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魔法とかスキルとかヤベー奴ばっかりなんですけど?


 『ご来場の皆様! 長らくお待たせしました! 今年も始まりましたノコ王国とケノコ王国による戦争トーナメント! 互いの国の選手が混じりあい殴り合う! 熱き戦いが幕を上げたぁぁ! 最後に残った選手がどちらの国にて試合申し込みをしたかによって決まる、分かりやすいこの戦争。 今年白星を挙げるのはどちらの国だー!?』


 会場の真ん中に立っている燕尾服の男性がマイクに向かって声を張り上げれば、それに負けないテンションで会場の皆が「ウオオオォォォ!」と声を上げる。

 とんでもなく広い会場な訳だが、そんな会場でさえ地響きでも起きたんじゃないかというくらいの声のデカさ。

 皆テンション高いなぁ……というかこのイベント、一応戦争だったのか。

 改めてパンプレットを読んでいると、その辺の内容は裏に書いてあった。

 政治が絡んできそうな内容なのに、まさかのチラ裏である。

 大丈夫かこの国。

 そんな感想も出てくる訳だが、内容を読んでいく内にどっかのアルコール大国よりずっとマシだと思えてくる始末。

 その1、この大会は二つの王国の戦争であるが、他の国の様に無駄に血を流す事を望まないため大会形式を取っている。

 会場は設置された魔道具で守られ、いくつも並んでいる僕らが戦うステージ一つ一つに回復役と見られる修道服を着た人員が配置されていた。

 その2、この二つの国は別に仲が悪い訳ではない。

 むしろ王様どうしで口喧嘩出来るくらい仲がいい、そして両者とも「こっちの国の方が凄いもんね!」みたいな張り合いが続き、その度に様々なイベントを開催している。

 詰まる話喧嘩する程仲がいいというやつだ。

 その3、こういうイベントで儲かったお金は基本的に両国に振り分けられ、国の強化や民の為に使われているご様子。

 今回の様な大掛かりなイベントでは他国からのお客さんも多く、その度にかなりの黒字となっているらしい。

 なので街の人は常にといっていい頻度で活気づいているし、ここで売り込むんだとばかりに屋台がずらり。

会場の至る所でミニスカートのお姉さん達がお酒を販売してまわったりしている。

 ようはアレだ、お祭りの国だここ。


 「まぁ大体その予想であってますかね。 ちなみに他の国や魔族と戦争になった時は、両国とも戦力を出し合って戦う程仲がいいんですよ。 でも何故か、王様同士はいつもくだらない事で喧嘩しているって話ですけど」


 補足説明とばかりに、僕の思考にラニが口を挟んでくる。

 もうかなり慣れてきたが、考えている事が筒抜けって普通に考えたら怖いよね。

 まあ楽でいいって思う事の方が多いけど。


 「常に心を読んでいる訳じゃありませんから安心して下さい……ネコさんが何か悩んでるなぁって思った時だけです。 多分」


 コイツ多分って言った。


 「まぁ別にいいですけど。 それより王様同士仲が悪いってのも、ある意味必然かもしれませんね」


 「というと?」


 今は心を読んでないのか、ラニが不思議そうな顔をこちらに向ける。

 だって、ねぇ? とばかりに先生の方を振り返れば、彼もまた気づいた様でウンウンと首を縦に振った。


 「ちなみに先生はどっち派ですか? 僕はタケノコです」


 「俺はキノコの方が好き」


 「お二人とも何の話をしてるんです?」


 何はともあれ、ノコ王国とケノコ王国の戦争。

 その第一試合が今、始まった。


 ちなみにコレ、その日その日で賭けが行われているらしい。

 その情報を聞いた瞬間、僕たちは急いで自分達の馬券を買いに走った。

 目指せ万馬券、勝てば勝つほどお金が入る。

 しかも自分たちにも賭けられる。

 素晴らしいね。


 「いや、馬券……ではないですよね?」


 ラニが何か呆れた顔で僕たちの事を見ていた。


 ――――


 『さてさて、順調に試合も進んでおります。 会場は全部で8つ。 お手数ではありますが、見たい試合の実況はお配りしたボタンでチャンネルを合わせてご視聴ください。 さぁここまでの試合結果、いかがだったでしょうか?』


