表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/46

暴力的な墓石


 翌日、僕は第一倉庫と呼ばれる街はずれの工場みたいな所にいた。

 街はずれというか国外れと言うか、すぐ隣には国をグルッと囲む壁が広がっている。

 詰まる話、滅茶苦茶端っこ。


 「来たな、クロエ」


 あ、はい来ました。

 朝一から迎えの馬車が来れば誰でも起きると思います。

 本日の鍛錬を全部すっ飛ばし朝から黒鎧を使わされるだろう事態は、あまり嬉しくない。


 「ではまず、武器庫に来てくれ。 コイツをどう思う?」


 こちらの心情などしらんとばかりに、そう言って扉を開くタミィ王子。

 彼の後に続いて倉庫の中へと踏み入れれば、そこには眼の疑うような光景が広がっていた。

 光景と言うか、おかしな代物が転がっている。


 「貴方は僕に何をさせたいんですか? というか、何にしようとしているんですか……」


 視界に飛び込んで来たのは、余りにもデカすぎる……大砲?

 筒形ならまだそれっぽかったのだが、妙な形をしておられる。

 先端には大きな穴が開いていて、多分大砲の様な銃弾を打ち出すのだろうと予想はできるのだが……なんだろうこれ。

 穴の開いた先端からお尻の部分に向かってサイズアップしておられる上、後半部分で再びなだらかにスマートへと戻っていく。

 例えるなら、バカデカい棺桶だろうか。

 形状的にはまさに遺体を入れるアレだ。

 でも先端の穴と、後方に取り付けられたダクトが明らかに違う物だと訴えている。

 そして上部後方に、明らかに何かを突っ込むかのような穴が開いている。


 「君専用の武器だ!」


 「なんじゃこりゃぁ!」


 見ただけでは良く分からない、というか分かりたくない。

 殺さない為の戦術を組み叩ている所だと言うのに、コイツは一体何をさせようとしているのか。

 僕を大量破壊兵器か何かかと勘違いしてない? 大丈夫? この人。


 「簡単に説明しよう。 コレに搭載されているのは表面の盾とも言える分厚い装甲と、空気圧縮により打ち出される杭。 一度使うと数十秒のクールタイムは必要なるが、本体が壊れない限り何度でも使える武装という訳だ! これなら城壁でも何でも一発でズドン! 魔法阻害の術式も組み込んであるから、一対一の戦闘に置いて一撃必殺になり得る代物だ! どうだ凄いだろう! 仮の名前として“墓石”と呼んでいる!」


 「墓石っていうか棺桶でしょどうみても」


 コレ、世に言うパイルバンカーって奴ですかね。

 通称と言った方が良いだろう。

 本物のパイルバンカーとは危険であるが、コレよりも安全な代物だ。

 工事現場でも大活躍なアレなのだ。

 正確に言うなら、射突型ブレード。

 ズドンと一発デカい杭を打ち出し、そして止まる。

 ロボット系アニメやゲームでは度々登場するが、発射されるタイミングや射程を覚え、かなりの距離まで近づかないと何の役にも立たない代物だ。

 そんな事分かり切っているだろうに、コイツはソレを作ってしまった。

 ひとえに、ロマンを追い求めたのだろう。

 他人事だと思いやがって。


 「何に使う気なんですか……というか僕は何と戦わされる予定なんですか」


 「壁や魔導馬車に対してだな、人に使ったらミンチになってしまう。 計算上ではドラゴンだって打ち抜けるぞ! 発射タイミングはトリガーを一度引いてチャージ、二度目で射出だ。 チャージ中は空気を吸い込む音が聞こえるだろうから、多分分かる」


 なんかもう、何といっていいのか分からない。

 自慢じゃないが“黒鎧”なら壁も魔導馬車……もとい車も平然と拳だけでなんとなるだろう。

 だと言うのに、彼はこんな物を作ってしまった。

 一体どこで使えと言うのか。

 そしてドラゴンいるのかこの世界。

 わー、ファンタジー……

なんて呆れた視線を向けていると、「さっそくテストだ!」とウキウキした顔で指示を出し始めるキノコ。

 もういい、コイツだけは装備せず投げ捨ててやろう。

 もしくは盾の代わりだ。

 魔法とか撃たれた時に、盛大に盾になって頂こう。

 そして壊れたどっかの地に土葬してきてやろう。


 「さぁクロエ! その腕に嵌めて見てくれ! 魔力タンクも装備しているから、活動時間を縮めるという事はないはずだ!」


 もういいや、どうでもいい。

 諦めて大きなため息を吐いてから、黒い名刺ケースの様な何かを取り出した。


 「……変身」


 言った途端ケースは開き、周囲は黒い煙に包まれる。

 そして現れたるは黒い巨象。

 言わずもがな“黒鎧”。

 やれやれと頭を振ってから、目の前にある棺桶に腕を突っ込んだ。


 「ほぉ」


 思わず呟いてしまう程に素晴らしいフィット感。

 棺桶の中にはちゃんとグリップがあり、トリガーがあると感触で伝わってくる。

 良くもまぁここまで作った物だ。

 とはいえ、見た目は酷い事になっているが。

 ただでさえゴツイ黒鎧が、棺桶を片腕に嵌めているのだ。

 不穏以外の何物でもない。

 ついでに言えば、先日取り付けられたブースターまで着いておられる。

 なにこれ、武装解除しても外れないの?

