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また戦争ですか?


 「クロエ、これを君に返しておこう」


 久々に見た気がするキザな変態イケメンが、これまた久しぶりに見るプレートを差し出してきた。

 もはや存在を忘れかけていた、冒険者登録証。

 もとい免許証モドキ。


 「どうも。 ってあれ? コレって奴隷が持っていてもいいんですか?」


 捕まった時に真っ先に取り上げられたので、解放されるまでずっと預けておくものだとばかり思っていたが。


 「内容確認の為に預かったが、君の場合は少し特殊だからね。 それに次の日には戦場に立ち、行方不明になってしまったから遅くなってしまった」


 ふーん、とだけ返事をしながら返還されてきたプレートを覗き込むが、コレと言って変化はない。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、内容とかにも変化なしか。

 “奴隷”とか記載されるのかと思っていたが、そういった項目は増えていなかった。


 「ちなみに以前の魔獣討伐の報酬と、前回の戦場に参加した報酬を振り込んでおいた。 首輪の討伐歴もあるが……そっちは近くの国じゃないと報酬は貰えなくてね。 今回の戦場参加報酬はストロング王国に帰ってから支払おう」


 目には見えない所で変化があったらしい。

 やったぜ、ついに僕も自立生活が出来る。

 今までは先生のお金で食べさせてもらっていたが、今後はその心配はなさそうだ。


 「というか、そうだ! お金と言えば僕たちの賭け金! 勝利報酬!」


 色々あって忘れていたが、まだお金貰ってない。

 このままうやむやにされたらたまったもんじゃない、覚えている内に回収せねば!

 なんて慌て始めた所で、近くに立っていたお爺ちゃんが僕の免許証をひょいっと強奪した。


 「カラスマ、だったかな? ホレ、お前さんも登録証を出せ。 ウチのモンにやらせておくから、お前たちは気にせず戦ってこい。 参加報酬もたんまり出してやるからの、暴れまわってこい!」


 そういって僕たちのカードはお爺ちゃんに掻っ攫われてしまった。

 誰、あの人。

 ていうか何言ってるんだろう? さっき王子も“今回”の戦場参加報酬とか言ってた気がするが……


 「ネコさん、さっきまでの話全く聞いていませんでしたね? さっきの方はこの国の王様、ノコ王。 そして今杖に乗って飛んで行っちゃった人がケノコ王です。 そんでもって、これから戦争ですよ。 強制参加です、頑張ってください」


 以前の様に小さくなった紅ショウガの上に乗っかったラニが、とんでもない事を言い始めた。

 王様二人は正直どうでもいいんだが、戦争ってどういう事よ。

 さっきの魔族が実はいっぱい引き連れて来てたとか?

 そんでもって、何故僕達が参加しなければいけないのか。

 この国の奴隷という訳でなくても、この身分なだけでどこの戦場にも放り込まれるの?

 色々と終わってるじゃん、奴隷生活。


 「そう言う訳ではないんですけど……今回はスミノ王子が参加を表明しちゃいましたからねぇ。 ストロング王国の王子のパーティと、勇者二人って」


 お前何してくれてんの?

 そんなに戦争狂なら一人で特攻してこいよ、いちいち人を巻き込むなよ。

 ジロリと金髪王子を睨んでみれば、爽やかな笑顔を返されてしまった。

 殴りたい、非常に殴りたい。

 拳を握りしめていると、その気持ちが伝わったのか王子が満面の笑みで答えた。


 「公言する、そして奴隷への命令権を使用する。 スミノ・フル・ストロングはクロエ・ネコの暴力、暴言を罪に問わない事を宣言する。 全て同意の上であり、それは訓練の一環とする。 さぁ来い! クロエ!」


 バッと両手を広げる変態の言葉に反応したのか、奴隷の首輪が薄く光る。

 これはえっと、どういう事?


