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活動限界、きちゃいました?


 「あ、どうもエルフの皆さま。 僕黒江っていいます、今後共よろしく」


 「最悪のファーストコンタクトだと思うんですけど、そう感じるのはラニだけですかね?」


 闇夜の様に真っ黒な鎧。

 見上げる程の身長に、異様なまでに大きな手。

 こちらを見下ろす眼光は、震え上がる程恐ろしく力強い。

 対面しただけでも感じるこの力量差。


 自分たちの事を”誇り高きエルフの民”などと謳っていた事もあった。

 だというのに、今の我々はどうだ?

 地にへばりついて、指先一つ動かす事さえ出来ず、ただただ震えるばかり。

 お前たちなどいつでも蹂躙できると、そう宣言しているような圧倒的存在が……そこにはいた。

 いうなれば、”死神”。

 そんな絶対的存在が、今目の前には立っていたのだ。


 「残党退治行ったほうがいいか? 全部黒江隕石で吹っ飛んだわけじゃねぇだろ?」


 銀色の鎧を来た戦士が、クロエと呼ばれる黒鎧に飄々とした様子で話しかける。

 見た目だけなら神々しいとさえ感じる美しい鎧を身にまとってはいる彼もまた、かの者の隣に並び立つ実力の持ち主なのだろう。

 恐ろしい、もはやそれしか感じない。


 「あーどうなんですかね? 別に逃げ帰るってくれるなら、それでも良いような気がしますけど。 あと人を隕石呼ばわりするの止めて下さい」


 「じゃあメテオクロエストライク」


 「言い方の問題じゃない上にダッサ、ネーミングセンス皆無ですね相変わらず。 というか結局隕石呼ばわりしてるじゃないですか」


 何やら緊張感のない会話を繰り広げているが、それでも我々は立ち上がる事さえ出来ずにいる。

 可能であれば残りの魔獣共を殲滅して頂きたいが、そんな事をお願いすれば何を見返りに要求されるか分かったモノではない。

 今の状況ですら、奴らの指揮官とその他多くの魔獣の殲滅、そして子供達の救出までしてもらっているのだ。

 この上さらに”お願い”を繰り返せば、相手の機嫌を損なう恐れがあった。


 「い、いえ……もう十分です。 あとは我らエルフの問題、これ以上お二人の手を煩わせる訳には……」


 「あ、そうですか? であれば僕達はこれでお役御免ですかね」


 「んじゃ残るはエルフの子達とキャッキャウフフが待っている訳だが、この場にはエルフマンしか居ないのはどういう訳だ? エルフウーマンはどこへ行った?」


 やはり、そう来たか。

 これ程までの強者がただ働きなどする訳がない。

 予想はしていたが、報酬に若いエルフの娘を差し出せという事か。


 「カラスさん言い方、ねぇ言い方。 今の状態でそういう発言は誤解を招きますって」


 「僕はエルフマンでも気にしませんけど、子供達も居ますし」


 「だからお二人とも、少しは空気を……」


 あの銀鎧を見た時、一瞬でも助けが来てくれたと感じた自分を恥じた。

 彼等はやはり、我々を金儲けの道具にしか見ていないのか。

 奴隷として売れば、エルフは高い値が付く。

 それは女子供はもちろんの事、男のエルフとて例外ではない。

 彼らは我々を救ったのではなく、自分たちの商品を傷物にしたくなかったというだけの事。

 考えてみれば当然の事だろう。

 今まで他種族との接触を拒んできた我々に、今更誰が手を差し伸べてくれるというのだ。


 そしてこの二人の強者が来てしまったからには、この集落も今夜終わる。

 多くの者を彼等の到着前に逃がせたのは、不幸中の幸いだと言えよう。


 「どうか、どうかお願い申し上げます。 この私の命だけでご満足頂けないでしょうか? 年寄りの私ではご満足いただけぬかもしれませんが、ここはどうか……この命だけで……」


