嘆願
「おばあ様、今日もお話をして下さる?」
「あらあら、お転婆なお姫様。こんな所にまたお一人で来て。後から国王様に叱られても知りませんよ」
「おばあ様のお話が面白いからいけないのよ!ねえ、早くお話をして!」
「仕方がないですねえ。それでは今日は、あるお姫様のお話でも致しましょうか?」
「お姫様のお話?」
「ええ、とても可憐で可愛らしいお姫様のお話ですよ。そのお姫様はリル様と言いまして、とある国で大切に、大切に育てられていたのです。彼女は踊りに長けていて、舞う姿は宛ら蝶のようだと国民からは言われていたのですよ。その姿を、隣国のユウマ王子が見惚れましてねえ」
「二人は結婚するの?」
「そうですよ。リル姫とユウマ王子は偶然にも同じ年齢でしてねえ。国同士も仲が良かったので、お二人の結婚はすぐに執り行われましたよ」
「ええ、それだけ?なんかつまんないよ!」
「ふふ、お姫様は恋の物語はお嫌いですか?」
「嫌いじゃないわ。だけど……」
「あらあら、仕方が無いですね。それならもう少し。……二人はそれはもう、仲睦まじく、幸せそうに暮らしていましたわ。しかし、ユウマ王子の国をとある国が攻め入ってきたのです。ユウマ王子は武術に長けていたので軍の隊長を任され戦に行き、そして、……帰っては来ませんでした」
「……え。王子様、帰って来なかった、の?」
「ええ。敵対国の隊長に致命傷を負わされてしまって、国に帰る途中に、亡くなってしまいましたわ」
「お姫様は…?」
「…お姫様は大層悲しみましたよ。しかし、悲しむ間もなくその敵国に王子の国は攻め入られ、壊滅させられてしまったのですよ」
「その後お姫様は!?どうなったの……?」
「……誰も知りませんよ。王政は滅ぼされ、お姫様は死んだと言われています。国は敵国の領土となってしまったので、その後がどうなったのか……」
「そんな……」
「……ほほほ、お姫様。そんなお顔をなさらないでくださいませ。所詮は御伽噺ですよ?」
「……あっ、え、そっかあ……そうでしたわ…」
「ふふ、お姫様はまだまだ興奮してしまうと言葉遣いが乱暴になってしまいますね?治さないと王妃様に叱られますよ?」
「うう、言わないでね、おばあ様!」
「はいはい、分かりましたわよ。……あら、誰かが呼んでおりますよ。お行きなさい、お姫様」
「はあい!ありがとうおばあ様!」
「あんまり走っては駄目ですよ!……ふふ、お転婆ですこと。あなたのお姫様は元気ですわねえ」
「……母上。」
「どうしたのですか?貴方がここに来るなんて。」
「…母上がその話をするのは珍しくて、つい聞き入ってしまいましたことをお許し下さい。」
「良いのですよ。もう昔の事ですから。」
「……母上とユウマ王が居られた国を、父上が攻め入ったことがですか?」
「ええ。……そもそも私はユウマを愛してなどおりませんでしたから。彼は結局私から、母国とレンリと過ごすはずだった期間を奪った男でしたからね」
「父上は元々母上の国の騎士長で、母上の幼馴染みだったのですよね」
「ええ。レンリは私の三つ上でしたわ。何かと私の面倒を見てくれた素敵な人でした。私は彼をいつの間にか愛していて、彼も私を愛していた。」
「…しかし父上は王族ではないが故に母上とは結ばれる運命ではなかった。」
「そんな事を気にしていたのはレンリと、ユウマくらいでしたけれどね」
「王族のパーティで母上がユウマ王が出逢い、ユウマ王は母上に恋をした。その後父上の存在を知り、邪魔になり、……殺そうとした」
「私はそこへ止めに入り、レンリの命を乞う代わりに彼と結婚する事を承諾して、隣国へ行ったのよ」
「そして、父上はその間に伝を駆使してこの国を設立。機を待ち、待ち続け、そして、戦争を起こした。結果は大勝利し、父上は母上を文字通り"奪還"した…」
「そうよ。その後私はレンリとの子を設け、貴方を産み、貴方が国王になって、あの可愛らしいお姫様を…私の孫を設けてくれたわ。」
「……母上。私は不思議でならないのです。何故娘に……自身が祖母だと伝えてはやらないのですか?周りへ王妃だと申さないのですか?結局父上は生涯独身という事を周りに貫き続け亡くなり、私は別国からの養子とされている。どうして母上が自身を公表しないのかが不思議なのです」
「…有難う、貴方はとても優しい息子だわ。でもね、私にもう地位は必要ないのよ。…どういう理由があったにせよ、私は私自身の恋心を優先させて、私を愛してくれた一人の男を殺している。それだけで既に重罪だわ。私は何不自由なく産まれ生き、女として愛した男に愛された。それだけで幸せなのよ」
「母上…」
「…私はこれで満足しているわ。レンリの死を見届けられて、貴方の治める国で生き、可愛らしい孫も居て。この老体にはこれだけで充分なのよ。分かったかしら?」
「…はい、分かりました、母上。」
「宜しい。…さて、もう行ってしまいなさいな。王が見えなくては皆が心配しますよ?」
「…後でまた顔を見に来ます。では、」
「律儀な子ねえ。……ねえ、レンリ。私は、……私は貴方と居られて幸せよ。でもね、ずっと貴方には言えなかったけれど……ユウマの愛が、私には哀しくて、愛おしかったのよ。ごめんなさいね、……許してね、レンリ。こんな私を、どうか許して。」
「おばあさまー、お夕食を頂いたからまたお話を…ぇ、ぁ…っ、お父様!お母様ぁ!おばあ様が、おばあ様が……!」




