第一話:遭遇!悪役令嬢(開口一番なんですかそのごあいさつは?!)
婚約破棄モノから始めたシリーズ(https://ncode.syosetu.com/s9377f/)書くの楽しかったので、今度は悪役令嬢でいきます。
「あら……ごきげんよう、淫乱ピンクさん」
これが、彼女からわたしへの第一声だった。
すべての予想をはずされ、わたしは間抜け面で立ち尽くすことしかできなかった。彼女――マルガレーテ・レナータ=ラ・フェリクヴァーヘンが、入学初日に絡んでくるだろうというところまではわかっていたのに。
凍結魔法でも食らったかのように固まっているわたしを面白げに眺めて、マルガレーテ嬢は再び口を開いた。
「どうしましたの、レキュアーズ男爵令嬢? もしかして、わたくしの顔をご存じないのかしら?」
「……い、いえ、もちろん存じあげております。フェリクヴァーヘン侯爵ご令嬢、マルガレーテさま」
「よかった、知っていてもらえて。あなたは有名よ、エルゼヴィカ嬢。色々なかたからごあいさつをされるでしょうから、失礼のないようにね」
いかにも大貴族令嬢然とした、アーモンド型の目をやや細め、口角を優美にあげ、しかし歯をのぞかすことはない、計算され尽くした笑みを浮かべてみせるや、マルガレーテ嬢はきびすを返した。取り巻きの、伯爵家や子爵家のご令嬢たちが、わたしへ非友好的な視線をぶつけては彼女につづく。
セリフこそ想定外だったけど、おおむね予期されたとおりのファーストコンタクトだった。木っ端男爵家の小娘が、侯爵家のご令嬢に目をつけられてしまった、ということになる。
いちおう覚悟はできていたとはいえ、前途多難。わたしは肩をすくめて、ため息をついた。
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わたし、エルゼヴィカ=レキュアーズは、曲がりなりにも男爵令嬢ということになってはいる。だが、実際にはわたしの身に貴族の血は一滴も流れていない。
両親はどちらも、地元の教会の信徒名簿で七代も遡ることができるほどの筋金入りの平民で、わたしが二歳のころ流行り病でともに亡くなった。わたしは幼すぎて憶えていないけど、兄姉弟のうち三人も、両親とともに逝ってしまった。
兄や姉たちは病禍をやりすごした母方の祖父母や、伯父、叔母たちが引き取ってくれたが、生き残りの中で一番年少の、まだ手がかかる歳のわたしまで養う余裕のある親戚はいなくて、教会附属の孤児院に預けられたままでいた。
子に恵まれなかった反動からか、慈善活動に熱心だったレキュアーズ男爵夫妻がわたしを引き取ると決めたのがその三年後で、以降十年、男爵令嬢として育てられている。
あまりっ子が引きあてた思わぬ幸運、実の兄姉たちとは、以来疎遠になってしまった。一度、すぐ上の姉からかなり強烈な嫌味をいわれて、それはけっこうこたえた。
現に、わたしはたぶん、無条件の善意で男爵家に迎え入れられたわけではない。ふんわりとウェーヴしたピンクブロンドの髪と、左は緑で右は金色のオッドアイという、珍奇な外見が養父母の目を惹いたのだろう。まあ、さすがに面と向かって訊けることではないものの。
いまのわたしは自分でいうのもあれながら、いかにも貴族令嬢といったイメージを裏切らない見た目になっている。もっとも、外面だけで、中身は平民から抜けきれていない。フェリクヴァーヘン侯爵令嬢がわたしに絡んでくるだろうと予想できていたのも、わたしが男爵令嬢としての自覚を欠いていた一件あってのことなのだ。
いまから三ヶ月ほど前になるのだけど、たまたま市中で出会った年若き紳士が、お忍び中の第二王子ダグラス殿下その人であると察することができず、ずいぶんと気安い態度で接してしまったのが、そもそもの発端だった。
わたしのことを珍獣の一種だと面白がったダグラス殿下が、身許を調査して後日邸宅にいらっしゃったのだ。しかも、王立高等学院の入学許可書を携えて。わたしは本来、上級貴族の子弟子女ばかりが通う王立高等学院へ進む予定はなかったのだけど、当然ながら、養父に断る理由はなく、その場でわたしの入学先は変更された。
無名の男爵家の、しかも平民あがりの養女が王立高等学院に入学する。しかも、第二王子直々の口利きで――噂はたちまち、狭い貴族社会中を駆け巡ることになり、わたしのほうはといえば、フェリクヴァーヘン侯爵令嬢マルガレーテさまが、ダグラス王子の婚約者なのだと知ったのだ。
直接会ったことはないながら、その時点で、マルガレーテ嬢はわたしでもときおり風聞を耳にするほどの有名人だった。
彼女はいわゆる、悪役令嬢なのだと。
タイトルを思いついてしまったので勢いで書き始めましたが、最初1万2000〜1万6000字の予定でプロット切ったのに、やたらとしゃべるキャラが乱入してきたため連載に仕立て直しました。
プロットそのものは変えていないのでダラダラとは続きません。文庫本250ページ前後の予定で、とりあえず年内は毎日更新できるストックがあります。
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