 それでも私は最後の望みに掛けた。

 惨めでも何でも、集落の者には手を出さないでくれと、額を地面に擦りつける。

 こんな年老いたエルフ一人の命では、大した金にはならないだろう。

 例え無駄だと分かっていても、私には彼等にそう頼み込む事しかできなかった。


 「あーえっと、そういうのはちょっといらないですかね。 僕らはただ——」


 「——ネコさん!?」


 言葉の途中で、”黒鎧”が崩れた。

 まるで中身が無くなったみたいに、全てのパーツがバラバラとその場で崩れ始めたのだ。


 「な、なにが……」


 起きたのかと言葉にする前に崩れた鎧が黒い霧に変わり、その中心には小さな人族の女の子が倒れていた。

 リリィとそう変らない程の身長、細い手足。

 何か特別な力を使っていたのは間違いないが、あんな小さな子供が戦っている中我々は震えている事しか出来なかったのかと思うと、無性に胸が苦しくなる。


 「黒江! おいどうした!?」


 銀鎧がすぐさま駆け寄り、彼女を抱き上げる。

 完全に意識が無いようで、全身から力が抜けているのが分かる。


 「え、は? アレがネコの正体……ってか、”黒鎧”の中身? うそだろ?」


 二人を連れて来たレナでさえ、驚愕の声を上げていた。

 リリィが心配そうに駆け寄っていく姿をみると、彼女は黒鎧の正体を知っていたようだ。

 しかし、どうする。

 原因は分からないが、黒鎧は居なくなった。

 残るは銀鎧のみ……だが我々だけで勝てる相手ではないだろう。

 この窮地を救ってくれた恩人とは言え、彼等は若いエルフを求めている。

 彼らに手を貸し、相応の対価を支払うべきか……それともこの機を逃さず、全員で逃げるべきか。

 そんな事を悩んでいる内に、彼等の方が先に動いた。


 「恐らく魔力切れだと思いますけど、普通は意識を失ったりしないです。 ネコさんはカラスさん程”肉体強化”が上手く使えてなかったみたいなので、その反動だと思います。 ”鎧”を使っている間随分と自然にスキルを使用していたので、ラニも油断してました……」


 「よく分かんねぇが医者に見せればいいのか? 帰るぞラニ、ナビしろ!」


 「了解です!」


 それだけ言うと銀鎧は少女に肩に乗せ、我々に背を向けた。

 どういう事だ? これだけの偉業を成し遂げていて、彼等は何も要求せず立ち去ろうとしている。

 普通なら我々に治療や薬を要求したり、金銭……もしくは先ほど言っていたようなエルフの子を要求してくるはずなのに。

 目の前の彼等は、明らかにこの場を去ろうとしている。

 後日改めて謝礼を要求するつもりなのだろうか?

 我々とて、このような状況になれば住処を移すのは容易に考えられるだろうに……


 「じゃあなエルフ達! 特にエルフちみっこは美人に育てよ?」


 それだけ言ってから、銀鎧は物凄い勢いで走り去っていった。

 結局、彼等は何が目的だったのだろうか。

 黒鎧の中身、あの少女は間違いなく人族だった。

 ならば我々に手を貸す義理など、全くないだろうに。

 未だ理解が及ばず、唖然と彼等が走り去った方角へ視線を向けていると、二人の少女が口を開いた。


 「ネコお姉ちゃん、大丈夫かな?」


 「大丈夫だろ、何せあの”黒鎧”だからね。 しかもエルフが見たいって理由だけでこんな山奥まで来て、魔獣を蹂躙していくぶっ飛んだ連中なんだ。 そう簡単にくたばりゃしないよ」