 『いやぁやはり“勇者ヴィンセント”は強いですねぇ。 あっという間に試合が終わってしまいました。 しかし他の参加者も凄いですね、“二つ名”持ちも多く参加していますから、両国の選手とも目が離せません』


 『ありがとうございます、それでは空いたステージからドンドン進めていきましょう。 準備が整ったのは第7会場、入場してくるのは“ドラフト”のパーティメンバー。 この地では有名な冒険者6人のパーティだぁ! それに対するは……おや? 今回初参加の様ですが、これは大丈夫か? “妖精焼肉”を名乗る3人パーティ。 一人は妖精、もう一人は幼女。 ちょっと試合としても不安要素の多い構成ですが、大きな怪我などしない事を祈るばかりです』


 謎の空飛ぶ実況席から、会場全体を見渡すメインパーソナリティの声が聞こえてくる。

 幼女とはなんとも失礼な、これでも18だぞ僕は。


 「ネコさん、ねぇネコさん。 お聞きしたい事があります。 何ですか妖精焼肉って、何なんですか? ラニは焼かれる運命にあるんですか? もう少し考えてパーティ名書きましょうよ! “鎧の勇者”とか色々あるじゃないですか!」


 え、嫌です。

 自分から勇者ですよーって名乗る行為はNGでしょう。

 そういうのは異世界主人公さんにお任せしますよ。


 「その異世界主人公さんなんですからもっと自信もって名乗りましょうよ!? よりにもよって何ですか妖精焼肉って!」


 「焼肉の気分だったので……」


 「だからその後焼き肉屋に入ったんですね、そういえば行きましたね。 うん、もういいです」


 何やらラニにも納得していただけたようで一安心。

 さてさて、記念すべき第一回戦の相手は確か“ドラフト”だっけ。

 ナンバーワンとか後に続いたら、そりゃもう語呂が良かったのに。

 そんな感想を浮かべながら会場に上り、対面する相手を観察してみると……凄くファンタジーだった。

 ソードマン、タンク、アーチャー、マジシャン、ヒーラー、そして盗賊。

 この場合アサシンとかスカウトって言った方がいいのだろうか?

 とにかくパッと見で分かるパーティメンバー諸君。

 いいね、バランス良くて羨ましいね。

 まさにお手本って感じ。


 「そういうこちらは何なんですかね……前衛二人と光る妖精が一人。 そりゃ実況と解説のお二人も不安になりますよ……」


 ラニがため息を溢している間に実況は進み、レフェリーと見られる男性が険しい顔で両者に視線を送った。

 そして――


 「試合開始!」


 その声と同時に走り出した相手方は、見事な連携を見せてくれる。


 「いつも通りにいくぞ!」


 「前衛は任せろ! “ヘイトコントロール”!」


 リーダーっぽい剣士の彼が声を上げると、大楯を持った男がこちらに向かって走ってくる。

 なんか叫んだと同時に体が緑に光っているが、あれはスキルとかってやつなんだろうか?

 魔法もろくに見たことないけど、スキルなんてものは完全初見であり未知の塊。

 はてさてどうなる事やら。

 などと呑気な感想を浮かべている内に相手の陣形は組みあがっていく。

 盾の後ろに剣の人、弓兵の女の子と盗賊の少年が左右に展開し、残る二人は後方に控えながら何かを呟いている。

 凄い凄い! 見事なまでのパーティプレイだ!


