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変身するしかないんですかね?


 これだ、これを求めていたのだ。


 「うまいなこの肉、何の肉だ?」


 「別に何でもいいです、美味しければ。 すみませーん! このステーキ3人前追加、あとパンもお願いします」


 「お二人とも、よく食べますねぇ……」


 近くに見えた街に立ち寄った僕達は、とりあえず食堂へ飛び込んだ。

 所持金も無いし、最初こそ涎を垂らしながらも我慢しようしたのだが、先生の「前回の報酬と、さっきの戦争の参加……つぅか火消し役の前払いとして、結構もらったぞ?」なんていう発言の元、僕達は暴食を繰り広げた。


 「ネコさんに至ってはどこにそんなに入るのか……っていうか、このエルフの子。 いいんですかこのまま放置して? 街に入る時学習していただいたと思いますけど、エルフっていうのは厄介なんです。 攫ったとか勘違いされたら、エルフと戦争の火種にもなりかねないんですよ?」


 というのも、この国に入る時。

 僕は先生の奴隷って事にしてあっさりと話は進んだのだが、問題になったのはこの子だった。

 どこから連れて来たとか、どこの集落のエルフだとか根掘り葉掘り聞かれてしまった。

 とは言え答えられる内容も少ないので、起こった事をそのまま伝えた挙句、治療のためにさっさと通せと先生が押し切って今に至る。

 なんともゴリ押しだったが、なるべく早く街を出る様にと釘を刺されてしまったのだ。

 門番の言う事では、場合によってはエルフ族が怒り狂うとかなんとか。

 全くどいつもこいつも戦争大好きっ子ばかりだなこの世界は。

 そんなにやりたきゃボードゲームでもやってりゃいいのに。

 悪態を心の中で吐きながら、運ばれてきたお肉様を口に詰め込んでいく。

 うまし。


 「しっかしまぁ、向こうの国と比べりゃ緩いってか……なんていうか皆緩いよな。  エルフっ子には過敏に反応してたけど」


 「語彙力、おい語彙力。 でも確かにエルフっ子にはやけにビクビクしてましたね、こんな可愛いのに」


 「そりゃそうですよ……ストロング王国とは法律だって違えば、罪だと判断される具合もかなり差があります。 向こうでは犯罪だったことが、こっちでは普通だったりするんです。 良し悪しはあっても、向こうより気楽なのは確かでしょうね。 ちなみエルフの扱いはさっきお話した通りですので悪しからず」


 ふーん、なんていいながら二人してお肉様をむしゃる。

 詰まる話、こっちで生活している以上は向こうより犯罪と判断されるリスクが低い、と?

 そんな事を言えば犯罪国家的なアレになりそうだが、表通りを見ればお年寄りから小さな子供、そしてローブ姿の見るからにキャスターさんやらマッチョメンまで幅広く笑顔で歩き回っていらっしゃる。

 治安は良さそうだが……?

 ちなみに街中にはアク〇ラが走っていた、街によって車種が違うのかね。

 それもそれですごいわ。


 「まぁ向こうの法律が厳しすぎたのはありますね……正直言って普通に生活するにも気を使うような国ですから。 とは言え根本はほとんど変わりません、二人とも注意してくださいね? くれぐれもまた王子様とかぶん殴らない様に」


 やけにトゲの生えた言葉をこちらに投げかけながら、ラニが険しい目線を向けてくる。

 やらないよ、むしろやりたくないよ。

 こっちだって好き好んでドM王子をぶっ飛ばした訳ではないのだ。

 その辺りは少し考慮して欲しい。


 「まぁ事情は察しているのであまり強くは言いませんが……ただやっぱり心配事は残ってるんですよね。 どうします? このエルフの子」


 そう言って、ラニは未だ横たわるエルフっ子の頭に乗っかった。

 片手でさっき切り分けてあげた果実を齧りながら。

 頭の上で飲食されている本人は、この店に……というか街に入る前から目を覚ましてないけど、流石にもうちょっと遠慮してあげなさいよ妖精さん。


 「まぁ見た所体に異常はありませんし、病気か何かじゃない限りその内目を覚ますと思いますけど。 多分疲れ果てて眠っているだけじゃないですかね、用意しておく物があるとするならご飯だけです」


 「医者にも見せずに断言するのは、なんというか……ねぇ?」


 「瞳孔も開いてねぇし、脈拍も正常。 オマケに外傷も無い相手を病院に連れてくなんざ、金の無駄だ」


 「お二人は本当にこういう時本当に頼りになりますよね、うん……もうどうでもいいです」


 呆れた様にため息をついたラニが、ペシペシとエルフっ子を叩き始める。

 だから止めて差し上げろって、後その手でさっきまでフルーツ食ってたよね?