 レナとリリィ。

 少なからず彼等と時間を共に過ごした二人が、唯一この空間で声を上げていた。

 リリィは黒鎧の少女を気遣う雰囲気を見せ、今では精霊に祈りを捧げている。

 レナはと言えば、昔はかなり人族を毛嫌いしていたのが嘘の様に、清々しい顔で彼等の去った方角に笑顔を向けていた。

 呆れた顔を浮かべながらも、まるで友人を見送るかのような表情。


 「レナ、リリィ。 彼等は一体……」


 皆唖然とする表情を浮かべたままだが、誰しも同じ疑問を抱いているだろう。

 突然現れ、我々の窮地を救い、そして慌ただしく去って行った彼等。

 そんな”人族”に疑問を抱くなと言う方が無理な話だ。


 「そうだなぁ、あいつ等は」


 未だ跪くような体勢の我々に、二人は満月を背に振り返る。

 そして集落の中に居る時では見せた事もないような、溢れんばかりの笑顔で皆の疑問に答えて見せた。


 「”ヒーロー”ってやつになるんだって、そう言ってたよ。 全く、変な連中も居たもんだね」


 ————


 「アイリ、ソフィー両名。 出ろ」


 ただそれだけ言って、部屋に入ってきた兵士は再び部屋の扉を閉めた。

 こっちは着替え中だと言うのに、何やねんコイツは。


 「なんでしょうか、ソフィー何かやらかしました?」


 同じく着替え中のアイリも慣れた様子で首を傾げている。

 私達は奴隷だ、早い話物と同じ。

 色々と特殊な条件はあるものの、さっきの兵士などからすれば私達の裸など見た所で、特にコレと言って謝罪の必要もないのだ。


 「なんもやってないよ。 前の戦場以来、ほとんどずっと一緒にいるんだから知ってるだろ?」


 答えながらささっと着替えを終わらせ、二人して部屋の外へ出る。

 廊下に待っていた兵士は無表情のまま私達を見ると、そのまま歩きだした。

 これといって説明なんかが貰える訳ではないらしい。

 大人しく二人して彼の後へ続いて歩く。

 廊下を抜け、建物を抜け、そして城の中へと入っていく。


 「もしかして”買われた”、なんて事無いですよね? このタイミングで? って感じですし」


 その可能性も0ではないが、恐らくそれは無いだろう。

 以前チビッ子に説明した通り、私達は自分で稼いで”自由”を買うことが出来る。

 そして例え今”買われた”としても、その後私達が国に払う金額に変わりはない。

 しかし私達を”買う側”は、元々設定された金額を払わねばならないのだ。


 「ないだろうねぇ、高額だからこその”売れ残り”の私達なんだから」


 とんでもなく高い金額で買った奴隷が、すぐさま自由になっては買い手にまるでメリットがない。

 だからこそ有り得ない、だとすれば他の理由は?

 戦争以外で優良奴隷の強制労働はできない。

 それこそ王族の命令でも無い限りは……


 「この部屋だ、入れ」


 それだけ言うと、兵士はその場を離れていった。


 「え、それだけ?」


 「普通は中に入って事情説明くらいしそうなモノですけどねぇ」


 さてどうするべきか……なんていった所で、部屋の前まで案内されたんだから入らない訳にはいかないだろう。

 考えても仕方がない、きっと部屋の中に入れば何かしら説明してくれる人がいるのだろう。


 「えーっと……アイリ、ソフィー両名到着しましたぁ。 入っていいですかぁ?」


 コンコンッと扉を叩きながら、アイリが間延びした声で到着を知らせる。

 しばらくすると中から「どうぞ」と、小さな声が聞えて来た。

 え、本当に何? どういう状況?

