痛いの痛いの飛んでけー!
とある休日。父と娘は昼食をとっていた。
父は娘に報告があったがためらい現在に至る。
「ごちそうさまでした。」
娘は悠長な言葉で食事の終わりを告げた。
これを機に父が口を開く。
「ごちそう様でした。綺麗に食べれたね。」
「おかたづけします。」
娘は片付けを始めようとする。
「待って、お父さん姫華に話があるんだ。」
「はい。すわります。なんですか?」
彼女はその場にちょこんと座り聞く体制をとる。
「父さん再婚することにした。」
ぼーと話を聞く彼女。しばらくして、
「さいこんってなに?」
言葉の意味が解らなかったようだ。
「姫華のお母さんが出来るよ。」
「やったーおかあさん。」
姫華の実母は彼女を産むと、
すぐに亡くなっている。
彼女は母というのに憧れていた。
その嬉しそうな振る舞いに父は安堵した。
父の報告から数日後、
今日に限っておしゃれなピンクのドレスを着、
ホテルのレストランの個室へ連れられた。
楽しみな顔合わせ。私のお母さんどんな人?
嬉しさと緊張が混ざりあう。
「初めまして、姫華ちゃん。宜しくね。」
その人は眼鏡をかけ、少しだけ怖い感じがした。
「こんにちは。」
すぐ父の後ろに隠れる。
「こらこら、姫華。」
父に注意された。
「あ、無理させないで。姫華ちゃん。
ゆっくり仲良しになろね。」
子供心に悪いことをした気がした。
私は思い切って義母の胸に飛び込んだ。
彼女は優しく抱き締め、頭を撫でてくれた。
「おかあさん?」
「はい!今日から姫華ちゃんの
おかあさんですよ。」
「おかあさん。」
嬉しくて再び、おかあさんと声に出した。
彼女もとても嬉しそうだ。
ふと横を見ると
彼女の隣には私と同じぐらいの
男の子が立っていた。
私と同じようにキッチリ正装させられている。
「姫華ちゃん。この子。弟になる素直。
仲良くしてね。」
義母から男の子を紹介される。
「素直ちゃん?」
「そっ。素直。挨拶。」
私は義母から離れ彼の前に立った。
「私、稲田姫華6歳です。」
「僕、素直5歳」
これが私と素直の出会いだった。
4人で暮らし始める。
素直と私はすぐに仲良しになった。
その日、母と私、素直で公園に遊びに来ていた。
「あ!猫ちゃん。見つけた。可愛い。」
私に猫がすり寄る。猫を撫でていた。
「猫ちゃん!」
弟も喜びこちらに駆けよって来る。
猫は逃げだした。
「ダメだよ。すーちゃん。猫ちゃん驚いちゃうよ。」
「僕も猫さわりたい。」
「静かに優しくしないと。逃げちゃうよ。」
弟は納得出来ないようだ。
しばし、猫を忘れ、
滑り台、ブランコ、シーソー遊びをする。
「あ、猫ちゃん!」
弟は猫を忘れ切れなかったらしく、
猫を追い始めた。
「ダメだよ。猫ちゃんは優しく。」
私は慌てて弟を追った。
猫は道路を横切り弟もそれに追随した。
そこに運悪く大型トラックが突っ込んで来た。
「キィーキャギューギュー。」
「ドン。」
鈍い音。弟の体が中に舞った。
そしてコンクリートへ叩き付けられる。
私はすぐに彼のそばに駆けよった。
「すーちゃん。起きて。すーちゃん起きて。」
血がたくさん出ていた。臓器が飛び出していた。
痛いよね。私が治してあげる。
「痛いの痛いの飛んでけ!
痛いの痛いの飛んでけ!」
私は必死に頑張った。
幼稚園の先生がこうすれば治るよと
教えてくれたから。
「痛いの痛いの飛んでけ!
痛いの痛いの飛んでけ!」
少しだけ、彼の体が治ったような気がした。
そこで私も眠くなり倒れた。
「救急車。救急車。早く。早く。」
「ああ可哀想に即死だな。」
「姫華ちゃん。素直? 素直
イヤャヤアー。素直。素直。」
かすかに、知らない大人と母の声は聞こえた。