 「簡単に説明すると、さっきの王子の宣言は首輪と身分証に影響されます。 つまり、これから好きな時にスミノ王子を殴っていいという事です。 一発いっときますか?」


 説明しながらグッと親指を立てるラニ。

 彼女も彼女で、随分と王子の事を嫌っているご様子。

 まあ思考の読めるラニの事だ、常にドM変態思考を見せられれば嫌悪するのもわからなくないが。


 「ひとまず止めておきます……ここで殴っても、どうせ喜ぶだけですから」


 「そんなっ!? あんまりじゃないかクロエ!」


 「黙れ変態」


 ぴしゃりと言い放てば、どこか嬉しそうに鼻をこする王子。

 うっわキモチワル。

 とまあ今はそんな事よりも、戦争うんぬんをどうにかしなければ。

 このまま戦場に立たされたら、今度こそ死ぬ気がする。

 これだけ周りがバタバタ動き回って、キノコタケノコ王国両方が動くって事は結構大きな戦争だよね?

 エルフっ子の里の戦闘とは規模が違うよね?

 無理だよ。


 「と、とにかく、今は目の前の戦いに集中しよう。 このままでは国を出る事も出来ない」


 「じゃぁ王子だけで行けばいいじゃないですか、何で僕まで」


 「王子ではなく、スミノと呼んでくれても……」


 「黙れ」


 暴言も許されたので、思う存分好き勝手話せるぜ。

 なんて思ったが、その度に少し嬉しそうにするので色々と悩ませてくれる。

 もう嫌だ、コイツと関わりたくない。


 「えっと、クロエ? 私達はストロング王国の奴隷だから、王子が参戦するとなれば近くにいる私達は自然と強制参加なのよ。 残念ながら」


 紅ショウガを抱き上げながら、困った顔で笑うアイリ。

 でっかいお乳様の下に頭を突っ込む形になる紅ショウガ。

 この姿を見た男性陣は、きっとワンコに嫉妬することになるのだろう。

 って、そうじゃない。

 マジかよ、やっぱり王子って害虫だな!

 なんて言葉にすれば、きっとコイツは嬉しそうにするから言わないけど。


 「まぁ諦めろって。 ていうかこの魔獣、さっきみたいにデカくなればかなり活躍するんじゃないか? お前の魔獣だろクロエ、命令とかできないのか?」


 ソフィーが紅ショウガを突っつきながら、そんな事を言ってきた。

 二人共柴犬の可愛さにやられたのか、さっきから紅ショウガばっかり構っている気がする。


 「魔獣じゃありません、柴犬です。 危ないのでこっちの人に預かってもらいましょう。ちなみに以前僕の飼っていた犬という事は確かなんですけど、今はどうやら敵国の魔王に飼われているらしくて……ほら、奴隷の首輪も付いてるでしょ?」


 ため息を吐きながら紅ショウガの首元を指さす。

 体のサイズが変わったら首輪のサイズも変わるらしく、今でもぴったりとその首に巻き付いている。

 全く忌々しいなこの首輪は。


 「おいおい、それ大丈夫なのかよ……って、ちょっと待った。 おいアイリ、そいつちょっとこっちに」


 心配そうな顔をしたソフィーだったが、急に真剣な顔に変わり首輪をジッと見つめ始める。

 何かあったのだろうか?

 色んな角度から眺めたり、指先で弄り回したりしている。


 「ふーん……魔王もコイツの事が気に入ってたって事なのかねぇ」


 それだけ言ってから、彼女は首輪を無理やり外そうと引っ張り始めた。


 「ちょ、ちょっと!? 奴隷の首輪って無理に外していい物なんですか!?」


 爆発とか締まって行ったりしない?

 そんな事になったら、マジで恨むよ?

