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 ここ三週間ばかりですっかり牢屋番と化したヴィートは、周りを懐柔して、すっかり居心地のよい場所を作り出していた。

 最初は戸惑っていたラウラであったが、今は諦めの境地でのんびりと牢屋の中で過ごしている。


「ラウラ。リーディアが到着したよ」


 ヴィートから告げられ、様々な思いがこみ上げてきて彼女は言葉を失う。


「大丈夫だって。リーディアはいつも君のことを心配していたよ」


 そう言われても、ラウラは理解できなかった。

 アレナ――リーディアからの手紙には恨み言は何一つ書かれておらず、彼女を心配していること、そして姉として今も慕っていることが書かれていた。

 それでもラウラは妹の気持ちがわからなかった。

 九年前、彼女は自身の両親、そして妹を見殺しにした。その上、リーディアが得るはずだった王女としての地位を奪ったのだ。

 ヴィートから何度も聞かされて手紙を読み返しても、彼女がいまでもラウラを慕っているなど信じられなかった。


王太子ラデクに頼んで、どうにか君とリーディアを会えるようにした」

「ヴィート様」

「僕も傍にいるから。あとエリアスも。初めて会うんだよね。エリアスと。かなり男前なんだよねぇ。ちょっと心配だな」


 ヴィートはそう言うと、黒色に染めてしまった髪を掻き揚げる。


「うーん。悔しいけど、やっぱりエリアスのほうが顔がいいんだよね」


 彼は不満そうにぼやいていて、ラウラは彼に何か言わなければと口を開く。心臓が早鐘を打っているが、今こそ伝えるべきだと思った。


「ヴィート様はどんな姿でもかっこいいです。私にとって一番素敵な方ですから」

「……ラウラ。大丈夫?君らしくないけど」

「私らしくないってどういうことなんですか」

「その言葉の通りだよ」


 ヴィートにそう返され折角、勇気を振り絞ったのにとラウラは落ち込んでしまった。

 すると彼は笑い出し、彼女を抱きしめる。


「冗談だよ。ありがとう」


 反逆者が捕らえられているはずの牢屋で行われている会話。

 本当の牢屋番は扉を挟んで外にいるが、そんな二人の会話に悶絶しつつあった。






 地下牢にいるボフミルにも、リーディアの帰還は耳に入った。

 彼の態度に日々苛立っていた牢屋番は、大声で喜びの声をあげる。


「これで、お前の処刑が決まるわけだ。嬉しくてたまらないぜ」

「嬉しいか。お前の大好きなラウラ様も一緒に死ぬことになるが、喜ぶんだな」


 ボフミルがそう返すと男はすぐに走ってきて、扉を叩く。

 これはすでに日常になっており、他の囚人たちはまた始まったと耳をふさいでいるようだ。


「どうあがいていも、あの娘は俺と同罪だ。死ぬんだ!」

「煩い。この反逆者め!」

「ははは。吠えろ。どうせ扉を叩くしかできないくせに!」

「何を!」


 我慢の限界がきたようで、牢屋番は腰にかけている鍵の束から一本の鍵を取りだし鍵穴に入れる。そうして扉を開けボフミルを牢屋から引きずり出した。


「死刑の前に俺が殺してやるよ」

 

 牢屋番が持っていた鉄棒を振り上げる。

 ボフミルはただ笑っていた。


「やめろ。王女様の御前だぞ!」


 響き渡る声がして、牢屋番は殴るのを諦め鉄棒を下ろす。

 そうしてボフミルの後頭部を押さえ低頭させ、彼自身も深く頭を垂れた。

 

(王女……。アレナ。あの娘か)


 一瞬ラウラのことが頭に浮かんだが、すぐさまリーディアのことだと思い直す。


「ボフミル」


 声をかけられたが、牢屋番が頭を押さえているため、低頭したままだ。


「あなたは姉のラウラに罪を被せたいみたいだけど、私は絶対にそれを許さない。あなたは私たちの幸せを壊した。両親を殺して、姉を唆して、私の大切なお屋敷の人々を傷つけた。絶対に許さないから」

「ははは。許さないか。俺は構わない。どうあんたが足掻こうと、ラウラが王女に成り代わったのは事実だ。あの娘は死罪を免れない!」

「それはあなたが唆したからでしょう!」

「どうかな」


 ボフマンは頭を押さえる牢屋番の手を振り切ると、笑い出す。


「こんな時に笑うなんて!」


 リーディアの怒声、そして衝撃がやってきて彼は意識を手放した。



「申し訳ありません」


 牢屋番の上司はボフミルの態度を、リーディアに対して謝罪をする。

 笑い出した彼を気絶させたのは本国の騎士ではなく、エリアスだ。

 それもあり、リーディアは逆に謝りたくなったくらいだが王女の立場としては、謝罪を受け入れるだけにした。

 リーディアはハランデンの王女であるから、隣国の騎士を傍に仕えさせるのは好ましくない。したがって、王太子の息が掛かった騎士で、こちらの意図を理解している者を傍に置き、その上エリアスを共に加えて、行動していた。

 けれどもあの瞬間、エリアスは前に出てボフマンに手を下した。背景が分かっているものが見えれば理解ができる行動であるが、行き過ぎは否めない。

 王太子の騎士がどうにかうやむやしにしてくれ、リーディア達は次なる目的地のラウラの牢屋へ向っていた。


「リーディア。大丈夫だ。きっとうまくいく」


 ボフマンの高笑いが耳障りに残っており、リーディアの不安を煽る。

 実際、彼が共犯を主張しつづけ、ラウラ自身が認めれば反逆罪として、彼女も死刑になってしまう。

 不安は消えないまま、リーディアはラウラが投獄されている搭へ入った。

 



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