 呪いの装備かな?


 「ターゲットは目の前の鉄板! 威力を見せてくれ!」


 楽しそうに言ってんじゃねぇよ。

 なんて思ったりもするが、使わなければ帰してくれないのだろう。

 ため息交じりにトリガーを引けば、シュゴォォォォ! と凄い吸気音が轟き始めた。

 え、大丈夫?

 吸い込み過ぎて爆発したりしない?


 『complete!』


 ムカつくことに、吸気音が止まったと同時にキノコ王子の電子ボイスが聞こえて来た。

 声優変えてくれないかな。

 色々問題ありすぎるソレを目の前に聳え立っている鉄板の方へと向ける。

 どれくらい固いんだろうコレ。

 乗用車位の幅があるんだが。


 「いけクロエ! その威力を我々に――」


 「はい、いきますね。 発射」


 相手の言葉を待たず、目の前に置かれた鉄板に向けてトリガーを引いた。

 しかし、ソレが良くなかった。

 コイツが作るものがまともなはずがない。

 それは先日散々思い知ったというのに。


 「は?」


 「え?」


 ろくに固定もされず立っていたのであろう、ただただ分厚い鉄板。

 むしろ飛ばせる距離を計測しようとしていたのだろう。

 鉄板の後ろの床には白い線が引かれ、メモリが振ってあった。

 だがしかし、誰が想像しただろう。

 眼の前から消える勢いで鉄板が消失するなんて。

 そして射突型ブレードの先が、まっ平だったなんて。


 鉄板はえぐい形にねじ曲がり、銃弾の様な速度で倉庫の壁を突き破って外へと向かって飛んでいく。

 その先にあるのは国を囲う立派な壁。

 それすらも突き破り、変形した鉄板は何処までも飛んで行った。


 「……」


 誰もが沈黙する中、棺桶の先っぽを射線上に向けたまま固まってしまった。

 これ、僕悪くないよね?

 言われた通り引き金引いただけだよ?

 内心焦り始めた辺りで、タミィ王子が盛大に笑い始めた。


 「フハハハハハ! すまん、やり過ぎた」


 「こういう事があるので、先っぽは尖らせてください。 そうすれば被害は眼の前だけで済みます」


 「うむ、実践ではちゃんと尖った物を使うので安心してくれ」


 うむ、じゃねぇよ。

 はるか遠くに消えた鉄板はどうなったのか分からないが、眼の前に開いた大穴はどうしようもない。

 これ絶対王様にネチネチ言われるヤツだって……

 というか威力に対して反動が随分少ないんだが、無反動砲ってやつ?

 それとも魔法による不思議効果なのか?


 「しかしあれだな。 アレクシアから魔法を教わり始めてから、魔導回路の使い方が上手くなったか? 想定の3倍くらいは飛んでいるぞ」


 「想定通りでも壁を壊す結果になっていたんですね、少しは反省してください」


 そんな事を言いながら、大人しく武装解除を始めようとしたのだが……この棺桶、中々抜けねぇ。

 しばらく倉庫の中の作業員たちは、ワシャワシャと暴れる黒鎧を呆けた様に眺めていたのであった。


 ――――


 「全員上空を警戒! 飛来物を回避ぃぃ!」


 隊長さんが叫んだ。

 次の瞬間には列をなして進行していた軍隊の真ん中辺りで、蟻が障害物を避けるような空間が出来上がった。

 次の瞬間。

 ――ドォォン! と大きな音を上げて、何かが降って来た。

 何だアレは?

 遠目から見るに、アルミホイルを丸めた球体? みたいに見える。

 でもこの世界には、あんな大きな物を射出する技術は無かったはず。

 衝撃からしても、かなりの重量があるみたいだし。

 だとすれば、間違いなく“勇者”が関わって居る攻撃なのだろう。


 「各隊現状確認!」


 「負傷者なし! 問題ありません!」


 そんな声が各所から上がる。

 あの時、隊長さんが気づかなければどれ程の被害が出ていたのか。

 思わずゾッと背筋が冷たくなる。

 間違いなくコレは警告。

 こっちにくればこの程度では済まないぞという、明らかな意思表示。


 「今回の相手は、想像以上に不味い相手の様ですな。 噂に聞く“鎧の勇者”、これほどまでに強力だとは……」


 苦い顔をした隊長さんが、目の前に落ちて来た鉄の塊を睨む。


 「アズサ、お前はこの距離から相手を狙えるか?」


 魔導馬車に乗った王様が、苦い顔でそんな事を聞いて来た。

 今は大きな川を挟んで隣にかの国が見えている状態。

 当然川下りなど出来ないので、迂回して攻める事になる。

 それくらいに大き、流れの激しい川だ。

 だがそれを無視して、直線距離で言うならば……


 「攻撃は可能ではあります、でも狙えるかと聞かれれば無理です。 大体で攻めるならまだしも、ココからでは相手の姿形も分かりません。 私達の様に団体行動している相手を狙えと言われれば当たらない事はないですけど……それでも初弾からここまで正確にはいきませんよ」