 「言ってる場合ですか! こっちはどうするんですか!?」


 ラニが慌てふためく中先生に視線を送れば、ワクワクした様子で腕の筋肉をピクピク動かしている。

 キモイ。


 「先生、正面任せていいですか? 僕はサイドの一人行ってきます」


 「時間を稼ぐのは構わないが……別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」


 「それ死亡フラグじゃなかったっけ? むしろ倒せって言っているのに気づけ脳筋」


 「おっしゃぁぁ! いくぜぇ!」


 掛け声と共に、ボディービルダーみたいなムキムキマッチョが走り出した。

 真正面から迫る大楯に向かって。


 「いやいや何考えてるんですかお二人とも!? 無謀にも程がありますよ!」


 「はいはい、今はそういうのいいから。 楽しむ事だけ考えようかラニ、どうせ試合だし」


 「無理です!」


 「それじゃ僕と反対方向へ向かってね、合図出したら光ってね?」


 「お願い聞いて!?」


 慌てているラニを無視して、僕もステージを回り込むように走り始めた。

 やけに視線が盾の方に向いてしまうのは、相手のスキルの影響なのか。

 非常に鬱陶しいが視線だけならどうとでもなるだろう。

 そんな事を考えながら走っていると、ドゴンッ! という変な音が会場に響き渡った。

 どうやら、試合が始まったらしい。


 ――――


 “ドラフト”のリーダー、タロンは考えていた。

 どうすれば相手が降参してくれるか、ただその一点を。

 試合相手と思われる三人組は、見るだけで異常だと分かる。

 背の高い男、多分コイツが最大戦力でありリーダーだろう。

 何も武器を持っていない様にも見えるが、その鍛え抜かれた体を見れば強者だと理解できる。

 しかし残りの二人はどうだ?

 一人は妖精、あれは回復かバフ要員だろう。

 とはいえ現代では珍しい妖精だ。

 勇者に同行するという話はよくあるが、“はぐれ妖精”が旅人に懐くこともあると聞く。

 彼らは自分達を勇者だと名乗っていないようだし、おそらくは後者なのだろう。

 そんな希少な存在である彼女を傷つけるというのは、些か良心が痛むというもの。

 そして問題はもう一人の幼女。

 どう見ても12~3歳の女の子だ。

 しかも首には奴隷の首輪を嵌めている。

 卑怯、鬼畜。

 そんな言葉が浮かんでしまうのは仕方ない事だろう。

 俺たちにあの子に刃を向けろというのか? 幼子を傷つけろというのか?

 いくら試合後に治療してくれるとはいえ、彼女の心には直らない傷が残ってしまうだろう。

 それさえ理解したうえで、あの男は彼女たちを“盾”としてこの大会に参加させたのだろうか?

 奴隷に拒否権はないと聞く。

 奴隷について詳しくはないが、主人に命令され無理やり出場させられたのは目に見えて分かる。

 彼女たちへの攻撃を躊躇った瞬間あの男が牙をむく、という戦術なのだろう。

 とてもじゃないが戦術とは言えない稚拙なやり方だ。

 いいだろう、だったら即効で終わらせてやる。


 「いつも通りにいくぞ!」


 そう叫んだ後に、スキル“伝達”を使う。

 珍しくもないスキル、だがパーティーリーダーになるなら必須とも呼べるスキル。

 心の中で思うだけで、メンバーに意思が伝わるというありきたりな能力であり、有能なスキルだ。


 『妖精と奴隷の幼女には傷をつけるな。 彼女たちは巻き込まれただけだ』


 その一言で全員に伝わったらしく、皆険しい瞳で相手の男を睨みつける。

 これでいい。

 アイツさえ排除してしまえば、二人は降参する以外に道はない。

 そう、思っていたのに。


 「おっしゃぁぁ! いくぜぇ!」


 そんな叫び声を上げながら、狙っていた男がこちらに向かって走ってくる。

 訳が分からなかった。

 お前が最大戦力であり、他の二人は前に出さないと意味をなさないのではないのか?

 だとすれば何故お前が一番先に突っ込んでくる。

 なんて事を思い浮かべながら困惑していると、彼は大楯を構える仲間の前でピタリと静止した。


 「お前たちに、本当の“スキル”というモノをみせてやろう……」


 そういいながら、男は構えもせず直立不動で佇んでいた。

 思わずこちらも足を止めてしまったが、どうしたものやら。

 どうする? とばかりに俺に視線を投げかけてくる大楯を構える仲間に、俺はなんと指示を出せばいい?