 ワタワタと慌てている内に、スポンッ! と音がしそうな勢いで首輪が引っこ抜かれた。

 は? 抜けたけど。


 「安心しろよクロエ、私は魔道具の鑑定なら出来る。 コイツは奴隷の首輪じゃねぇ、ただのサイズ調整が出来るだけの首輪だよ」


 そう言って外した首輪放り投げるソフィー。


 「えっと……つまり?」


 状況について行けず、ポカンとしたまま彼女を見ていると、はぁ……と呆れたため息を溢されてしまった。


 「こいつには何の制限もかかってねぇって事だよ。 呪いや魔術の類も感じられねぇ、本当にペットとして傍に置いてたんじゃねぇか?」


 そう言って紅ショウガをモフるソフィー。

 と、とにかく良かった。

 懸念していた事態には陥っておらず、奴隷への命令を使って紅ショウガが暴れる事態も発生しない。

 だとすれば紅ショウガは完全に取り戻したと言っていいだろう。

 良かった……本当に良かった、紅ショウガ……


 「名前のせいで色々頭に入ってこないですね……紅ショウガ紅ショウガって。 普通の人が聞いたら訳の分からない会話になってますよ……」


 紅ショウガをソフィー達に取られてしまったせいで、僕の肩に戻って来たラニが呆れた声を上げている。

 言っている事も失礼だが、行動も失礼だなこの妖精は。


 「でもそういう事なら、さっきまでの巨大な姿はやっぱりスキルなんですかね? 異世界ワンコ爆誕の瞬間ですよ」


 そのラニの言葉に反応したのが、予想外にもアイリだった。

 ソフィーがモフっている紅ショウガを奪い取り、その瞳をジッと真正面から見つめる。


 「うそ……本当にスキル持っているわよ、この子。 スキル“獣化”に“肉体強化”、それから“俊足”。 初めて聞くスキルも持ってるのね……」


 獣化、獣化ってオイ。

 元々獣でしょうに、なんで更に上を目指しちゃったんだよ。

 獣と獣掛けたら何になっちゃうんだよ。

 でっかくなっちゃうのか、そうか。

 というか僕より色々スキル持ってるんですけど、ねぇ。

 ちょっと悲しくなるから止めてよ。


 「というかソフィーさんは魔道具の鑑定や、魔術や呪いの痕跡を捜せる。 アイリさんはスキル鑑定持ちですか……これは高額な優良奴隷になる訳ですね。 びっくりするくらい有能な二人です」


 ラニがどこか同情的な瞳を二人に向けながら、そんな事を呟いた。

 僕にはそれがどれほど重要な能力なのかいまいちよく分からないが、元々の技能と合わせればきっと凄いどころの話じゃないんだろう。

 ホント、この二人を国が欲しがるのも分かるわ……


 「えーっと、そろそろいいかい? これからの事を話しても」


 完全に忘れていた王子が、ワンコを中心にした女子会話の中に入って来た。

 ここはアレだろうか、お決まりの「ちょっと男子―」みたいな台詞を吐いた方が良いのだろうか。


 「無視され始めてから他の方と作戦を練って居た様なので、ソレは言わないで上げましょうネコさん。 というか言っても喜ぶだけです」


 チッと舌を鳴らすラニが、王子の方を睨んでからフードの中へと隠れた。

 本当に嫌いなんだね、今度はどんな思考が見えたのやら。


 「その前に王子、今回の戦争は報酬が出るのか? アンタが戦場に立つからには私達も行くしかない。 でも報酬も無しに命を危険に晒すのはゴメンだ」


 キッと睨みつけるソフィー。

 僕としては報酬が出ても参加したくないんですが。


 「もちろんだ。 というか今回の依頼の報酬も含め、二人が解放される金額に達する事を約束しよう。 口約束だけで申し訳ないが、どうか信じてくれ。 国が支払いを拒否した場合は、私の資産から報酬を払うよ」


 王子の言葉によっしゃ! とばかりに拳を握る二人。

 この二人は高額だって言ってたのに、やっぱり王子ってお金持ちなのね。

 当たり前か。


 「では改めて……騎士団の準備が整うまで、冒険者や大会の参加者で時間を稼ぐ手筈になっているそうだ。 なので私たちはひとつのパーティとして参加し、そこに手を貸す形になる。 つまり本陣を打つ必要もなければ、わざわざ攻め込む必要もない。 徹底的に防衛するだけだ、とは言っても状況次第では前に出る事になるだろうが。 状況を見てからの判断になるな」


 これは良い知らせ……なのかな?