 目が覚めると知らない天井と知らないベッドだった……ならまだしも目が覚めたら知らない居酒屋に居た上、食事中の手で叩かれてました、なんて人生の汚点にしかならないだろう。


 「……ぅん……ん?」


 あぁもうほらぁ、目覚ましちゃったじゃん。

 しぱしぱと瞬きを繰り返し、気だるげに上半身を起こしたエルフっ子。

 その視線の先にあるのは肉を頬張る筋肉と、そして僕。

 どう見ても不審に思わない方がおかしいだろう。

 むしろこの状態で普通に会話が進んだら奇跡だわ、この子天使だわ。


 「お願いです! 助けてください! 私に出来る事なら、何でもしますから!」


 天使だったわ。


 ————


 「えーっとつまり、貴女の住んでいる集落が魔獣に襲われているのでこの街に助けを求めに来た、と?」


 うんうんと口いっぱいにパンを詰め込んだまま、エルフっ子が首を上下に振っている。

 空腹と疲労でぶっ倒れそうになりながらも、何とか森は抜けてきたらしい。

 結局ダウンした上、今では餌付けされたハムスターみたいになっているが。

 小っちゃい&可愛いは正義。


 「あーえーっと……もう一度確認しますが。 それは冒険者に依頼とか、集落の代表から頼まれて貴女が来た……ということではないんですよね?」


 再び頭を上下に振るチビッ子。

 相手が食事を続けている間も、ラニの能力によって事情が丸裸にされていく。

 プライバシーも何もあったもんじゃないが、まぁ便利なモノは使わないとね。

 なんて思っている内にラニは少女の額に手を置き、ちょっと失礼なんて台詞と共に目を瞑った。

 結果……顔顰めてすぐさま離れたのであった。


 「結果からお伝えします。 コレは面倒事ですので、お二人とも手を引く事をお勧めします」


 ラニのそんな無情な言葉に、エルフ幼女はパンを喉に詰まらせて盛大にむせ込んだ。

 何と白状な妖精だろうか、やはり貴様なんぞ秋の虫で十分だ。


 「そこは状況を考えてからラニを責めてくださいネコさんや。 お二人とも考えてみて下さい、確かに今この子の集落は助けが必要な事態かもしれません。 ですが敵対とまで言わずともいがみ合ってる人族のお二人がノコノコ出て行って加戦したとしましょう。 どうなると思いますか?」


 「エルフの民が助かるじゃないですか」


 「だな」


 やけに真面目腐った態度を取るラニに即答すると、彼女はやけにオーバーなリアクションで僕達の意見を否定し始めた。


 「確かに助かりますよ? でも向こうからしたら何で手を貸してくれるかもわからない異分子なんですよ。 Aという国とBという国が戦争してる中、Cがシャシャリ出てきて殲滅してみなさいよ! 警戒するでしょ普通! こいつ等は何が望みなんだとか、それだけ戦力を持った”人族”っていう種族に対して、警戒しない方がおかしいでしょうが!」


 つまりあれか、キ〇ヤマト的な感じになっちゃうのか。

 途中から突っこんできて場を荒らして去っていく的な。

 あぁ確かにそいつは不味いかもしれない。


 「でしょう!? そういうことです! 例えに使われたその人物は一体どんなガン〇ムに乗っているか知りませんが、今私達が首を突っ込もうとしているのはそういう事なんです! 下手したらエルフが人族を余計疑う事態になりかねないんですよ!」


 おいラニ、お前絶対ガン種知ってるな?

 妖精の国では現代日本のアニメ上映会とかぜったいやってるよな?


 「よくわかんねぇけどさ、詰まる話俺達が”人”だってバレなきゃいいんじゃねぇか?」


 ポツリと、先生がそんな事を漏らした。

 こいつは何を言っているのだろう、そんな事出来る訳……

 チラリとエルフっ子に視線を投げると、「助けてくれないの……?」みたいな眼でこっちを見ている。

 はい可愛い、ではなく。

 確かに見た目は人と大差ない、尖がった可愛らしい耳を覗いて。

 そしてこれまで多くの種族を見て来た訳ではないが、先の戦争で見た人型モンスターや魔族も体格的には人とそう変わりない様に感じられた。

 つまりはまぁ……全身覆っちゃえば分かんないんじゃね?


 「えぇっと……本気ですか? 下手すれば国際問題というか、そんな特撮ヒーローみたいな活動上手くいく訳ない気がするんですけど……」


 げんなりとしたラニが頭を抱えているが残念無念、その発言で先生の思考に最後のピースがハマってしまったらしい。


 「おぉ、いいじゃんヒーロー! 俺等敵前逃亡のお尋ね者になってるかもしんねぇし、ここはいっちょ派手に行って見るのも面白いんじゃないか!? 丁度変身グッズはあるし!」


