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狼ロミオと猫ジュリエット

 昔々、とある森にウルという名の一匹の狼が住んでいた。

 大きな身体、獰猛な牙、鋭い目付きに他の動物達は彼に近付こうともしない。

 しかし、仲間内からは「草食系男子」としょっちゅうからかわれていた。

 それもそのはず、彼はある一匹の美しい野良猫に恋をしていたからだ。


「きゃりぃいいい!!!」

「……あなた、また来たの」

「当たり前だろ!ふふん、今日はとびっきり美味しい林檎のなる木を見つけたんだ!是非キャリィに食べて欲しくて…よ、良ければ僕も一緒に行きたいなって、えへ、えへへ…」

「嫌よ」

「えっ」

「だってあなたと歩くと凄い目で見られるもの」


 という具合に、大抵相手にされないのに諦めないウルは周りやキャリィ本人にすらも呆れられていた。

 彼の仲の良い友達は狼の中でも美人で可愛い女の子を何人か紹介したのだが、全て彼は断ってしまうのだ。


「だってキャリィがこの世で一番可愛くて素敵に決まってる!」


 何とも阿呆丸出しである。


 キャリィはキャリィで猫仲間の間では大変心配されていた。

 今は多種多様な世の中で、肉食動物は肉を食べなくなり草食動物は狩られるだけの存在ではなくなった。

 全ての動物が野菜や果物のみを食べる生活となっているためである。


 但しそんな中でも狩るもの、狩られるものの拒否反応などがある為か、基本的に同族同士での番が普通である世の中は変わらなかったのだ。

 だからこそ猫であるキャリィが、あんなに大きな肉食動物であるウルに付きまとわれているのが周りは心配でならなかったのだ。


 ただ、そんなキャリィも割とさっぱりとした性格であったためかそんなに気にしていなかったようで、周りの猫には大丈夫だとあっけらかんとしているようで。


「…みんな勘違いしているみたいだけど大丈夫よ。ウルは……なんていうか……狼っぽくないっていうか……そう、そう。大型犬みたい。」


 そんなウルとキャリィの(一方的ともいう)恋の行方を誰もが見守っていた。

 そんな中で森の権力者である鷹が何故か突然キャリィを見惚れてしまい、真夜中の深い時間に彼女を誘拐してしまったのだ。

 日が明け、キャリィが行方不明になった事に気づいた猫達はウルの元へ押し寄せた。


「ちょっとウル!キャリィを何処にやったのよ!」

「…えっ?」

「あんたはいつかやってしまうんだと思っていたわ!キャリィが余りにもあんたを受け入れないからって連れ去って閉じ込めてしまうなんてそんな!」

「いや、いや待って!僕何も知らな…」

「そうやって嘘をついても無駄なんだから!」


「いや…僕は何にも知らないって!」

「じゃああんた昨日の夜中は何処にいたのよ!」

「えっ、い、いや、それは、」

「言えないようなことをしていたの!?」

「違うって!き、昨日は、その…森の長老の梟おじいちゃんにキャリィの恋相談を聞いてもらってて…話してたら朝になってたっていうか…」


 全員のぽかんとしたような表情というか、呆れ返っていた表情をウルは忘れられないだろう。

 皆からの誤解を解いたウルは、キャリィの一大事と聞き慌てて自宅を飛び出した。

 手掛かりもない、見つかるはずがないのにも関わらず、ウルはどうしてかキャリィが連れ去られた鷹の元へ辿り着けたのだ。


 鷹の居城に思い切り飛び込んでキャリィを探すウル。

 その途端、甲高い叫び声が城中に鳴り響き、その声を頼りにある部屋へ辿り着く。

 思い切り蹴り開けたそこには、羽根を傷付けられ涙目のまま床に倒れた大鷹と、鋭い目付きに大きな爪を出したままこちらを睨みつけるキャリィだった。


「……キャリィ?」

「あら、遅かったわね」

「……君がやったの?」

「ええ。結婚して欲しいって押し付けがましがったから、仕方なくね」

「…………君って相当強いんだね」

「幻滅した?」

「大好きです」

「あらそう。やっぱりあなたって物好きよね、ウル」


 何とも呆れ顔で爪を引っ込めるキャリィに、苦笑いをしながらウルは彼女を背中に乗せて走り出した。

 風の中を切るように走るその背中で、キャリィは本当に何となく、ウルに擦り寄りながら呟いた。


「…私、あの鷹よりはあなたの方が好きよ」

「…えっ!?」


 思わず木に頭から突っ込んだ。


「ちょっと!…何してるのよ」

「いたた…え、あっ、さっき、何て言った!?」

「さあ、何だったかしら」

「キャリィ!」

「うるさいわよ犬」

「だって…」

「…あの鷹よりはあなたの方が好きだわ。あなたは押し付けがましくないし、私の嫌なことはしない。…あなたのこと、嫌いじゃないわよ」


「……き"ゃり"ぃいいい!!!」

「もう!汚いうるさい!」

「うえ、ごめ、ごめん……でも、僕、嬉しくって、嬉しくてええ……」

「はあ……本当あなたって……どうしようもない馬鹿よね」


 その後、無事にキャリィを連れ戻したウルは英雄となり、猫達や他の動物達から怯えた目で見られることは無くなった。

 しかし彼が愛しの猫と付き合うのはまだまだ先のようである。


「キャーリィー!」

「……あら、また来たの」

「今日はね!すごく美味しい野いちごを見つけたんだ!どうかな?」


「……野いちご?」

「そう!……キャリィ、もしかして嫌いだった……?」

「いいえ。……好きよ。是非案内して」

「うん!」


 ……もしかしたら、案外近いかもしれない?


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