赤い実と少女ののろい
森の奥深くには、魔法使いや魔女の住む街があるという。
人間と共存していた魔法使い達は、いつからか人間達に「自分より圧倒的な力を持つ化物」として恐れられ、迫害と理不尽な死刑により居場所を追われ、深く深く、誰も立ち寄らない森で街を作り、そこに住み始めた。
朽ちていく身体を維持する為に彼らは記憶を対価に「生まれ変わる」ことを選んでから何百年後。
街に、「のろいの少女」が生まれるまで、彼らの脅威など無かったのだ。
「……あの子は呪われているんだ。生まれた時に赤い実を持っていたんだよ」
「赤い実は破滅の証じゃ。あの子は育てば他を誑かすかもしれん。」
赤い実の少女はそんな大人達を他所にすくすくと成長する。
しかし彼女の父母は気付けば既にいなくなっていたので、彼女は自身で働かねばならなかった。
彼女の家には大きな赤い実のなる木があったが故、食べるものには困らなかったがそれ以外にもお金が必要だった。
赤い実をもぎ、それを調理し、加工して街の市場で売る。そうして微々たるお金を稼ごうとしたが、街の人は彼女の作ったものを食べるはおろか、見向きもしない。
何故、皆は私をこんなにも否定するのだろう。
姿形は変わらない。同じように生きているのに、どうして私だけこんな扱いを受けるのだろう。
夜中に何遍も泣いたが、そんな彼女の小さな背中や頭を撫でてくれる手等は無かった。
それでも泣いているだけでは何も変わらないことを、彼女は知っていた。
「泣くくらいなら、笑いましょう。笑えばきっと、幸せは訪れる。」
彼女は父母が残した家の中で一番大好きな本の台詞を口ずさんで街へ向かう。
籠にはいつも通り、赤い実を加工した食べ物が入っていた。
「こんなに美味しいもの、食べないと損ですよ!」
だけど、声は届かない。
少女の心はもう限界だった。
物心ついた頃から一人ぼっちだった少女は、味方がいないこの世の中で生きるのは、とてつもなく辛かったのだ。
だから、自身の目の前で、自身に声をかける青年に気付かなかった。
「赤い実のアクエ。その美味しそうな食べ物を一つくれるかい?」
世界がきらりと煌めき、弾けるように光が飛び散る。
彼女の瞳の中で、青年はそんな風に見えていた。
震える手で差し出したそれを、袋から取り出し一つ齧る。
「ああ、とても美味しいね。太鼓判をあれだけ押すに相応しい味だ」
そう言って微笑む青年。
ぱちぱちと、弾ける光は収まらなかった。
青年は自身をマグと名乗り、自分にも身寄りが無いことを告げた。
一人ぼっちだったアクエと、同じく一人ぼっちのマグ。
二人の距離が縮まり、いつしか一緒に住み始めるのは時間の問題だった。
それぞれ一人だったが故に、誰かと歩調を合わせるのは苦労したが、不思議と嫌ではなかった。
そうしていつしか、二人は二人きりだけで結婚式をあげ、二人きりで老いていく。
時の流れは二人が思うよりゆっくり過ぎ、身体には皺を残していった。
マグがアクエと出会って何十年か経ち。
アクエが住んでいる家の窓際で、ひっそりと二人は皺だらけの手を繋ぎあったまま、息を引き取った。
「あの赤い実をね、食べるのはいけないんだ。
魔法使い達は老いも死もないが、あの赤い実を食べるとそれが無くなってしまう。
私達を迫害した、醜い人間にね、なってしまうんだよ。
いいかい、マグ。それでもいいというのかい。」
「ああ。それでいいんだよ。
僕はもう、生きるのは、疲れた。」