 まあ攻め込まなくていいなら、少しくらいは楽になるのだろう。

 というか死亡確率が下がる気がする。

 後ろの二人もどこか安心したような表情を見せているし、多分その考えで間違いないはずだ。

 ん? 後ろの二人? もう一人どこいった。


 「最前衛は私が務める。 そしてカラスマ殿とクロエ両名は迎撃役。 ソフィーとアイリは後方支援と、無理のない程度に殲滅魔法で敵の数を減らすのと防御魔法を頼む。 細かい指示は現地で出すが、ここまでは問題ないか?」


 まさにパーティーリーダーですよ! と言わんばかりに指示を出す王子に、アイリとソフィーは静かにうなずく。

 別にそれは良いんだけどさ、やっぱり僕も戦力として数えられてるのね。

 本人が一番前に立つって言ってるのだから、そこまでデカい口は叩けないが……それでも出来れば勘弁してほしい。

 “鎧”を使えば戦えない事はないが、アレは時間制限付きなのだ。

 防衛戦と言われると、どこまで時間が掛かってしまうのか分かったもんじゃない。

 途中で魔力切れを起こしてぶっ倒れたりしてみろ、秒で僕という物だったミンチの出来上がりだ。

 それだけは絶対避けたい。

 というかオイ、もう一人の鎧はどこいった。


 「異論がなければその連携で行く、訳なのだが……クロエ、一つ戦闘前に指示を出させてくれ」


 「なんでしょう」


 急に困り顔になった王子が、こちらに向き合いながら眉を下げた。

 憎ったらしいが、やはり顔立ちは良い。

 多分男慣れしていない女性なら、この困り顔だけで堕ちてしまうのだろう。

 僕自身男慣れしている訳ではないが、殴りたいっていう感想が先に来るので無問題だが。


 「あの……彼を止めてはくれないか? 一応あの魔導馬車は、王国の宝の一つなんだ……」


 そう言って指さす先には、イ〇プをこれでもかと弄り回す銀鎧の姿が。

 あいつ……何やってるんだ。

 勝手にボンネットとか開けてるし。


 「あーはい、そうします。 とっちめてきますね……」


 戦争前だと言うのに、緊張感もクソもない。

 こんな調子で大丈夫なのか?

