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かみさまは人間きらい

 大昔のとある島国でのお話。

 空には多種多様の神様が住んでいたが、その中で一際大きな身体を持っていたキコンという龍の神がいた。

 彼は川や泉などの水を司る神であったが、その大きな巨体を人に変えるのが下手であったが故に周りの他の神からからかわれていた。


 キコン自身も何度も人間へ変化しようと必死になって練習したがどうしても上手く行かず、結局他の神にからかわれるのが苦になりたった一人だけ島国へ降り立った。

 彼は誰も近寄らないような森の奥深くの滝がある川を寝床に、誰とも出会わないようにひっそりと暮らすことにしていた。

 しかし暮らし始めて少し経った頃、彼は自身の寝床でとある小さな少女に出会った。

 まだ年端も行かぬ少女だったが、また怯えられると焦ったキコンに少女は無邪気に近付き、大きな蛇と言い放ったのだ。


「……蛇?」

「おおきなへびさん! ……ちがうの?」

「……私が、怖くないのか」

「へびさんはかみさまだって! おかあさまがいってたから。おおきなへびさんもかみさまなんでしょ!」

「い、いや、……まあ、そう、だが、」

「えへへっ、すごーい! かみさまにあっちゃったー!」

「……う、嬉しい、のか?」

「うん! わたしね、おおきなへびさんすきー!」

「す、好き……?」

「うん! やさしそうでね、おっきくて、おかおはこわいけど、いいかみさまだよねっ」

「……そう、か。お前は私が、好きか」

「うんっ」

「……そうか。ありがとう」


 彼が会った少女は、彼に下の村の話や他の人間の話を沢山話してからその場を去って行った。

 また来るという約束付きで。


 キコンは初めて誰かに好かれる気持ちがこんなにも温かいことを知らなかった。

 少女がまた来ることをキコンは楽しみにしており、また少女はきちんと約束通り何度もキコンの元を訪れては色んな話をしたり時折山の幸をお裾分けと称して彼へ差し入れた。

 そんな一人と一匹の関係は何年も続いた。


 そうして少女が大きくなって数年。

 見目麗しい女性へなったとある日、彼女はキコンの元へ来ていた。


「キコン様。お話があるのです」

「おお、どうした?」

「実は、…………いえ、やはり何でもありません」

「何だ、何かあったのか?」

「いえ……何も、ありません。すみません」


 優しく、しかし悲しげに笑いかける彼女に何処か一抹の不安を抱きながらもその背中を見送るキコンは、何故かその日は休む気にもなれず、夜の月を眺め続けていた。

 次の日の夕方、何時もは訪れるはずの彼女が来ず、身体を壊してしまったのかと心配していると、複数人の足音が川下から聞こえてきた。

 キコンは自身が出来るだけの小ささに自身の身体を縮めると水の中にその身体を沈め、川下をじっと見つめていた。

 すると見覚えのある彼女の姿と、三人ほどの男の姿が登ってきていた。

 今までこの場所に彼女以外の人間が立ち入ったことが無いキコンは何事かと水中からじっと状況を伺っていた。


「……此処で膝を付け」

「い、嫌です……」

「黙れ! お前は既に生贄に決まっているのだ。異形の子の末路がどうなるかはお前も知っているだろう。生かしておけば村へ天災がもたらされる。此処でお前が水龍の巫女として死なねば村の皆が死ぬのだ」

「……分かりました」


 キコンには理解が出来なかった。

 震える足取りで彼女がふらりと川の中に入り、その身を水で清めているのをキコンは水の中から見つめていることしか出来なかった。

 異形の子、水龍の巫女。全てがキコンにとって分からない言葉で、また彼女から一切聞いた事のない話だった。

 もしかして、彼女は自分の生贄だからという理由の為に会いに来ていたのか?

 それに気付いたのと、彼女が震える手で刃物を取り出し自分の腹元にあてがっているのに気付くのはほぼ同時であった。

 思わず水中から出ようとするキコンははっとする。

 彼女が真っ直ぐとこちらを見ていたのだ。


「キコン様、ごめんなさい。でも、キコン様が愛おしかったのは、本当なのですよ……」

「っ! 待っ……!」


 ざば、と水中から彼女を止めるために飛びかかったが、彼女が自身の腹元に深々と刃物を突き立てた方が早かった。

 彼女を抱き起こすものの腹からは大量の鮮血が流れ出ており、水にも浸かっているからか彼女から体温がなくなっていくのが急激に早く感じる。


「死ぬな! 死ぬんじゃない…!」

「き、こん、さま…」

「お前は私と約束しただろう、また来ると、あの日から約束をお前は、守り続けただろう! 明日からは誰が来るんだ、お前じゃなきゃ私は、私は、……!」

「ご、めんなさ、……やくそく、まもれ、なくて……っ、」

「……お前でなくては、駄目なんだ!」


 ゆっくりと瞳が閉じていくのが、人が死んでいく姿だとキコンは分かっていた。

 彼の愛してやまなかったたった一人の人間が、自身の贄として死ぬ時を見たキコンは、彼女の身体を抱いたまま怒りと悲しみに任せ、大きく吠え狂った。


「……これだから人間は嫌いなのだ! 人間も神も、意思を持つ生き物は全て、等しく裏切るものだから……」


 彼の姿が怒りと悲しみに任せ、九つの頭の龍になっていた事は本人は気付かず、側の男達は水龍が怒り狂ったと怯え逃げ帰った。

 その後、キコンの姿も、死んだ巫女の遺体も見たものはいない。

 ただ、誰かが作った記憶もない、しかし精巧な九つ頭の龍の石像がいつからかその川には祀られるようになった。

 集落ではその石像が、怒り狂ったキコンが巫女の身体を守る為に石像になった姿ではないかと言われている。



 しかし、本当の真実は創造神しか知らない。

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