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パーティ、結成しちゃいました?


 どうやら一段落付いたらしい。

 先生が鎧を着たままこちらに歩いて来た。


 「おう、お疲れさん。 こっちは終わったぜ」


 「お疲れさまでした、先生」


 短い言葉だけを交わし後、彼は目の前の巨大柴犬を見上げた。


 「こいつがお前の言ってた紅ショウガか。 聞いてたのと違って随分デカイな、育ったのか?」


 いや、流石にその感想は如何なモノだろう。

 確かに昔僕と離れ離れになってから結構な時間は立っているので、成長しているのは確かなのだが。

 とはいえこのサイズは異常だろうに。

 先生より頭の位置がずっと高いよ、柴犬はここまで育たないよ。


 「多分魔術的なモノか……いえ、異世界から来た犬って事になると“スキル”の可能性も……でも犬にスキルって付与されるんですかね。 前例がないので何とも」


 そう言いながらフードからラニが飛び出してきた。

 巨大な柴犬、“紅ショウガ”の頭まで飛んでいき、ちょこんと鼻先に腰を下ろす。

 紅ショウガも特に気にしていないのか、ラニの事を興味深そうに見つめるだけで追い払おうとはしなかった。


 「ラニには鑑定スキルが無いので分かりませんが、首輪の方はちょっと問題ですね。 犬用ってのは見たこと無いですが、奴隷の首輪ですかねコレ。 しかもさっきの魔族の話だと“魔王”のペットだとか何とか」


 伏せ、の状態で待機している紅ショウガの首には確かに僕と似たような首輪が嵌っている。

 詰まる話こっちの世界の魔王が、勝手に紅ショウガをペットにしやがった訳ですね。

 人の家族を何だと思っているのか。

 よし殴ろう、ソイツ殴ろう。


 「また物騒な事を……と言いたい所ですが、本来の目的はソレですからね。 無事に魔王を倒せば元の世界に帰還できる訳ですし」


 やれやれと困り顔を浮かべるラニも、今回ばかりは乗り気な様だ。

 言われてから思い出したが、魔王を倒せば帰れるのか。

 ちょっと忘れたけど、ちゃんと帰還方法あったんだよね。

 そしてソレを成功させれば、自然と脱奴隷が叶う訳だ。

 なんて事を考えていると、選手入場門から数多くの人たちが押し寄せて来た。


 「カラスマ殿! お待たせした、我々も参戦させて頂くぞ!」


 先頭に立った、いかにもお嬢様という雰囲気の金髪鎧が剣を抜いた。

 それを風切りに後ろの方々も雄叫びを上げながら武器を構え、こちらに向かって走ってくる。

 え、何? どうしたの君ら、先生の知り合い? なんでこっちくるの?

 などと慌てた所で、今僕がモフっているモノが何なのか思い出した。

 確かにこの見た目じゃ魔獣か。


 「そんな落ち着いている場合じゃないですって!」


 焦ったラニが叫びをあげるが、相手は当に臨戦態勢。

 血走った眼で武器を片手に全力疾走だ。

 これはちょっと、反撃しないと不味いことになるかも……


 「先生」


 「わぁってるよ、殺さずに抑えんぞ。 お前も鎧使え、下手すりゃ怪我じゃすまないからな」


 拳を構える先生の隣で、黒いケースを正面に掲げる。

 未だに抵抗があるし、使った後は酷い二日酔いに悩まされるこの欠陥品。

 だがこういう状況なら、どこまでも頼りになる“鎧”である事は間違いないだろう。

 図体がデカい分、何かを守りながら戦うのも楽なはずだ。


 「それじゃ、変し――」


 ドゴォン! という派手な音が明後日の方向から響き、思わず変身カットされてしまう。

 変身中の攻撃はご遠慮願います、なんて言いたい所だったが音の元凶は凄い勢いで僕たちの間に割って入って来た。


 「インプだ……」


 「インプですね……しかも結構新しい」


 背後に当たる選手入場口の扉をブチ破って来たのか、バンパーやボンネットに負傷を負ったワゴンタイプのインプ〇ッサが、僕たちの前にドレフト停車を決めて見せた。

 その勢いと派手な登場に慄いた皆様は足を止め、なんだなんだとばかりに奇異の視線を向けている。


 「どうやら、間に合った様だね」


 キザっぽい台詞を吐きながら、運転席から金髪イケメンが下りて来た。


 「げっ……」


 まるでカーアクション映画の様な登場だが、僕にとっては死刑宣告にも感じられるこの現状。

 よりにもよってなんでコイツが……


 「迎えに来たよ、クロエ」


 あの世へのお迎えって事ですかね? 敵前逃亡はやっぱり銃殺刑ですか?

 ファサァっと前髪を揺らしながら、この世界でぶん殴りたいリストナンバー1がご登場なされた。


 「さぁ、共に戦おう。 件の魔族はどこかな? 後ろの魔獣は……随分クロエに懐いているみたいだから、敵ではないのだろう? それとも、こちらの大所帯が相手って事でいいのかな?」


 彼はハッチバックを開いて、以前見た大盾とロングソードを引っ張り出す。

 お前は何て物をトランクにぶち込んでおられるのか。

 それ事故った時大惨事になるからね? ちゃんと固定してた?