 そんな風に悩んでいたのは、およそ数秒だったと思える。

 その間に、彼の方が先に動いた。


 「“戦闘経験”とは、覚えるモノではない。 体で感じるモノなのだよ。 そして俺の技を一つ披露しよう、これが“無拍子”というものだ」


 やけに気取った喋り方をしながら真っすぐ立っていたはずの彼が、急に“消えた”。

 は? なんて感想を漏らす頃には、最前衛であった筈の味方の盾にヒビが入り、俺に向かって背中から突撃してきた。

 彼のフルプレートの重量と、更には大楯の重量。

その勢いに負けて後方に吹き飛ばされながらも、“何かをしたらしい”彼に向かって視線を投げた。


 「そしてこれが本当の“掌底”だ。 しかしほんとこりゃ凄いな、何だっけ? ……身体なんとか? あー、うーん……いいや。 スキル、“プロテイン”。 こいつで決まりだ」


 スキル“プロテイン”。

 まさか、ギルドでも未発見なスキルホルダーだったとは。

 これはちょっと……不味いかもしれない。

 早々に予想を裏切る展開を迎えたこの試合。

 彼は奥歯を噛みしめながら、目の前の男を睨んだのであった。


 ――――


 先生が正面から迫る大楯を右腕でブチ込み、相手の二人が吹っ飛んだ。

うわぁ……肉体強化ってすげぇなぁ……などという感想を齎した瞬間、大楯に視線を奪われる不快感は消え去った。

 これで目の前の敵に集中できるというモノ。

 走っていく先に居るのは弓使いの女の子、かなり美少女なので拳を叩き込むのは非常に心苦しいのだが……どうにもこっちを警戒している様子がない。

 先生との戦闘が予想外だったのか、それとも別の要因か。

 とにかくチャンスなのは間違いない。

 (ラニ、聞こえますか? 今私は貴女の心に直接――)


 「そういうのいいですから! 早く指示を下さい! ラニは戦闘に不向きだと、あれほど! 言ったじゃないですか!」


 そういう割には、捕まえようとするアサシンの手を起用に避けているラニ。

 しばらくこのまま見ているのも悪くないかもしれない。

 なんて思った所で、キッ! と強い眼差しで睨まれてしまった。

 全く、せっかちな妖精さんも居たものだ。

 (では光って下さい。 思いっきり、ピカーって)

 心の中ではっきりと言葉にした後、ラニはアサシンの手から逃れる様に上空へと飛び上がり、「いきますよ!」という掛け声と共に発光した。

 まさにスタングレネード。

聴覚には異常がないが、視覚の方だけでいえば……


「くっ……眼が」


「お、おぅ……ナビちゃんが何やるのかと思えば……眼が」


「何で二人とも直視してるんですか!? ステージの全員の視力奪ってますけど!? 仲間の視力も奪っちゃってますけど! 前々から思ってましたけど、二人とも馬鹿ですよね!? 絶対馬鹿ですよね!? このステージ全員が目を抑えてフラフラしてますよ!?」


『おぉっと!? これは、どういうことだぁ!? 妖精による目くらまし、だがその影響は仲間へも及んでいる様子。 連携ミスか、それともこれも作戦なのか。 とにかく全員の動きが止まってしまったぁ!』


あかん、メインの実況さんからもこのステージが“冷めている”様子が伝わってくる。

不味い、早く何とかしないと。

視界のぼやけた片目を開き、目の前に居る弓兵に目を向ける。

すると彼女はなんらかの“スキル”か“魔法”を使ったのか。

ブツブツと小声で呟いた後、ラニに向かって弓を構え始めた。


「つまりあの子が居なくなれば、全体攻撃も不可能ってことでしょ!」


そう言って弓矢を向けられたラニが、「ヒッ!?」と短い悲鳴をもらす。

だけどまぁ、こっちは僕の担当な訳でして。


「申し訳ない、貴方は退場していただきます」


未だ視界はぼやけているとはいえ、弓を構えた彼女の輪郭くらいは大体分かる。

彼女の構えた弓の弦に向かって、クラウスさんから貰ったナイフを一閃。

ブツッ! とやけにいい音を立てながら、彼女の弓は武器になり得ないガラクタと化した。

弦がとんでもない勢いで暴れた気がするが、顔とかに傷つかなかった? 平気?


