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「そこの王女が言うとおりだ。俺は、どうしても一人で死にたくなかった。だから、ラウラに罪をかぶせようとした。俺は八歳の娘なら簡単に言うことを聞かせられると、両親と妹を見殺しにさせ、罪悪感を根付かせた。その上、お前のせいだ、お前が願ったからだと脅した。泣き叫ぶ娘を気絶させ、ハランデンに連れてきた。俺の計画通り、娘は俺の言うことを聞いて、いい王女になってくれたよ。おかげで俺は伯爵の身分まで手に入れた。すべて俺の計画だ」


 彼は高笑いしながら、語る。


「そこの宰相様は、王女に横恋慕した息子が振られたことにかなり怒っていたな。その後、自分の都合のいい奴を王女に当てがおうとして必死だったっけ」

「フレク!本当か!」

「それは……。ボフミル、おかしなことを言うな。気が狂ったか」


 その後もボフミルは、これまで彼が握ってきた貴族たちの秘密を明かし続け、裁きの場は騒然となり、次回に持ち越されることになった。

 王太子を筆頭にボフミルが発言したことの裏づけを取り、宰相を始め何人かの貴族が失脚した。

 ボフミルはそれを知り、地下牢で高笑いを繰り返していたという。


 一週間後、ボフミルとラウラの処罰が決まった。

 ボフミルは死罪、ラウラは修道院に送られることになった。ハランデン追放に留まり、セシュセでラウラが暮らせるようになると考えていたリーディアは落胆したが、ヴィートは落ち込んでいる様子もなく、訝しがった。

 どうやらその修道院はヴィートが手配したもので、虫がつかないからちょうどいい。セシュセで別の男に浚われるのは我慢ならないということだった。

 それを聞いて、リーディアは脱力した反面、安堵の息を漏らす。

 ラウラがヴィートに心を許しているのはわかっていたので、二人がこのまま離れ離れになることが心配だったのだ。

 ラウラ自身はそんなことは知らないので、これまでの罪を償っていくつもりだとリーディアに誓い、数日後、修道院に向った。

 ボフミルは彼女が旅立った翌日に刑を執行され、その人生を閉じた。

 死刑の日程が決まってから、彼は牢屋番が驚くくらい静かに毎日を送っていたらしい。リーディアは死刑に立会い、エリアスに支えてもらいながらその最後を見届けた。穏やかな死に際で、彼女は複雑な心境に駆られる。

 こうしてリーディアは自分の目的を果たし、後はセシュセに戻るだけだと王太子ラデクに別れの挨拶を行った。けれども、彼は静かな声であったが若干怒りを交えて彼女に告げる。


「リーディア。君は王女だ。その責任は果たさないといけない。セシュセに戻ることはできない」

「それでは、」

「君がエリアスを好いているのはわかっている。けれども君は王女だ。ハランデンは今混乱している。こんな時に王女の君は国を見捨てるつもりか」


 リーディアはセシュセ生まれのセシュセ育ちだ。けれどもその血はハランデンの王家につながっている。


「アレナ……ラウラならこういう時はどうするだろうな」

 

 ラデクから姉の名前を出され、リーディアは項垂れるしかなかった。

 翌日、エリアスは王女を隣国に送り届ける任を終え、帰国することになる。ヴィートはラウラを修道院に送った後、密かにセシュセへ戻っている。

 

「エリアス」


 王女である彼女が騎士を様付けで呼ぶのはおかしいと何度も注意され、リーディアはやっとエリアスを敬称なしで呼べるようになった。

 彼は彼女に名を呼ばれ、爽やかな笑顔を浮かべる。


「リーディア殿下」

 

 一緒にセシュセに戻る予定であったのに、リーディアはハランデンに残ることになり、義務とは頭では分かっているが、気持ちがついていけなかった。

 そんな彼女の気持ちは知らないのか、エリアスはすっきりとした表情で、それがまたリーディアの心を傷つけた。


 (リーディア。エリアス様は私を心配してくださっただけなのよ。そんな気持ちはなかったの。あなたは王女なんだから、しっかりしなきゃ。お姉ちゃんは王女の役目を立派にこなしたじゃないの)


 そんな風に自身を励まし、一生懸命笑顔を作って彼を見送ろうとする。


「ベナーク様。少し殿下とお話をしても構いませんか」

「……そうだな。そのほうがいいかもしれない。ラデク殿下は少しすねてらっしゃるからな。きっと伝えてないだろう」


(どういうことなの)


 自分が分からない会話をされ、リーディアは戸惑うしかなかった。

 そうしてエリアスと二人きりとはいかなかったが、ハランデンの騎士ベナークから少し離れたところで話をする。


「リーディア殿下。俺は一旦セシュセに戻るけど、すぐに戻ってくる。君を、あなたを迎えるにはまだ時間がかかるかもしれない。しかし待っていてくれるか」

「……エリアス?」

「もしかして聞いてないのか」

「何のことでしょう?ラデク様……兄上には私は王女としての義務を果たすため、セシュセには戻れないと言われてしまいましたけど……」

「……そうとう、すねているのか。ある意味、ヴィートよりも面倒な性格だな」

「エリアス?」


 彼は独り言なのか、眉間に皺を寄せてぼやく。

 リーディアは置いていかれたような気持ちになり、首をかしげた。


「ラデク殿下はハランデン国内が安定するまで、あなたが王女でいることを望んでいる。そして、その後は臣籍降嫁させてもよい……と」

「臣籍降嫁?」


「ああ、えっと、俺だけが盛り上がっているみたいで、ちょっと悪い。リーディア殿下。いや、リーディア。俺はあなたのことがずっと好きだった。王女になった今でもその気持ちは変わらない。……あなたは俺のことをどう想っている?」

「……」


 突然の告白に、リーディアの頬が一気に赤く染まる。それはもう発熱かと、そういう勢いだった。

 彼は逃がさないとばかり射るような視線を向けていて、顔を背けることもできない。その瞳、表情から彼の感情がそのまま彼女に伝わる。

 最初は驚きでいっぱいだったが、喜びに変わっていく。


「す、好きです。大好きです」


 つっかえながらも必死に気持ちを伝えると、エリアスはぎゅっと彼女を抱きしめた。


「エリアス!」


 リーディアが声を上げるよりも先にベナークが止めに入り、それを聞きつけた王太子ラデクがやってきて物凄い不機嫌そうに「あと一年追加」と伝える。

 後から知ったのだが、それはリーディアの臣籍降嫁までの期間のことで、どうやら計三年は結婚できないことになってしまった。

 エリアスは隣国の男爵子息であるので、王女がそのまま嫁ぐことはできない。それで、王太子の側近であり今回も傍についていたベナーク伯爵がエリアスを養子にとることで話がまとまった。

 彼はのちのちベナークの名を継ぎ、リーディアは王家から離れ、臣下へ降嫁する。

 このことは、すでにエリアスの父ドミニクも賛同しており、知らぬはリーディアだけであった。


 リーディアがハランデンで王女として三年を過ごし、ベナーク家に養子に入ったエリアスが伯爵家を継いで、やっと二人の想いは通じあう。

 

 真の王女は初恋を実らせ王子ではなく騎士の妻となり、偽りの王女は修道院で修道女として九年を過ごし、その後、王位継承権を放棄したセシュセの元第二王子と結婚した。

 二人の王女は形は違えどそれぞれの幸福を掴み、末永く幸せに暮らしたという。


                      

                     THE END

 


 



読了ありがとうございました!

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