 僕の感想など知った事ではないとばかりに、彼はイケメン面と共に剣の切っ先を突入してきた皆様へと向ける。


 「私はストロング王国王子、スミノ・フル・ストロング! クロエに刃を向けるのであれば、その全てを敵とみなす! 彼女を傷つけたくば、私の盾を貫いてみせろ!」


 また、面倒くさい奴が登場してしまった様だ。


 ――――


 魔導馬車で会場に突入した瞬間、眼に入ったのは巨大な魔獣。

 どれほど危険な存在なのか、とてもじゃないが想像できたモノではない。

 そんな風に思える存在の前に、彼女は居た。

 まるで魔獣を守る様な位置取りで、対面から迫る軍勢に向かって何かを構えている。

 私としては、それだけで十分だ。


 クロエの守ろうとするモノは私も守ろう。

 クロエを傷つけようとするものは私が排除しよう。

 至極単純な思考であり、分かりやすい。

 世間一般でいう所の“バカ”の思考である事はわかっている、でも私は自身の考えが嫌いではなかった。

 だからこそ迷うことなく、彼女と軍勢の間に割って入れたのだから。

 彼女を守る事が出来るのだから。


 「さぁ来い、私が相手になろう」


 相手も相手で戸惑った様子を浮かべ、二の足を踏んでいる。

 どうする、このまま責めるべきか? それともクロエ達を連れて逃げるべきか?

 しかしイムプレッザに乗れる人数は限られている。

 そしてあの魔獣。

 経緯は分からないがクロエが従えているらしい。

 アレを魔導馬車に乗せるのは不可能だ。

 では、やはり攻め込むべきか――


 「クロエ!」


 「この馬鹿! 生きてやがったか!」


 魔導馬車から女性陣二人が飛び出し、クロエに抱き着いた様だ。

 うらやまし……じゃなかった、今は目の前の敵から目を離す事など出来ない。

 キッと睨みつけ、敵を威圧しながらも耳は背後に傾ける。


 「アイリにソフィー!? なんでこんな所に」


 彼女達に驚いたのか、クロエも僕の聞いた事の無いような声色で二人を迎えた。

 実に羨ましい。

 出来れば私もあの中に混じって、クロエに喜びをぶつけたかった。

 感動の再会を噛みしめたかった。

 しかし男は、こういう時こそ恰好を付けなければいけない生き物なのだ。

 今は彼女の声が聞けただけで満足しておこう……


 「あ、あの……先程仰っていた内容は事実だろうか? 他国の王子を迎え入れるならば、それこそ私の耳に入らない事はないと思うのだが……」


 先頭に立った金髪のお嬢さんが、おずおずと手を上げて疑問を口にする。

 もしかしたらかなりの地位を持っているご令嬢なのだろうか?

当然見ただけではわからないし、ほとんど興味もないが。


 「神に誓って嘘偽りはない。 国に到着した途端、魔族の襲来を知らされたので緊急措置として入国させてもらった。 私の探し人も居る上、こちらは少人数だがかなりの戦力だからな。 魔人討伐に手を貸すという話で、ここまで通してもらったという訳だ」


 これまでの事を簡単に説明しながら睨みを効かせていると、イムプレッザから残る同乗者がゆっくりと降りて来た。

 「よっこいしょ」なんて言いながら、降りた途端ヘルムを外して大きく体を伸ばしている。

 この戦々恐々とした事態に何をしているのか、なんて思ったりもするが所詮は門番。

 事態を把握出来なくても不思議はない……のか?

 なんて、この時までは思っていたのだが。


 「ノコ王!? ターキ・ノコ王ではありませんか!?」


 顔を晒した老兵に対して、目の前の軍勢は一斉に膝をついて頭を下げた。

 一体何がどうなって……


 「あー良い良い、そういう堅苦しいのは嫌なんじゃ。 魔族が出たっちゅうから適当な鎧をかっぱらって、行きがけに民の避難を促しておったんじゃが……途中で面白いモンを見つけてな。 思わず付いてきてしもうたわい」


