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第十六話:覇道令嬢シモーヌ!?(これ、悪役令嬢よりやばくないですか……)

今回、なんだかめんどくさそうな話をしていますが、あくまで背景なので本編に影響はおよぼしません。

くだくだしい部分は読み飛ばして忘れてしまって大丈夫ですよ。


 さて、わたしは吹けば飛ぶ木っ端男爵家の小娘です。フェリクヴァーヘン侯爵か、ゾーゲンヴェクト辺境伯か、と二択を迫られたって、はいはいと素直に答えるわけにはいかないんですよね。


「わたしは、少なくともあと九年半サラを連れています。場合によっては、そのあともまた十年。シモーヌさまが、現在の辺境伯の地位よりさらに上を目指されるのなら、わたしは遠くのペルガモンにいたほうが都合がよろしいのではありませんか? 仮に、わたしがマルガレーテさまからダグラス殿下を奪って、第二王子妃に納まったとしましょう。その場合、ゾーゲンヴェクト家の勢力拡大や、領邦独立の企図に対し、ダグラス殿下はわたしを通じてサラの力を使い、対抗なさろうとするはず」

「……あなた、ものすごく頭が回るわね」


 真顔で感心されてしまった。もうちょっと、頭の中までピンク色だと思ってもらっておいたほうがよかったかもしれない。


 シモーヌ嬢が、卓上のベルを鳴らした。

 すぐさまゲオルグさまが、お茶のお代わりと、フルーツが乗ったお皿を持ってきてくれる。ふたつに切られている……なにこれ? メロン――じゃない。


「食べてごらんなさい」

「いただきます」


 わたしの辞書に、食べものを目の前にして我慢するという文字はない。賽の目状に切れ目が入れてある果肉へスプーンを入れ――よく熟れたメロンみたいに簡単にすくえる――ぱく。

 こ、これは……!


 濃密でクリーミーな甘みが舌にからみつく。それでいながらしつこく残らない。胃の腑へ下っていくのどごしまでも、なんというか――官能的。すごいなにこれホントに果物? ……もうちょっと大きいかたまりで食べたいです。お上品に賽の目切りしてあるやつじゃなくて、ふたつに割っただけのをいただけないでしょうか?


「……お、美味しいです」

「南国のフルーツよ。パパイア。ああ、ますますペルガモンに行きたくなっちゃうかもしれないわね、あなた」


 と、シモーヌさまは微苦笑なさった。

 たしかに、ユフード皇子を選んでペルガモンへは行かず、マルガレーテ嬢からダグラス王子を奪えといっているお人が、食べものに目のない卑しい系令嬢に与えるフルーツではないと思います。


「ペルガモンに行くと、これがりんご並みに手軽に食べられちゃうんですか……?」


 わたしの顔は八割がた本気だったと思う。微苦笑をはっきりした苦笑へ変え、シモーヌ嬢は声色をあらためた。


「あなたの最前の疑問にお答えするわ、ヴィカ」

「……なんでしたっけ?」

「わたくしの()()からすれば、あなたをけしかけてダグラス殿下を狙わせるのは理にかなわないのではないか、という点についてよ」


 わーお。はっきりおっしゃいましたね。野心。正直もうしあげて、聞きたくないんですけど……これがパパイア代ですか? 高くついたなあ。


「少なくとも、わたしじゃマルガレーテさまに勝てませんよ、魅力の面で」

「身も蓋もないいいかただけれど、ろくな使い魔(ファミリア)を連れていない絶世の美女と、四大を従えている醜女とでは、勝負にならないわ。まして、あなたはとても可愛いもの。たしかに、殿がたの好む女性像には、マルガレーテ嬢のほうが近いかもしれない。でも、彼女が上の中の精霊を呼び出した程度では、あなたの圧倒的優位は変わらないわ」

「……すみません、話がちょっと、こんがらがってきました」

「ごめんなさい、答えるといった疑問をほったらかしにしてしまったわね。あなたにユフード殿下を選んでもらうと、わたくしが困る理由というのは、ペルガモンもまた、カガンの勢力とにらみ合っているからなの」

「そうだったんですか」


 うわあ、朝にきゅーてーせーじの話で頭を抱えたと思ったら、今度は国際じょーせーですよ。マルガレーテ嬢もシモーヌ嬢も、よくそんなややっこしいこと考えてられますねえ。大貴族さまはそういう(まつ)りごとの機微ってやつを意識しながら生きていくように、しつけられて育つんでしょうけど。


