異世界にも車があるんですか?
ふと目が覚めた時、僕は野原で寝転がっていた。
残っている最後の記憶は、空手道場……って言っていいのか分からないが、とにかく名目上はそういう道場の先生に、情け容赦なく床に叩きつけられた所までは残っている。
寝ている間に拉致られたか?
まぁあの先生なら充分にありえるんだが……なんて思った所で、視線だけを左右に動かした。
どこを見ても草、くさ、クサ、そして青空。
「知らない天井……どころか天井がない」
草生えますわ、程度では済まなかった。
むしろ周りに草しかない。
なにこれどういうこと? 東京のど真ん中にいた筈なのに、なんでド田舎としか思えない草むらに連行されたのか。
ちょっと理解が追い付いてくれない。
視線を落としてみれば、格好は記憶のままだ。
黒いスポーツウェア、ジャージみたいなラインが入った薄手のパーカー。
放り投げられた時の影響なのか、フードを被った状態で転がっている為草の不快感はそこまで無い。
もしかして先生の思い付きにより『田舎でキャンプと修行、満足するまで帰れま〇ン!』 みたいな企画が、また唐突に始まってしまったのだろうか?
だとしたら色々困るんだが、明日から期末テストだ。
今すぐ先生をぶっ飛ばして、テストを受ける為に帰らないと。
僕の来年が、後輩と同級生になってしまう。
「あ、起きましたか? 気分の方はどうでしょうか?」
なんて、優しい声で語り掛けられた。
間違いなく女性。
だがしかし、あのむさ苦しい道場にこんな声の女性は居なかった。
聞き覚えのあるのはやけに甲高い声で奇声を上げて、指先をピーンって伸ばしたまま長い爪で眼球とか突いてこようとするムキムキの女性だけだった。
明らかに彼女達の様な危険人物ではない。
では、いったい誰なのだろうか。
「どちら様でしょう? もしかして僕を誘拐した方ですかね。 身代金要求なら、値段によっては応じますので。 多分10万くらいまでは出せると思います」
「随分とお安い自己評価なのですね……」
そんな台詞を寝転がったまま上げれば、目の前に呆れ声を漏らす小さな人影が現れた。
やけに輝くトンボの羽みたいなのを生やした30センチくらいの少女。
金色の髪、長い耳。
そして白いワンピースの様な服を来たトンボ少女。
決めた、君はちょっと季節外れの秋の虫一号だ。
「それで秋の虫一号さん、見間違え出なければ背中にトンボついてますよ? あと遠近感がおかしいのか、やけに小さく見えます。 身長何センチですか?」
「随分なご挨拶ですね……背中に虫は付いていませんし、貴女に比べればずっと小さいのは間違いないです」
「何て言うか……すみません。 僕にもその気持ちわかりますよ? 見ての通り身長が低いもので。 いろいろ大変ですよね、わかるわかる」
「あの、止めてもらえませんか? その可哀想な子を見る目を、今すぐ止めてもらえませんか? この”世界”において、ラニは普通なので」
何という事だろう、この身長が普通な国に来てしまったのか。
どうみても30センチくらいしかないこの子が普通ってどういう事?
僕はいつの間にか、かの有名なファンタジー世界に来てしまったのか?