 変身グッズ言うなし。

 というかそうか、確かにそうだ。

 言われて思い出したが、僕達戦争中に急に離脱したんだった。

 敵前逃亡だよねコレ、間違いなく。

 どっかのアルコール王国に返った瞬間、死刑なのですっ! とか言われるよりかはいいかもしれない。

 身近な所でヒーロー活動、そしてちょっとお金を頂いて次の街へ。

 うん、すごくRPGっぽい。


 「ネコさーん、ストロング王国が絡むと思考放棄するの止めましょうかぁー? 多分大丈夫ですから、多分」


 不安要素しかないそんなお言葉を頂きながら、僕達はその夜には街を出た。

 仕方ないね、早めに出ていけって言われてたし。

 そんなこんなでエルフ幼女の案内の元、夜の森を歩き始めたのであった。


 ————


 正直に言おう、一晩くらい宿にでも泊れば良かったと本気で後悔している。


 「おらぁ!」


 先生の拳がゴブリンの頭を粉砕し、中身やら赤い液体やらが周囲に飛散った。

 それに恐れをなしたのか、周囲のゴブリン達が顔を顰めて距離を取り始めた。


 「ほらぁ! だからロクな事にならないって言ったじゃないですかぁ!」


 必死に叫ぶ秋の虫は、人の襟元に身を隠しながら耳に優しくない音量で声を上げる。

 どうしてこうなったかなぁ……なんて、考えるまでもないか。

 エルフ大好きっ子の先生は乗り気も乗り気、まぁ僕も反対はしなかったが。

 そして何よりアルコール王国から見て僕達という存在、それを今一度想像した結果なのだ。

 勇者(笑)の二人、そして両者共敵前逃亡。

 更に片方は奴隷であり、現在地まで分かっちゃうGPS付きの首輪が嵌っているのだ。

 まずいやん、そんなの一か所に留まってたらすぐ捕まるやん。

 という事で常に移動し続けるという意味で、旅するヒーローすることになりました、まる。


 「ついさっきの記憶を振り返ってる場合じゃないですよネコさん! ホラ後ろ後ろ!」


 「あぁ、えぇ、はい」


 背後に迫った緑色の肌の方々。

 一番近くに居た緑さんの首を抱きかかえる様にして半回転捻った後、首に腕を回して周囲のグリーン達に投げつける。

 一応は警戒してくれたのか、わざわざ距離を置いてくれるゴブリンさん達は背後からの奇襲の意味が分かっているのだろうか?

 一人やられたからって下がっちゃ意味ないでしょ。

そこはいっぺんに襲い掛かってこないと。

 とはいえ……


 「やっぱり、人型は嫌です。 吐きそうです」


 「今だけは勘弁してください! 吐くより殺すを優先してくだい!」


 やけに物騒な事を言う泣き顔の妖精は、人の髪の毛引っ張りながらぴーぴー騒いでおられる。

 とはいえもう数体は討伐しているので、ちょっと慣れて来た頃合いだが……いやこれって慣れていいのか?

 なんて考えていると、背後からやけに強い光が放たれた。


 「俺、降臨!」


 脳細胞が筋肉繊維で出来て居そうな銀鎧が登場した。

 あぁもう彼に任せておけば後は問題ないだろう——


 「黒江、何してる。 はよ」


 「え、なにが?」


 「人ってバレちゃ不味い所に行くんだから、お前も変身、はよ」


 そういえばそうでしたね。

 物語的に? イベント的に? 仕方ない事だとは言え、目の前の銀鎧を見ていると更に使う気が失せるんですがね。

 いざ使ってみたら目の前に居る厨二全開鎧がこの身に降りかかると考えるとね、そりゃ気も引けますわ。


 「ネコさん不味いです! 恐らくホブ……いや、もしかしたらそれ以上の個体も迫ってきます! カラスさんだけでもかなり殲滅出来るとは言え、数が数です。 そこのエルフっ子を守り切れるとは断言できません!」


 やけに捲し立てる妖精さんが、ココでもかとばかりにピンチを告げる。

 状況は整ってしまった、というかこいつ等使わせようと必死だ。

 いいのか、使ってしまっていいのか?

 この歳になって、大声で恥ずかしい台詞を放ちながら、変身なんぞしてしまっていいのか?

 何か大事なモノを失う気がする。


 「黒江! 増援が来るぞ!」


 「ネコさん! はやく!」


 周囲のゴブリンを蹴散らす銀鎧と、頭の周辺を飛び回る妖精が叫ぶ。

 だがしかし、結構恥ずかしい……

 ポケットから黒いケースを取り出しては見たモノの、こうね……


 「お姉ちゃん……」


 縋るような眼差しのエルフっ子。

 お前もか、お前もなのか。

 この状況で、僕に大切な何かを捨てろと懇願してくるのか。

 もう、やるしかないのか。


 「来ました、前方ホブ21体! 普通のゴブリンは……ちょっと数えきれません!」


 あぁもう! 知るか!


 「へ……へん……あぁもおぉぉ! 変身!!」


 掲げた黒いケースが展開し、そこから漏れる大量の黒い霧に僕達は包まれたのであった。



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