「勢力伸張こそ食い止められ、大カガンの死後分裂したとはいえ、各カガン国の軍勢はいまだ恐るべき脅威よ。だからこそわがゾーゲンヴェクトは、レッセデリアで最大、最精鋭の兵備を整えている。ペルガモンの北部国境も、常に戦時の備えを怠ることができない」

「それで、もしわたしがユフード殿下の求婚を受け入れると、どうなっちゃうんでしょうか?」

「ユフード殿下を担いでいる教導イマーム派は、ペルガモン内部で改革を目論んでいる。ユフード殿下ご自身は教主カリフ派に弾圧されている教導派へ同情を寄せているおつもりのようだけど、実際には利用されているだけだわ。ユフード殿下は自身の無力を自覚していたから、見聞を広め、同時に故郷の政争から一時距離を取るために、このレッセデリアへ留学してきたのだけれど、あなたと出会ってしまった。サラマンダーを擁するあなたを妻に、祖国へ凱旋すれば、うまくいくかもしれないとお考えになったというわけ」

「えーっと……すみません、よくわからないです」

「サラマンダーを連れて行けば、ユフード殿下はペルガモンで三本の指に入る実力者にはなれるわ。それでも、改革を断行しようとするなら、内戦は避けられない。南のペルガモンが乱れれば、カガンたちの注意はそちらへ逸れる。まず間違いなく、ペルガモン内の各勢力は、個別のカガン継承国とそれぞれ同盟を結んだ上で相争うようになるでしょう。われらがレッセデリアの東方国境へかかる圧力は、大幅に低下することになる」


 それって、レッセデリアの立場だけで考えれば、都合がいいのでは? ……と思ったところで、シモーヌ嬢の話の意味がわかってしまった。やだなもう、わたしは頭ピンクのアホの子なんですってば。

 しらんぷりしてちゃだめですか……だめですね。気がついてないふりしても、どうせシモーヌ嬢が全部解説しちゃうわこれは。


「東方有事の危険が後退したことを理由に、ゾーゲンヴェクト辺境伯の権限を削減しようと考えているかたがいる……」

「大正解。ヴィカ、あなたとっても賢いわ。わたくし、頭も顔も良い女の子、大好き」

「恐縮です」


 白磁のような肌と漆黒の髪と眼、たまらなくエキゾチックな美女――そう、シモーヌ嬢は美()()じゃないのだ、もっとオトナに見える――に「大好き」っていわれるのは悪い気分じゃない。……なんだけど、シモーヌ嬢、ビスクドールみたいというにはあまりにも生々しいんですよね、表情が。


「カガンの鉄騎軍団が最初に攻め込んできたとき、王は恐怖のあまり、ヴァーツラフにすべての兵権を委ねた。だれも、ヴァーツラフが生きて帰ってくるとは思っていなかったから、全権委任に異議は差し挟まれなかった。レッセデリアの盾となる誓いを立てたヴァーツラフは、ベヒーモスとの契約に成功し、カガンの軍勢を退けた。その後、ヴァーツラフは統帥権はカガンの脅威に対してのみ用いると表明し、腰抜けどもを安堵させてやった。……ところが、恩知らずの中に、カガンの脅威が消えるなら、兵権もまた返上されるべきだと主張している輩がいる」


 偉大なる父祖の事跡を謳いあげるシモーヌ嬢の声には、陶然たる響きがあった。軍神にして四大を従えしヴァーツラフに心酔すると同時に、自分自身と重ね合わせている。

 尊敬の対象であり、これから自らが歩む道のお手本でもあり、しかし詰めが甘かったご先祖さま、か。わたしにはわからない感覚。


「ゾーゲンヴェクト辺境伯に対して統帥権の返上を求めているのが、フェリクヴァーヘン侯爵閣下なんですか?」


 わたしがそう訊ねると、シモーヌ嬢の双眸が鋭く輝いた。


「そのとおりよ、可愛いヴィカ。わたくしは、あの恩知らずを赦さない。その娘もね」




私はこういうのをついつい書いちゃうんですよねえ。悪いクセですが止められませんし止める気もありません(オイ)。


本筋のお話はちゃんと進みます。ブックマーク登録をしていただくと嬉しいです。

しっかり決着つくんで、評価は最後まで読んでからでも充分ですよ!

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