 二人で顔を見合わせてて見るモノの、お互いに首を傾げる事しか出来なかった。


 「失礼しまぁす……」


 恐る恐る部屋の中を覗き込んでみれば、そこには椅子に腰かけた男性が一人、こちらに背を向けていた。


 「二人とも入ってきてくれ、大事な話がある。 まずはそこのソファーにでも座ってくれ」


 やけに疲れを感じさせる声が響き、私達は恐る恐る中へ入った。

 ランタンの明かりしかないほの暗い部屋、その壁際に設置されたソファーに腰を下ろしてから、改めて目の前の男を見つめる。

 どこかで聞いた事のある声、だが思い出せない。

 何処で会った? なんて事を考えている内に、男は椅子を回してこちらに向き直った。


 「え? は?」


 「あれ? スミノ王子……ですよね? 凄くやつれてますけど、どうされました?」


 普通なら即座に頭を垂れるべきなんだろうが、それどころじゃ無かった。

 目の前に座っているのは間違いなくこの国の王子。

 前回の戦場で、すぐ隣にいたその人だった。

 しかし当時の雰囲気、というか気迫がまるで感じられない。

 数日で数年分は歳を取ったのではないかというほど、その顔は窶れ、疲れがにじみ出ていた。

 そんな彼が、静かに口を開く。


 「君たちに仕事を依頼したい。 報酬は全て返済金に当てられてしまうが、かなりの額になる事は保証する。 どうか、私に力を貸してくれないか?」


 そう言って彼は、私達に向かって頭を下げた。

 当たり前だが、こんな事は普通有り得ない。

 この国の王族が、奴隷でしかない私達に頭を下げるなんて。

 他人に見られでもしたら、それこそ一大事だ。


 「ちょっと待ってくれよ、とにかく頭を上げてよ王子。 奴隷の私達に頭を下げてる所なんか他人には見せられないだろ? アンタ……じゃなかった、王子がそこまでするような仕事なのかい?」


 慣れない敬語を使おうとして色々失敗してしまっている。

 私はもう駄目だ、普通なら不敬罪だ。

 まぁこの状態の王子ならそんな事言い出さないだろうが。


 「君たちに依頼したいのは、私の旅の同行だ。 その目的は……勇者カラスマとクロエ両名の捜索」


 その名前を聞いて、隣に座っていたアイリが立ち上がった。


 「クロエが生きているんですか!? 普通転移の魔法陣を逆走なんてしたら!」


 「高確率で失敗し、体がバラバラになる。 そうならなかった場合ランダムでどこかへ転移させられる事もある……が、その成功率はほぼ0に近い。 それが可能となるのは、時間の魔法と唯一関りがある妖精くらいなものだろう」


 つまりは生存の希望は極めて薄い。

 そんな人物を探しに行く旅、要は終身刑にも似た命令……という事なんだろうか。

 なんて諦めの混じった思考が渦巻く中、王子はきっぱりと宣言した。


 「彼女は生きている。 先日、他の国に入ったと”奴隷の首輪”から通達が来た。 クロエに渡したのは特別性でね、離れていても魔獣の討伐数まで教えてくれる代物だ」


 さっきまでの鬱鬱とした表情はどこへやら、彼は力強い眼差しを私達に向けていた。


 「これは決して当ての無い旅ではない、それは約束しよう。 そして彼女の事を知る君たちだからこそ、僕は二人に同行をお願いしたいんだ。 そしてこれは僕のわがままだ、国の人間は一切関与してくれない。 彼らはもう勇者二人を諦めている、だから僕達三人の旅になるだろう。 きっと厳しい旅になる、だからこそ……私は君たちにいくらでも頭を下げるよ。 頼む、一緒にクロエを捜してくれ」


 そう言ってから、王子は再び私達に向かって頭を下げた。

 何故彼が、そこまでアイツに拘るのか分からない。

 彼からすれば、クロエはただの奴隷に過ぎなかった筈だ。

 この国に数多くいる、その内の一人。

 私達だって、アイツとは一晩にも満たない時間を一緒に過ごした間柄に過ぎない。

 だというのに……


 「その依頼、承りました」


 アイリは、迷いなく王子の願いを聞き届けた。


 「おいアイリ、分かってんのか? どこまでいくかも分かんない上、あいつが見つかるまで永遠と旅する事にもなりかねないんだぞ? こう言っちゃ悪いが、スミノ王子には兄弟だっている。 つまり国の後釜はどうにでもなるんだ。 この意味、わかんだろ?」