確か主人公の名前はピーターパ——
「それ以上は止めましょうか、違いますから。 あと例えがちょっと古いのは何故なんでしょう? 貴女の年齢ならもっと違うファンタジー色々あるでしょうに」
思考の途中で止められてしまった。
なかなかいい洞察力を持っているじゃないか秋の虫一号。
「あぁもう……とりあえずですね。 なんと貴女は”異世界召——」
「おぉ、起きたか黒江!」
説明の途中で、やけにデカい声と共に僕の体が持ち上げられた。
世に言うお姫様抱っこ、ではなくお米様抱っこだ。
肩に担がれた、荷物みたいに。
「先生も居たんですか。 相変わらず暑苦しいですね」
僕を抱えたのはムキムキマッチョメン。
NH〇の番組に出てくる様な爽やかな体操のお兄さんフェイスに、首から下はボディービルダーという気持ち悪い奇跡の組み合わせ。
見間違えるはずもない、ウチの道場の先生だ。
というかやはりコイツが居るという事は、強制誘拐型合宿に参加させられた線が濃厚になってきた訳だが。
「俺達はアレだ。 ”異世界”にきちゃった上に、”勇者”的な何かになっちゃったかもしれない!」
「評判のいい精神科医を知っていますので紹介しますね? まずその暑苦しい脳みそを外に出して、冷凍庫で冷やしてから見てもらってください。 病院に迷惑が掛かりますので」
この人は僕が通う空手? 道場の先生、烏丸 盛雄さん。
顔と体のバランスがおかしいにも関わらず、趣味は裁縫という気持ち悪い人物だ。
ちなみに裁縫の技能はかなりなモノで、去年のクリスマスには手の込んだ手作りサンタ服を何故かプレゼントされた。
「おいおい黒江、異世界だぜ!? モンスターだぜ!? 勇者なんだぜ!? 滾るだろう!?」
何やら最近のトレンドに脳みそをやられたおっさんが、やけに興奮した様子で鼻息を荒くしている。
そういうのは妄想かゲームの中だけにしていただきたい。
「いえ別に、帰って寝たいです。 あと下ろしてください、歩くくらいはできますので、多分」
そんな会話を聞いていた秋の虫一号さんが、盛大なため息を溢しながら綺麗な顔を歪めていた。
ちょっと忘れていたが、この子マジでどちら様?
というか小さいんだけど、飛んでるんだけど。
そして背中にトンボついてるんだけど。
「えぇっと、師弟の仲がよろしいのは結構ですが……そろそろいいですかね? 説明させて頂いても。 あとトンボは付いていません」
本当に君は察しがいいな、ちょっとびっくりだよ。
何故か再びため息を溢されたが、どうぞと手を向ければ彼女は仕切り直しとばかりに満面の笑みをこちらに向けた。
「ではでは……貴方達は何と! かの有名な”異世界召喚”されました。 そしてなんと”勇者”に選ばれたのです!」
「チェンジ」
こっちもこっちでおかしいな事を言い始めた。
異世界とか勇者とか、何度も言うがそういうのは他所でやっていただきたい。
俺TUEE出来るの? 出来ないでしょ?
体に変わった様子全くないし、武器の一つも持ってないし。
というかお前は何だ、確かにファンタジーな見た目をしているがこうして目の前に空飛ぶ小人が現れると結構不気味だぞ。
「酷くないですかね!? これでも妖精ですよ!?」
やけに勿体ぶった癖にろくな説明をしないクソ虫に対して、呆れた視線を向けてからため息を一つ。
とても失礼な態度であるとは理解しているが、いくら何でも言っている事が非現実過ぎて頭が追い付いて来ない。
そういうのは“なろう”の小説にでも上げていればいいんじゃないかな、読むから。
というか、本当にここどこ?
「お答えしましょう! ここはストロング王国の周辺、初心者冒険者なんかが訪れる草原のど真ん中です! ポップするのはスライムとか、たまにトレント。 良心的な初心者用の狩場です!」
さっきから察しが良すぎる妖精? が小さな胸を張って自信満々にそんな事を言い始める。
急にモンスターの名前を言われても大体想像がつくのがちょっと悔しい。
これも現代人の弊害というやつなのだろうか……
というか、こいつやっぱり人の思考読んでない?