 がっはっはと笑う老人は、衰えを感じぬほどにパワフル。

 そんな彼と跪く目の前の人々を見て、サーッと頭から血が引いていくのを感じた。

 一国の王子とはいえ、これまでの彼への無礼は計り知れない。

 そして偉そうに、金は取らないし国際問題にはしない、なんて言ってしまったが。

 むしろ私の方が問題だ。

 今更言いつくろっても遅いだろうが、私のしてきた行為は間違いなく相手方が訴える事の出来る火種に――


 「おい、なんかよくわかんねぇけど。 そこのおっさんと王子さんよ、ちょっといいか」


 まるで空気を読まない発言が、その場に響き渡る。

 さっきまでの話を聞いていなかったのか!? 相手はこの国の王だと――


 「さっきの相手の言う事だと、この国は包囲されてるらしいぞ。 魔王も出て来てるらしい、どうすんだ?」


 身分なんぞ知るかとばかりに、銀鎧が声を上げていた。

 それこそ私を含めた周りの皆も目を丸くしたが、対するこの国の王は彼に不満を持つわけでもなく、気分よさげに笑い声をあげている。

 なんだこれ、普通ならこの時点で不敬罪なのだが。

 まあ私も人の事が言えた義理ではないが。


 「そうかそうか、アンタが魔族をぶっ殺した勇者か! 功績、情報共々感謝するぜぇ」


 ニカッと笑うノコ王は、どう見ても王様というには大雑把すぎる気がする。

 彼の対応を意に留めることなく、がっはっはと盛大に笑う姿はもはや居酒屋で酔っぱらっているじいさんそのものだった。


 「んな事どうでもいいんだよ。 そもそも俺は介錯しただけだ。 追い詰めたって意味なら、あそこで転がってる小僧……“剣の勇者”にでも礼をいいな」


 そう言って彼が親指を後ろに向けると、この国の王は興味無さそうにフンッとただけ鼻を鳴らして視線を彼に戻した。


 「アイツはケノコ王国が拾ってきたハナタレ小僧じゃ。 武器にばかり頼りおって、まるで鍛えもせん。 面白みに欠けるわ」


 どうやら彼はノコ王のお気に召さなかったらしい。

 それでも聞くところによれば“勇者”というのだから、相当な力を持っているのだろうが。


 「それで、如何なさいますか? このまま魔族との戦闘に入るとなれば、及ばずながら

我々も協力させていただきたい」


 膝をついて頭を垂れ、迷いなく口を開いた。

 今このまま黙って見ていたとなれば、ストロング王国の顔に泥を塗ることになる。

 というのは建前で、さっさと戦争を終わらせないとクロエを連れて帰れない上、落ち着いて話も出来ないじゃないか。

 装備も人も揃っている。

 ならば一刻も早く事態を収拾してしまった方が良いだろう。


 「そうさな、ワシは一度戻って騎士達に指示を出さにゃならんが――」


 「その必要はない。 もうお前の所の騎士にも、私が指示を出してきた」


 誰かがノコ王の声を遮った。

 そちらに、というか上空に視線を向ければ杖に座って浮遊する老人が一人。

 徐々にこちらに降り立ちながら、鋭い眼差しで周辺の顔ぶれを見回していた。


 「おう、やっときたかオータ」


 「貴様、民の前ではそう呼ぶなと言っているだろう。 一応王同士なのだ、面倒でもケノコ王と呼べ」


 どうやら両国の王が揃ってしまったらしい。

 普通こんなことがあり得るだろうか?

 いや、ありえないだろう。

 協力関係にある両国とはいえ、護衛もつけずいきなり王同士で面会なんて考えられない。

 色々ありすぎて理解が追い付かないんだがどうすれば……なんてやっていると、ケノコ王がこちらに歩み寄り、静かに頭を下げて来た。


 「お初にお目にかかる、私はケノコ王国のオータ・ケノコ。 無礼を承知でお願いしたいスミノ王子。 見た限り、後ろに居る女性たちはかなりの魔導士のご様子。 そして貴方や後ろの勇者二人も相当な実力者とお見受けする。 どうか、我々の国に力を貸してはくれないだろうか」


 果たしてどこから聞いていたのか、彼はこちらの戦力を既に知っている模様だ。

 そして彼の話はこちらとしても願ってもない、訳なのだが……


 「頭を上げてくださいケノコ王! 私程度に軽々しくその様な事をされては……あぁえっと、スミノ・フル・ストロング。 及ばずながら、この戦いに参戦させていただきます」


 いつまで経っても顔を上げないケノコ王に対して、慌てて膝を付き協力する旨を伝えた。

 本来なら勝手にこんな事をしては色々と問題があるのだが……今回ばかりは他に選択肢もない。

 勇者二人を連れ帰る事を名目に、大目に見てくれる事を祈るしかない。


 「ありがとう、スミノ王子。 この恩はケノコ王国、ノコ王国共に必ずや」


 「いえ、これは僕自身の選択です。 どうかお気になさらず」


 言っても無駄と分かっていても、言葉を紡いでお互いに握手を交わした。

 これで戦争参加が確定となった。

 連れて来た二人と勇者二人には申し訳ないが、この場を切り抜けなければ事態は終わらない。

 きっと皆なら分かってくれる。

 そしてきっと、このメンバーなら切り抜けられる。

 そんな自信と共に、仲間達への掛け声を上げながら振り返れば……


 「さぁ皆、私達も門の外へ――」


 「紅ショウガ、小さくなれますか? 今のサイズではちょっと……」


 「わんっ!」


 「おぉ! ちっこくなったぞ!? クロエ、これなんて魔獣だ?」


 「あらあら、随分と可愛らしい。 ちょっと抱っこしてみてもいいですか?」


 女性陣は、戦争なんかよりもワンコの方がずっと大事だったようだ。


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