 つまり、私達はずっと王子にくっ付いたまま一生を終える事だってあるのだ。

 国はスミノ王子を連れ戻そうとはしない、そして私達はこの依頼を終えない限り、自由どころから”この依頼”から解放されなくなるのだ。

 だというのに、アイリはにっこりと笑ってこちらに振り返った。


 「そういうソフィーだって、あの子の事気になってるでしょ? 戦場から戻って、クロエが使う筈だったベッドを随分と眺めて居たけど?」


 「なっ、そんなんじゃねぇよ!」


 そんな私達のやり取りを見て、スミノ王子は静かに微笑んだ。

 いつも見ていた戦場での彼とは違う、随分優しい微笑みを浮かべて居た気がする。


 「それを聞いて安心した。 現在地はわからないが、最後に立ち寄った国は分かる様になっている。 それに彼女は今も元気だ、そこは安心して欲しい」


 王子の言葉に、ふと疑問を覚えた。

 確かに高級な”奴隷の首輪”には、立ち寄った国などを主人に報告する機能がついている。

 でも相手の状態まで把握する機能なんてのは、聞いたことが無い。


 「どうしてそんな事が言える? 王子……あぁもういいや、お前がクロエに付けた首輪は、新し機能でもついてるっていうのか?」


 はっきり言って、今の世界の技術進化は止まっているにも等しい。

 かつての初代勇者が作った代物をそのまま使うか、新しい勇者の知恵を借りて作り出した品々で、この世界は回っている。

 それ以外の物なんて、勇者が作った物に比べれば何世紀も遅れている代物に過ぎないのだ。

 その両方が共存しているこの世界だからこそ、バランスが難しい。

 有力な勇者を召喚した国が、一気に勢力を増したりするのだから。

 だとしたら、カラスマ? っていう勇者が、相当な技術を持ち込んだのか?

 あのクロエが、今のこの世界をより進化させる知識を持ち合わせているかと言われれば……とてもじゃないが有り得ないという答えしか出てこない。

 アイツは食い意地の張ったただの子供だ。

 私の中では、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 ただどうしても、ふと見せる緊張感のない笑顔が、頭の隅っこにこびり付いて離れない。


 「そんな技術は無いよ。 ただ先程言った通り、魔獣の討伐数まで通知が来るんだよ。 彼女が居なくなってからずっと部屋に籠っていたけど、これを見たら居ても立ってもいられなくなってね。 私も泣き寝入りしている場合ではないと、改めて剣を握った訳だ」


 そういって、彼は一枚の紙を差し出してきた。

 あれからずっと泣いてたのかよお前。

 とは流石に言えなかったので黙ってソレを受け取ると、そこには数多くの魔獣の名前と数字が記されていた。

 なんだこれ?


 「そこに書いてあるのは全て、クロエが私の元から離れ後討伐した魔獣の数々だ。 間違いなく元気に過ごしているだろう?」


 意味が分からなかった。

 なんだこれ、彼女が居なくなってからそこまで時間が経っていない筈だ。

 だというのに渡された紙に書かれている討伐数は、小さな戦争であれば賄えるほどの数字が記されている。

 ゴブリンやオーク、コボルトにリザードマン。

 そして最後に”魔族”まで討伐した事になっている。

 いやいやいや、おかしいだろ。

 もしこれを本当にクロエ一人でやったとするならば、あいつは一体何者だ?

 戦場において、ある程度の活躍を続け、そして生き残っている者には大体”二つ名”が与えられる。

 もしも彼女の実力がこの紙に書かれている通りだとするなら。

 まず間違いなく、誰しもがこう呼ぶだろう。

 ”死神”と。


 「改めて言おう、クロエを……いや、勇者二人を捜す旅に同行してくれ。 期待以上の報酬は支払うつもりだ。 さぁ、答えを聞かせてくれ」


 実に楽しそうな表情を浮かべた王子が、私達を見つめていた。

 答えは決まっている。

 そう、決まっているのだ。

 だが……


 「一つお聞きしてもよろしいですか?」


 「なんだね?」


 「王子は、クロエを連れ戻してどうするおつもりですか? 前回の戦場では、街に戻ったら解放すると仰っていたようですけど」


 アイリが硬い表情で言葉を紡ぐ。

 私達の疑問は、その一点に尽きるだろう。

 こんな手間を掛けてクロエを捜して、その後は?

 勇者を国に連れ戻すというのは分かる。

 でもコイツはクロエを解放すると約束しているのだ。

 だとすると、わざわざ捜しに行くほど手間を掛ける意味が分からない。

 コイツ……本当に何を考えているんだ?


 「もちろん開放するさ。 今彼女を解放していないのは、彼女の居場所を掴む為に過ぎない」


 そう言ってから王子は椅子に深く座り直し、改めて強い意思の籠った瞳をこちらに向けた。

 そして……


 「彼女は唯一私を殴ってくれる女性だ。 だから惚れた、大好きだ。 奴隷だ王子だではなく、男と女として彼女とは向き合居たい。 だからこそ、私はクロエを捜しに行くのだ」


 キリッ! とキメ顔で、この国の王子様はおかしな事を言い始めたのだった。



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