ではでは、『ちなみにそのストロング王国とやらの王様の名前は?』
「ゼロという名の王様ですね!」
どうやらやはり考えている事が分かるらしい。
しかもここは、アルコール9%の領土という事は理解出来た。
まあ本当にこのちびっ子の言う事を信じて、異世界とやらに来てしまったという事を信じるならの話だが。
どちらかと言えば北海道の牧場に放り出された、とか言われた方がしっくりくる景色なのだが。
「残念な事にこっちの世界にホッカイドーはないんですよねぇ。 ホラホラ遠くに街が見えるでしょう? 城壁とかお城とか、向こうの世界には無い物が見えません? それが証拠ですって」
「この小人、ちょっと癪に障る」
「ラニは”ラニ”って言います! ”ラニ”って呼んでください!」
「じゃぁ”ラニハラニ”、今の状況が何故起こったのか、そしてどうすれば帰れるのか説明してくれると嬉しいです」
「ラニです! 貴方達は”勇者”に選ばれてココへ呼ばれました! 何故二人いるのかはわかりませんが……とにかく、貴方達には“魔王”を倒して頂かなければいけません!」
「話にならん、チェンジ」
「不思議なファンタジー現象が起こったってことで理解してくれませんかねぇ!? この鉄仮面はぁ!」
さっきまで優しい顔で笑っていた妖精(笑)が、額に青筋を浮かべながら怒鳴り始めた。
サイズがサイズなので、耳を塞ぐほど煩い訳ではないが。
それでも当人は必死らしく、両手を振り回しながら真っ赤な顔で訴えかけてくる。
本当になんだろうこの生物、博物館とかに差し出せば展示してくれるのかな。
「まぁまぁ二人とも、少し落ちつけって。 詰まる話アレだろ? 俺たちはファンタジーな世界に着ちゃって、めっちゃ強い奴をぶっ飛ばせばいいんだろ? いいじゃんいいじゃん、強い奴大歓迎だよ!」
ダメだコイツ、早く何とかしないと。
説明されるまま状況を飲み込んで、早くも順応されておられる。
頼むから少しは疑うって事を覚えてくれ。
普通信じないって、ファンタジー過ぎるって。
そんなだからすぐ騙されてパチモノのプロテイン箱買いしちゃうんだよ。
「流石カラスさんです、話が早くて助かる! ネコさんも早い所順応してくださいね?」
扱いやすい方には遜るのか、にこにこ笑顔で先生をもてはやす妖精。
あとその名前で呼ぶな。
なんて事を脳内で突っ込んでいる内に、僕を担いだ先生が動き始めた。
「おっしゃいくぞぉ! まずは近くの町で情報収集とジョブ確認だぁぁ!」
筋肉馬鹿が、僕を担いだまま走り出した。
やっぱりいくつになっても男はこの手の話が好きなのか、彼のテンションはうなぎ登りだ。
僕が何か発言する前に、彼は全力で走り出した。
自動車みたいな速度で。
「カラスさん!? ちょっと、ちょっと待ってくださいぃ!」
遥か後方で、秋の虫一号の声が響いていた気がする。
ドドドっと土煙が上がる程の速度で、先生は走り続ける。
お願いだから下ろしていただきたい、僕は荷物じゃない。
というかお前速すぎないか? ボ〇ト選手より早い速度で走ってない?
なんて言う間もなく、彼は遥か彼方に見える街の様な何かに向かって走り続けた。
多分この時点で間違えたんだ。
可能であれば一人で街に入るべきだった。
そうすれば、もう少し穏やかな異世界生活とやらが送れたかもしれないのに……
————
「はいここが”冒険者ギルド”です!」
「おぉー、ファンタジー……」
ででーんとばかりに胸を張った秋の虫が、やけにデカい建物を指さした。
その建物も周りの建物も、中世っぽいといっていいのだろうか。
見事に異世界に着ましたよ、と言わんばかりの見た目をしておられる。
これだけ見ると、確かに異世界感ありますわって思うのよ。
でもさ、街中に走ってるんだわ。
どうみてもお爺ちゃんたちがコンビニにダイナミック入店をかます車が。
ソレを見た瞬間、異世界というよりやはりドッキリを疑ってしまった。
それともト〇タは異世界にまで支店出しちゃったのかな?
