガレーテさまもシモーヌさまもダグラス殿下も、わたしのことなんか気にも留めなくなるだろうし、ユフード殿下に怪我させた罪で縛り首にされちゃう」
「なんだ、悪役令嬢の看板でも掲げるつもりか?」
「悪役令嬢って、べつに自称するものじゃないものね。実際にマルガレーテさまとお話ししたら、悪役感ぜんぜんなかったし。たしかに『悪役令嬢エルゼヴィカ』って、他人さまからうしろ指差されるようになってもおかしくないかも。四大精霊が相棒なのをいいことに、男爵家の小娘が侯爵ご令嬢や辺境伯ご令嬢と対等面して、ペルガモン帝国の皇子さまから婚約の申し込みをされるとか」
こうして並べてみると、マルガレーテ嬢よりわたしのほうが悪役令嬢度高いんじゃなかろうか。男爵家じゃちょっと小物感がありますが。むしろ頼りの柱一本崩れたらおしまいなあたり、やられ役としてはぴったりですかね。
サラがわたしの両脚に押さえ込まれているしっぽを、ぴくぴくと動かす。
「やるか? 悪役令嬢とその相棒。――わたくし、三カラット以下の宝石は受けつけませんの、おほほほほ」
「……それじゃわたしと合わせて、タダの食い意地張った暴食コンビだから」
「悪役令嬢たるもの、背負うべき業は暴食じゃなく傲慢であるべきだって? そうすると、おまえは失格だな、エル」
「サラまでやめてよ、シモーヌさまと同じこと。そっかー、わたしって謙虚で遠慮深いんだ、って、勘違いしちゃうじゃない。わたしは毎日美味しいものを、うしろ暗く思う必要なく食べたいだけ」
「さしずめ悪食令嬢だな」
「……そうだね」
とりあえず、このダッサい称号が広まってしまわないように気をつけよう。悪食令嬢エルゼヴィカ――事実なだけに困ります。
+++++
明くる朝、ちょっと早く食堂へモーニングをいただきに入ったら、クラウディア嬢とカザリーン嬢がいらした。さっそく招待状を渡して、お茶会を開くためにあずま家を借りる手順について質問させてもらう。
入学初日にいきなりお茶会を開いていただけあって、クラウディア嬢がすぐ答えてくれた。
「生徒会の施設委員に、必要事項を記入した申請書を出すだけですわ。使いたい日に空いているあずま家を選ばせてもらえます」
「ダグラス殿下とユフード皇子をお呼びするなら、一等地じゃないとだめですよね。……どれが格式高いあずま家なんでしょうか?」
「わたくしたちがこの前使った『蜻蛉のいとつどいし穹窿』で充分ですけれど、格式だけなら『君といと瞥えし泡沫の夢殿』のほうが上ですわね。ただ、あのあずま家すごく人気ありますから、なかなか借りられないようですが」
「……なるほど」
――あずま家に命名した人、いったいだれなんですか? ものすごいセンスしてますね……。
それはともあれ、今日も朝ご飯美味しいです。焼きたてのパンとぱりぱりベーコン、熱々チーズの乗ったスモークサーモン、サラダに玉子のスープ、そして果物とヨーグルト。
正直、三年間といわずずっと毎食いただきたい。講師になるのもアリですかね? でも一流じゃないとお呼びでないか。わたしでも講師になれる科目ってなんだろう……。
「お茶とか、食べものの準備はどうなさるの?」
わたしはお茶会を開いたことがないだろうと察して、カザリーン嬢が訊ねてきてくれた。いちおう、それに関しては考えがあるんです。
「ディルフィナさまと、ケマルさまと、ゲオルグさまにお手伝いをおねがいしたいな、って思ってます。みなさん、高貴なかたの唯一の従者として、お料理やお茶淹れをマスターなさってますから。それと、たぶんみなさまにお手伝いしてもらえば、各地の名物料理がそろえられるんじゃないかな、って」
「面白そうね」
でしょ? まあ、半分は自分の食い気から出た発想ですけど。レッセデリアの定番と、ペルガモンのちょっと変わったメニューと、あとたぶん、ゲオルグさまがゾーゲンヴェクト辺境伯領の郷土料理を仕込まれてるだろうから、オリエンタルな雰囲気のエキゾチックなものを作ってくれるはず。うーん、考えるだけで美味しそう。
我欲でほおがゆるんでいるわたしの笑顔を、今日も好意的に解釈したらしいクラウディア嬢は、食べ終わった食器をまとめてこういってくれた。
「では、さっそくあずま家を借りる申請へまいりましょう。一時限目がはじまる前なら、生徒会室にどなたかいらっしゃるはずですわ」
「一緒にきてくれるんですか? 助かります」
初日のオリエンテーションで聞いたような気はするけど、生徒会室がどこだか、そういえばわかりません。
「わたくしたちもお手伝いしますわ」
「ありがたいですけど、クラウディアさまとカザリーンさまたちには、びっくりしてほしいかな。準備は見ないで、開始時間にきていただきたいかも」
「そうですか? それでは楽しみに待たせていただきますわ。まずは、あずま家を押さえてしまいましょう」
「クラウディアさまにお訊きしてよかった」
クラウディア嬢が生徒会室へ一緒にきてくれるってことで、わたしは正直にほっとしていたのだけど、彼女がなにかいいたげな視線でこちらを見てきたので、空のお皿をまとめる手が止まった。……はい?
「ヴィカ、わたくしのことはクララって呼んで」
「そういえば、わたしもキャスって呼んでもらえてないな、ヴィカ」
と、カザリーン嬢もわざとらしくほっぺをふくらませる。
「生徒会室にひとりで行くの、ちょっと怖そうだったから、クララとキャスのこと頼りにするわ」
いつの間にやら、シモーヌ嬢派はわたしを「ヴィカ」と呼称することにしたらしい。みんなと仲良くなって、みんなにも仲良くなってもらう……一歩前進の反面、なんか課題も見えてきたなあ。
今週中は多分このくらいの時間、午前中のどこかで更新です。
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