「……は?」


彼女のそんな声を聴きながら、ぼやける視界の中後衛組の元へ走り出した。

そこまでは良かったのだが。


「せぇい!」


視線全体に影が落ち、顔面に強い衝撃を受けて後ろに吹っ飛んだ。

 受け身を取りながら起き上がり、徐々に回復していく視界が捉えたのは弓使いの彼女が足を振りぬいた姿。

 どうやら彼女の蹴りを顔面でお迎えしてしまったようだ。

 普通に痛い、ていうか絶対鼻血出てる。


 「弓を使っているからって、遠距離ばかりが仕事だと思わないでね」


 そう言って彼女は、二振りの短剣を腰の後ろから取り出した。

 前にネット上で聞いた事がある、「こいつ弓兵の癖に弓つかってやがる」と。

 普通に聞けば訳の分からない発言であるが、どこぞの作品でほぼ弓を使わない弓兵が居たのも確か。

 そして目の前の彼女も、その部類なのかもしれない……

 いやまぁ普通に考えれば接近された時の備えだったのだろうが。


 「“ブースト”」


 「“ファイヤーボール”!」


 更に二つの声が聞こえたかと思えば、弓使いの彼女後ろから迫る幾つかの火の玉。

 それらは弓少女を避けながら、僕にの方へと向かってくる。

 これが魔法かぁ、凄いなぁ。

 さて、どうしよ?


 「簡単に避けられると思うなよ!?」


 火球の後ろから迫る短剣を持った弓使い。

 あー、うん。

 不味い、詰んだかもしれない。

 とくにかく火球を避けない事には始まらないが、避けたところで次の火球か双剣弓使いが突撃してくる。

 これはもうね、無理。

ファンタジー凄いわ、としか。


 「ネコさぁぁぁん! もう無理! こっち無理ですって!」


 どこからかそんな叫び声が上がり、その声は諦めかけた思考の外側から周囲の状況を伝えてきた。

 そういえばそうだ、これは異世界での試合。

 目の前の相手を必ず相手しなければならないというルールはない。

 ということは……あるじゃん、逃げ道。


 「ラニ、今から助けに行ってあげますからね!」


 「感謝です! こんなにもネコさんが頼もしいと思った事は……って後ろぉぉぉ! ネコさんの後ろからいっぱい何か来てるんですが!?」


 「乱戦上等! 大乱闘スマッシュなんとやらです! まずはお前だ、黒ずくめの盗賊野郎! ドロップキィィック!」


 色んなものに追われながらも、妖精を捕まえる事に夢中になっていた彼の背中に向かって突き出された両足は、そのまま彼の体へと吸い込まれていく。

 まるでウザ絡みしてくる男子に、思いっきり後ろから奇襲してやったような達成感。

 向こうなら法律上できない、というかこっちでも普段そんな事したら不味いだろうが。

 そんな良く分からない“やってやった感”を噛みしめながら、吹っ飛んだ彼に飛びついて背面に担いだ。


 「ラニ! 僕の胸元に!」


 「ちょっとどこが胸か分かりませんが、わかりました!」


 「磨り潰すぞクソ虫」


 楽しい会話を終え、ラニが僕の胸元に飛び込んだ瞬間。

 派手な音を立てながら、背面から衝撃を感じる。

 思っているよりも軽かったので一瞬戸惑ったが、相手の“手数”からすれば終わったのだろう。


 「お前は……なんて事を……」


 そんな声が聞こえてきたが、まぁ気にしない方がいいと思われる。

 悲しいけどコレ、戦争なのよね。


 私たちの代わりに火球をその身で受けてくれた盗賊の方に感謝しつつも、早く治療してもらう為にジャイアントスイングで会場の外へと放り投げる。

 すぐさま回復要員と思われる人たちが駆け寄ってきてくれたから、多分大丈夫だろう。


 「さて、仕切り直しと行きますか」


 「もうラニは帰りたいです……」


 それぞれ違う顔を浮かべながらも、やる事はかわりない。

 僕たちは勝たなければいけないんだ。

 魔法とか本格的な武器とかヤベー奴がいっぱいだけど、兎に角僕らは負ける訳にはいかないんだ。

 なんたって、全財産を自分達に賭けてしまったのだから。


 「あぁもう嫌だ、この二人本当に嫌です……行動が極端すぎます」


 疲れ果てた様なラニの言葉を聞きながら、僕は再び拳を構えたのであった。



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