「えーっとアレはですね、以前に召喚された人が発案して作っちゃった”魔力で動く馬車(仮)”です。 でもお金持ちの貴族くらいしか買えないくらい高いんですよ? 平民は馬車です馬車。 たまに馬車をプリ〇スが引っ張ったりしてますけど。 あ、でもでも他の町では違うメーカーの物が走っていたりしますよ?」
メーカーって言うな馬鹿、他にも色々想像しちゃうだろ。
もうね、訳が分からない。
アニメや漫画で見る“異世界”な雰囲気を醸し出してくれている街並みや人々、それはいい。
これを見た瞬間「本当に異世界に着ちゃったんだ……」なんて感動を覚えたが、次の瞬間にはプリウ〇が横を通り過ぎるのだ。
他にも良く分からない生物が居たり、見たことないお金で取引していたので“異世界”ってヤツを疑うのもバカバカしくなってきている訳だが……プ〇ウスですよ。
安心安全のハイブリットエコカーが、その辺を走り回っているんですよ。
「俺は旧車が好きなんだがなぁ……」
そんな事を呟く先生は、早くも馴染み過ぎだと思うんだ。
もう少しリアクション取ろうか、異世界プリウスですよ。
こっちでも『今日のプリウス』とか言われているかもしれないソレですよ。
というかそもそも異世界だって言われているのに、車があることに違和感を持とうか。
この世界では世界を旅する勇者とやらが、路線バスにでも乗って各地を渡るのか?
それは旅ではあるけど“そういう”旅ではないだろう、単純に観光に近い気がする。
魔王城前とかいうバス亭あったらどうするんだ、誰も降りんわ。
「まぁ色々思う所はあるでしょうが、早くいきません? お二人の恰好はその、目立ちますし」
そんな事を困り顔で話すラニは、周囲の視線をやけに気にしていた。
まあ当然と言えば当然か、僕ら以外不思議な格好してるし。
というか周りからしたら僕らの方が、不思議な格好なのか。
街に入るときもその事で色々聞かれてしまった。
なんだその恰好は、どこから来た? などなど門番の人に色々質問され、ラニが何やら説明した後通行料を払ってこの街に入って来た。
ちなみにその間、僕はずっと肩に担がれたままだった。
不審者だろ、どうみても不審者だろ。
なんで通しちゃったんだよ門番、止めろよ。
職質してそのまま警察署に連れていく事案だろ、人を肩に担いだ状態で通しちゃう門番って何だよ。
「心中お察ししますが、そろそろ諦めましょうね?」
秋の虫が同情の眼差しを向けながら、やさしく肩に触れてくる。
よし、最初の武器は殺虫剤にしよう。
そんな決意と共に”冒険者ギルド”とやらの門を開ける、先生が。
扉の先には、これまた予想通りに酒場のような光景が広がっていた。
各所にテープが置かれ、奥や横の壁際にはカウンターが並んでいる。
見た限り左の壁際は飲食関係、右は買い取り……みたいな感じだろうか、獣の死体や鉱石の類を虫メガネで鑑定している人たちがいっぱいいる。
そして目の前奥のカウンターでは、やけに笑顔を張り付けたお姉さん達が書類を整理したり、お客さんの相手をしている。
対面している方々は、モンスターハ〇ターに出てきそうな格好をしているのでお姉さん達と場違い感が凄いが。
きっとあそこがクエスト受注受付なのだろう。
「大体その想像で合っていますね、新規登録も目の前のカウンターなのでそちらに向かいましょう。 今日からお二人は、冒険者になる訳です!」
グッと握りこぶしを作って力説する妖精さんは、どこか嬉しそうな様子で僕の周りを飛び回っておられる。
なんというかこう……非常に上手くいきすぎている気が。
「こうも定番のチュートリアルやらされて、尚且つ思考を読む妖精がいるとどうにも落ち着きませんね……実は貴女黒幕だったりしません?」
「考えている事が分かるのは妖精の特権のようなものなので、どうかご容赦を。 あとラニが黒幕だった場合、貴女達の握力にすらかないませんのでご安心を……」
なんて会話を入り口付近で繰り広げている時だった。
僕たちの後から入店してきたお客さんが、先生の方にドンッと派手にぶつかってから盛大に声を上げ始める。
「おいおい兄ちゃん見かけねぇ顔だなぁ! どこの田舎もんだぁ?」
お約束イベントがエンカウントしたらしい。
相手はスキンヘッドで顔に傷のある、いかにも汚物を消毒したそうな雰囲気のチンピラさんだった。
トゲトゲした服とか、とさかの様に立派なモヒカンとか付いていれば完璧だったのに。
何故中途半端に真似してしまったんだろうか。
そこには成長途中と言わんばかりの世紀末ヒャッハーさんが、先生に対して中学生みたいなヤンキー絡みをしておられた。
「俺は片耳のスロウってもんなんだけどよぉ、ここらじゃ俺を知らねぇヤツは居ねえんだ。 ここはガキと妖精見せびらかし来る場所じゃないぜぇ? こっちは命張って仕事してんだ。 軽い気持ちなら今すぐ田舎に帰んなお兄ちゃん」
改めて説明しよう。
身長はとんでもなく低いが、僕は一応格闘家だ。
そして僕を肩に担いでいる人は道場の師範というか、まあ先生な訳で。
当たり前だが格闘家だ。
そんな相手に対して、イキった中学生みないなノリで絡んで来たこの人……スロウさんだっけ?