 とにかく、こっちに来てから3度目の戦争が、今幕を開けたのだった。


 ――――


 「くそがっ! こいつらポンポンポンポン転移魔法を使いやがる! 何なんだよ一体!?」


 戦場を駆ける冒険者の一人が叫んだ。

 誰しもが思っている事だろう。

 さっきから押し寄せてくる敵の一つ部隊を潰したかと思えば、それを補う様に魔獣が送り込まれてくる。

 何だこれは、こんな事は今までに無かった。

 そもそも転移の魔法とはとてつもなく扱いが難しい。

 正確な位置に送る事なんてもっての他、大体の位置に放り出す魔術だったはずだ。

 それを確かな物とするには、“ゲート”と呼ばれる出入口を設置する必要があるはずなのに。

 更にゲートを設置した所で、膨大な魔力が必要になる為実用化にはほとんど至っていない。


 だと言うのに、相手方は空いたスペースにピンポイントで魔獣を送り込んでくる。

 なんだ、なんなんだこの戦場は。

 いつもとは違う、何かがおかしい。


 「冒険者諸君は下がれ! 連携が取れなければ邪魔になる! 防衛を務めてくれ!」


 戦場にそぐわない女性の声が響く。

とはいえどれほどの者の耳に届いたか。

 思わず舌打ちを溢すが、今はそれどころではない。

 連携が取れる者だけを集め攻め込む、そして戦場の中で“目立つ”事が重要だ。

 その部隊が攻め込んでいるとアピール出来れば、敵も“ソコ”に注目し魔獣を送り込んでくるはずだ。

 もし裏をかかれたとしても、防衛班がしっかりと残っていれば対処できる。

 利口な作戦とは言い難いが、今はこれしかない。

 ただでさえ各々好きに行動する冒険者たちが戦場に散らばっている状態だ。

 少しでも被害を減らすために、私達の様な人間が指揮をとらなくては。


 「リーゼロッテ様、準備が整いました」


 「うむ、ご苦労。 そしてよく集まってくれた、諸君」


 振り返れば、100は下らない兵士達が剣を胸の前に構えている。

 圧巻、と言ってもいいかもしれない。

 私如きの“色物”なんて別称で呼ばれる令嬢の呼びかけに、よくここまで集まってくれモノだ。

 私が使える元々の兵は20~30人程度。

 その一人一人の呼びかけにより、ここまでの人数がこの短時間で集まってくれたのだ。

 中には老兵や引退した者、下手すれば技術を齧った程度の者も居るかもしれない。

 所詮は貴族のお遊び。

そんな風に言われた私達だったが、瞬時にこれほどの人数が集められるだけの人望があるのだ。

世の中とは、捨てたものではない。

例え正規の騎士団に劣っていたとしても、この国を守りたいと思う人間をここまで集められたのだから。


 「皆、よく集まってくれた! 事態が切迫しているので端的に話す!」


 大声を上げ、全員の注目集めてから不敵に笑って見せた。

 こんな顔、家族に見られたら悲鳴を上げられてしまうかもしれないな。


 「作戦は一点突破、戦場そのモノの中心を私達に挿げ替えてやるぞ! さすれば相手は無視できなくなる、つまり私達は囮だ! 他の者を守り、防衛に徹する為の時間を作るのが私達の役目だ!」


 兵達の間で軽い動揺が走ったのが分かった。

 当然だろう、今から私達は死にに行くと宣言しているのだから。

 それでも皆声には出さない。


 「だが安心しろ、死ぬつもりはない。 時間さえ稼げば国直属の騎士団が来てくれる上、この国には今3人の勇者がいる」


 この国に召喚された勇者。

 彼の言動や行動を見る度に、“勇者など不要”と訴えて来た私が言うのもおかしな話だ。

 だがこの言葉は、集まってくれた皆に大きな影響を及ぼす。


 「彼らもまた、戦場に参加する事だろう。 我々の囮というのは、言葉通り必死という訳ではない。 全員が生き残る為に、民を守る為に時間を稼ぐ。 単純にそれだけの事だ! ここで怖気づいた者が居るならば立ち去るがいい、誰も責めはしない。 むしろ褒めてやる所だ! お前たちの家族や友人、そして愛するものを泣かせずに済むのだからな!」


 私の言葉を受けて、全ての兵が再び剣を構え直す。

 国に向かって踵を返す者は、一人としていなかった。


 「よろしい。 貴様ら大バカ者は、今から私の“スパークリング”の兵士達だ! 存分に戦え! そして生き残れ! 死を恐れるなら味方と共に生き残れ! 私達は、皆家族だ! 敵を討って家族を救え! 誰一人、死ぬ事は許さん!」


 ウオォォォ! と、戦場に雄叫びが上がる。

 いける、これなら生きて帰ってこれる。

 死を恐れるな、なんて言う馬鹿貴族も言うが、そんなものクソ食らえだ。

 私達は全員が生きて帰る。

 臆病だと笑いたくば笑え。

敵を屠り、全員で酒を飲む。

その酒の味を知っているのなら、決して馬鹿に出来るモノではないだろう。


 「俺達も協力させてくれ!」


 そんな声が急に聞こえて来た。

 視線をやれば、見るからに冒険者風の若者達。

 とはいえ、私とそう歳は変わらないだろうが。


 「俺たちはこの国で活動してるBランクパーティの“キリン”だ。 決して足手まといにはならない! さっきみたいな情けない姿は晒さない事を誓おう!」


 覚えている。

 準決勝まで登ったパーティ、キリン。

 運悪くあの銀鎧と黒鎧のパーティと当たった上に、試合途中で魔族の乱入に会ったチーム。

 運が悪いと言ったら戦場では不穏に聞こえるが、今はこの上なく有難い助力だった。


 「指揮は私が出すが、構わないか?」


 「もちろんだ、俺たちは集団戦に慣れてない。 指示をくれ」


 パーティメンバー達も力強く頷き、意思表明が完了した。

 ならば、迷う事はないだろう。

 今は一人でも有能な人材が欲しい。


 「ならば、私直属の部隊に入ってくれ。 君たちの実力は知っている、よろしく頼む」


 「任せろ!」


 こうして、百数人プラスの“スパークリング”と5名の“キリン”による合同パーティが結成される。

 後に彼ら彼女らはこの国の防衛班代表を任される事になるのだが、それはまた別のお話……


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