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偽りの王女と真の王女   作者: ありま氷炎
第三章 暴かれる秘密
9/23

08

 ボフミルは馬に跨ると先を急いだ。

 急ぐといっても街中であるので、それほど飛ばすことはできないが、それでも彼は焦っていた。


 セシュセの騎士団先導で、王女の乗った馬車は動きした。

 それに合わせてボフミルも馬をゆっくりと歩ませていたのだが、視界の中で茶色の髪の娘が急にしゃがみ込むのがわかった。そのまま放置しておくと群衆に踏まれるのは必死で、彼は自然と馬を預けると娘に近づいた。

 自分でもなぜその様な行動に出たのかわからなかった。長らく王宮で、王女の騎士として振舞っていたため、弱きを守る騎士道が板に付きすぎたかもしれない。

 そうして助けた娘の顔を見て、彼は頭を殴られたような衝撃を受けた。


(アレナ……)


 そう名前が出そうになったが、必死に堪え、彼女をじっくりと見る。

 身なりから制服を着ているので、使用人のようで、買い物かご一杯に野菜や果物が入っていた。自分の顔を見ても、何か負の感情などを浮かべることは無い。


(別人だ)


 そう思ったが念のために名を確認する。

 リーディアという名を聞き、今度こそボフミルは安堵した。

 そうして早々に立ち去ろうとしている時に、セシュセの騎士が現れた。どうやらこの使用人に特別な感情を抱いているようなのだが、彼は娘の身分を確認したくなった。

 それが不信感を植え付けてしまったらしい。

 騎士の猜疑を含んだ視線、その傍に立つ娘の緑色の瞳は、親の背中に隠れていた小さな「アレナ」を思い出させ、ボフミルの心を掻き乱す。

 なので彼は逃げるように立ち去った。


(隣国の王女が訪問する時に街をうろつく暇がある騎士など、下級のものに違いない。もう会うこともないだろう。あの緑色の瞳。そんなことありえるわけが無い。ただの偶然だ。馬車ごと崖に落ちたんだ。生きているはずなどない)

 

 自身に言い聞かせるようにそんなことを考える。

 けれども彼の不安がなくなることはなかった。

 


「リーディア!」


 屋敷に戻るとシアラが泣きそうな顔をしており、リーディアは素直に謝る。


「私こそ悪かったね。昨日気分が悪そうに見えたのに、買い物なんか頼んで」

「気分が悪い?昨日もだったのか?」


 シアラの言葉を聞いて、エリアスが彼女に尋ねた。

 気分が悪いというか、アレナという名を聞くと頭痛がするだけなのであるが、それを言うべきか彼女は迷ってしまった。

 アレナという名は、今では隣国の王女の名として広まっており、その名に対して不快感を覚えるなど、不敬ではないか。エリアスに軽蔑されるのではないかと、リーディアは答えられずにいた。


「シアラ。リーディアは疲れているようですわ。今日は休ませてあげて。エリアスはドミニク様の書斎へ。用事があるそうです」


 まごまごしているうちに、奥からフラングス男爵夫人が現れ指示を飛ばす。


「あの、奥様……」

「心配いらないわ。体調が悪いのに無理に働いて薬師を呼ぶことになることこそ大変でしょう?」

「そうだよ。リーディア。奥様のおっしゃるとおりだ。今日は休むんだよ」

「俺が部屋まで送ってやろう」


 皆に口々にそう言われ、リーディアは戸惑いながらもその言葉に甘えることにした。この原因不明の頭痛が何かも考えなければと思いながらも。


「それじゃあ、ゆっくり休むんだぞ」


 エリアスにわざわざ部屋の前まで送ってもらい、リーディアはお礼を述べ中に入る。

これ以上心配をかけさせるわけにはいかないと、制服から寝間着用のワンピースに着替え、ベッドに横になった。




「アレナ。この指輪とても綺麗ね。借りてもいい」

「うん。いいよ」


 優しくて綺麗な姉は、美しいものが好きだった。

 アレナは美しい花模様をしている指輪が自分のものであることを知っていたが、姉にならあげてもいいと思っていた。

 両親の前でそのことを言ったら、とんでもないと諭された。

 アレナと姉の両親は分け隔てなく二人に愛情を注いでくれた。けれども、その指輪の存在で、彼女自身が本当はこの家族に属していないことを知ってしまった。それを知ってから、ますます、優しくしてくれる両親、姉が好きになった。

 余裕がないのに、彼女を養ってくれる家族。

 アレナがパンを食べ終わってしまって、まだ食べたりないと思っていたら、姉は自身のパンを分けてくれた。姉は何でもアレナと分かち合ってくれ、彼女はそんな姉が好きだった。


「……泣いている?」


 寝られないと思っていたのだが、眠っていたようで、リーディアは少し驚いて体を起こした。しかも泣いていたようで、頬が少し濡れている。

 夢の内容は覚えていなかった。

 とても懐かしい、そんな感情だけが彼女の心に残っていた。


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