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語られなかったこと

作者: 桜町雪人
掲載日:2020/04/17

その目玉はジャンボジェット機と並走を続けていた。


「きっ、機長!わっ、私はどうかしてしまったんでしょうかっ!?」


副機長が声を裏返らせながらも、何とか声を絞り出す。


「ははは…、別にどうもしてないさ」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


「しっ、しかしっ!あっあれはっ!!」


そう言って副機長が窓の外を指さす。


「ははは…、あれは…うん、『目玉』だね」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


5分ほど前からだったか、どこからともなく現れたその目玉は、

このジャンボジェット機を取り囲むようにして並走を始めたのだ。


その目玉はまるで大玉転がしの大玉ほどもあり、その数は無数にあった。


操縦室のドアが激しい音をたてて開いた。

髪を振り乱し、血相を変えたキャビンアテンダント長が入ってくる。


「機長!大変です!乗客がパニックを起こしています!!」


責任感からか気丈に振舞ってはいるものの、脚はブルブルと震えていた。


「ははは…、そうか、うん、そうだな、乗客には僕が話そう」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


機内マイクを手に取る。


『ははは…、機長です。皆様、どうかご安心下さい。

 あれは3D映像です。

 退屈な空の旅に楽しみを、という当社の新しい試みでございますが、

 ははは…、少し悪ふざけが過ぎてしまったようです。

 驚かせてしまったお客様には心からお詫び申し上げます―』


そう言って機内放送のスイッチを、

穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら切る機長を、

副機長とキャビンアテンダント長は「そうだったんですか」と、

ホッとした表情で見つめた。


まもなく脚の震えが収まり、

すっかり安心した様子のキャビンアテンダント長は、

操縦室を出ていった。


一方、副機長はしばらく黙り込んでいたが、


「機長!私は全然知りませんでしたよ!」


と、憮然とした表情で口を開く。


「乗客が知らされていないのは当然としても、

 私を含め、他の乗員には言っておいてもらわないと困ります!」


未だニコニコと微笑みを携えている機長の横顔が、

まるでいたずらっ子のように憎らしく副機長の目に映った。


「機長!」


「ははは…、まあ、そう怒らないことだよ、だってウソなんだから」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


「…えっ、ウソ?…ウソってどういうことです?」


「ははは…、だから、3D映像だというはウソなんだから」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


「えっ!」


副機長は改めて窓の外を見た。目玉と目が合う。


「かっ、かかか……、あっあっ……アッアアアアアッ!」


その目玉に見入られ、そして魅入られた副機長は、

ブルブルガクガクと震えだし、声にならない声を上げた。


「ははは…、ところであれは一体何なんだろうね」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


「かかかっ…、めっめめめめ……あ………………アァ!」


副機長は震えに震え、あり得ない量の冷や汗を流す。


「そうっ…そそそそ、そうだっ…、つっつつ…通信っ!」


顔や手を引きつらせながらも必死に通信機を取ろうとする。


「ははは…、そんなことしたって信じてもらえないさ」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


「しっ、しかし、このままではっ………!」


その時だった、並走する目玉の1つが機体に体当たりをしたのだ。


ぐうぉおおんんん!!


鈍い音が機内に響く。


そして間髪入れずにもうひとつ、


ぐぅあぉおおんん!!


そしてさらにもうひとつ、


ぐあぉおおおおん!!


その後は止むことなく次から次へと目玉は体当たりを始める。


「うぁアアアアッ!きっ機長っ…、もうっ、もう駄目ですっ!」


声が裏返りすぎて、もはや別人のようになった声で副機長が叫ぶ。


「ははは…、落ち着きたまえ、今は耐えるしかないさ」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら答えた。


「そっそれに、床がっ、床が水浸しですっ!!何だコレはっ!」


「ははは…、落ち着きたまえ、それは私が失禁したからだよ」


機長は穏やかに冷静に、そして微笑みを交えながら失禁していた。


「きっ、機長っっっ!!」


「ははは…、ははは…、ははは…」


そのジャンボジェット機はまもなく墜落した。



事故後、フライトレコーダーが回収されたが、

その中身については公表されることはなかった。


ただ事故の原因は、『エンジンの故障』、と発表があっただけだった―。


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