 向こうの方が高所。

 そうなれば視線は遮られるし、大物の首をピンポイントで狙うのは無理だと言わざるを得ない。

 相手の国の勇者が崖っぷちに立ちながら両手を振ってくれているなら話は別だが、そんな事する訳がない。

 でも相手は木々に隠れた私達をしっかりと狙ってきた。

 詰まる話、この場で戦争を始めれば十中八九負ける。

 それくらいに、悪い事態に私達はいる。

 いち早くこの場を離れないと、次に何時何が飛んでくるのか分かったもんじゃない。


 「一番近くなるこの位置ですが、責めるだけ無駄です。 大人しく順路を辿って、あと数日馬を走らせるしかないでしょう。 相手が攻撃してこなければ、ですが」


 崖の上とも言える場所を睨みながら、小さく呟いた。

 間違いない、相手は私達が進軍している事を掴んでいる。

 それどころか、ここに居る事もさえも分かった上でピンポイントに警告してきたのだ。

 いつも通り攻めれば、その時には周囲を囲まれている可能性だって充分にあり得る。


 「今回はちょっと時間を置きながら対策を練った方が良いかもしれません。 こちらの動きは全てバレていると考えて良さそうです」


 顔を引き締めながら言い放てば、魔導馬車の隣を歩く馬の上から、彼が声を上げた。


 「嬢ちゃんがそこまで言うとは珍しいな。 やっぱりヤバイ相手か?」


 その一言に、無言で頷いた。

 今回はヤバイ。

正直、国の前までちゃんと行き着けるかさえ分からない。


 「“鎧の勇者”か、もしくは国王か。 相当頭の切れる人間だと思っていいと思います。  何たってこんな物を叩き込んでくるくらいですから。 私達の正確な位置さえもバレていると思って行動してください。 じゃないと、明日にはあの鉄の塊の雨が降るかもしれません」


 そうなってしまえば、対処のしようがない。

 私が撃ち落とすにしても、あの質量を完全消滅させるほどの威力で何度も“弓”を放たなくてはいけないのだ。

 そんな事をしていたら、いくらなんでも魔力が持たない。

 基本魔力増加、魔力回復増加などのスキルを持っている私でも、あの鉄球を蒸発させる弾丸はそう何度も打てないだろう。

 それ以外のスキルをフルに使っても、私一人では“国”には勝てない。

 だからこそ、思いっきり眉を顰めた。


 「全員に上空を警戒させてください。 いつ攻撃を受けても回避行動を優先して動ける様に。 相手は私達に気づいています、だからこそ警告してきた。 進軍が遅くなろうとも、ここは慎重になるべきです」


 「なるほど確か、今の攻撃を見りゃ納得だわな」


 もう戦争は始まっているのだ。

 攻める攻めないと言葉を交わしている時点で、人の争いは始まっている。

 そして今の状況。

 確実に相手はこちらを捕らえ、そして「いつでも殺せるぞ」と主張してきている。

 流石はストロング王国。

 兵の数が伊達ではない。

 そんな事を思いながら、皆身を潜めて道を進む。

 何かがあった場合に備えて、皆上空を睨みながら。


 「行くぞお前ら! 敵は眼の前だけじゃねぇ! 空からも攻めてくる! 忘れるんじゃねぇぞ!」


 「「「おぉぉぉ!」」」


 多くの声が隊長さんの声に答える。

 だが、僕は不安だけが残った。

 こちらの射程外から攻撃してくる“勇者”。

 そしてこちらより早く状況を把握する索敵能力。

 “向こう側”みたいなレーダーとかが存在しているとは思わないが、似たような設備があってもおかしくない。

 もしかしたらそんな装備の前で、彼らは笑っているのかもしれない。

 “早く来い、殺してやる”と薄ら笑いを浮かべながら。

 そんな想像を元に、“鎧の勇者”とやらが酷く怖い物に思えて来た。

 個人の防御力しかないと言われる“鎧”。

 しかしそこに想像もつかない凄いスキルが組み合わさったなら?

 見ただけで命を奪う、もしくは範囲攻撃系のスキルや魔法を習得していたら?

 そんな悪い予想ばかり頭に浮かび、無理矢理思考を振り払う。

 勇者とはいわば“チート”の結合体だ。

 そういう彼らでも、一切手の打ちようがないという人物はいなかった。

 誰しも弱点がある、どこかしらに抜け穴がある。

 だからこそ、私は今まで生き残って来たのだから。


 「どうか……“普通”の勇者であってください……」


 祈りにも似たその言葉は、緊張感を携えた兵士達の声に掻き消されたのであった。


 ブクマ・評価・感想などなど。

 お願いいたします。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