うん、なんともまぁ可愛く見える訳ですよ。
あーこういう年頃ってあるよねぇ、みたいな。
ただ見た目的に先生と同年代か、それ以上だったので……
「お前……その歳でその態度、恥ずかしくないのか?」
先生盛大にため息を吐きながら、やっと僕の事を下ろしてくれた。
ちなみに片耳のスロウというわりに、ちゃんと立派な両耳が揃っているのはどういう事なんだろう。
どっちか聞こえなかったりするのかな?
「どこから突っこめばいいのかわかりませんねぇ……」
隣を飛んでいる妖精も呆れた顔で首を振っているので、冒険者は皆こんな感じという訳では無さそうだ。
まあこんなのばっかりだったら、現地の人も対応に困ってしまうだろうが。
「おい聞いてんのか!? てめぇ見かけねえ面してるが、どこから来た田舎もんだ? それにそっちのガキはいつまで顔を隠してやがる」
などと喚き散らしながら、彼は僕のフードを乱暴に取っ払った。
そして。
「え? あれ? お前女だったの――」
「——ふんっ!」
何やら失礼な事を言いかけた瞬間、先生の拳が炸裂した。
ジャブ程度のパンチに見えたが、効果は絶大だったご様子。
相手は壁際まで転がっていき、カウンターの近くで白目をむいた。
ちょっとやりすぎじゃないですかね、いつもに増して力が強かった気がしたのだが。
「人の娘に気安く触ってんじゃねぇよ」
「血は繋がっていませんけどねぇ、薄っすらとしか」
なんて会話をしながらも、吹っ飛ばした彼の元へ向かう。
というか受付が彼の飛んで行った先にあるので、どうしてもまた近づかなければいけない訳だが。
「あのー、大丈夫ですか? もしもーし」
ベシベシと頬を叩いて揺さぶってみれば、彼はうめき声を開けながら意識を取り戻しはじめた。
良かった、ちゃんと生きている。
異世界生活初めて数十分で殺人犯になるとかいう事態はどうにか回避できたようだ。
「ぁ、あれ? お前さっきのガキ……」
「どうも、一応女の子です」
一応最後の質問に答えてみた訳だが、状況がまだ理解出来ていないらしい。
そりゃそうだ、話の途中で急にぶん殴られたのだから。
普通だったらここから第二ランドが始まったり、文句の一つでも言ってきそうなモノだが。
彼は呆然としたまま、僕と先生を交互に見てジリジリと這うように下がっていくだけだった。
「あの、お二人共。 そちらの方も既に戦意喪失しているみたいですし、もう早い所登録済ませちゃいません? 余り最初から問題ばかり起こしても良い事ありませんよ?」
何故か僕らが悪いみたいな言い方をする妖精を睨んでいると、ゴホンッと静かに咳払いする声がカウンターの向こうから聞こえた。
やけに上品な笑いを浮かべる美人なお姉さんが、小首を傾げながら微笑んでいた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。 登録手続きでよろしいですか? であればご説明する事もございますので、こちらへどうぞ?」
そう言って、彼女は筋肉ダルマに向かって一枚の紙を差し出したのであった。




