星を汲む少女
天の空に掛かる大きな星の川には、ある一人の少女がいるそうだ。
彼女は何時から其処に居るのか誰も知らず、彼女本人も何故其処に居るのかは分からないんだそうだ。
しかし彼女は決まった時間になると、星の川に入って歌を歌いながら大きな笊で星屑を掬っては篩にかけるのだという。
そうして篩にかけた星の粒を透明な硝子の瓶に詰めては蓋をし、これもまた何処から来るのか分からない一匹の牛の荷台に乗せ、何処かに運ばれていくのだそうだ。
彼女は元々名前なども無かったのだが、何時しか誰かに「スチーチル」と呼ばれて以来、そう名乗って過ごしているそう。
スチーチルは大小様々な大きさの煌めく光を24個首から下げており、彼女にとってその光とこの仕事が何よりも大切なのだという。
川に入る時も必ず光を落とさないように気をつけており、常に気にかけているのだとか。
しかし、何故大切なのかは分からないのだから何とも不思議な話である。
彼女に逢いに行こうとする者は多いのだそうだ。
しかし、皆何故か星の川を渡れず諦めてしまうことが大半なのだ。
スチーチルの仕事仲間である牛に乗り逢いに行こうとした者もいたそうだが、どうやらその牛は神の住む大御殿の飼牛だったようで、罰当たりな事は出来ないとやはり諦めたそうだ。
過去に彼女と話した事のある者は指折れるほどしか居らず、またその者達も全て神や神の眷属、子供達である為に、普通の人間ではまず話を聞くことすら出来ないのだ。
それでも、彼女に逢いたがる人間は後を絶たない。
地上では星の砂が採取出来る川の傍に、彼女を祀る祠がある程である。
ただ、彼女を一目見た事のある人間や、話をした事のある神々達は口を揃えてこういうのだ。
「スチーチルは何もかも真っ白なのだ。
姿も、心も、純白だ。
そんな彼女が地上に居るとすぐに穢れ、汚されてしまう。
だから我らの万能神は彼女を地上から救い出し、星を掬う仕事をさせているのだ」
彼女にとって、それが幸福な出来事なのかは図れない。
ただただ、星を掬い、篩にかけ、瓶に詰める。
それだけを生業として、星の川で生きる彼女が何を見、何を感じ、何を伝えんとしているのか。
彼女の巫女である私は、それがどうしても知りたいのだ。
「スチーチル様。私は貴女様が祀られる祠の巫女であります。
貴女様は何を想い、何を見ていらっしゃるのでしょうか。
……私は、どうしてもそれが知りたいのです」
「……巫女。私は何も見ず、何も想ってなど御座いませんよ」
「……えっ?」
「巫女にも教えてあげましょう。…私がどう生きているのかを。」
「スチーチル、様……?」
「ええ、私ですよ。
巫女、すみません。ただの人であっただけの私を、人である貴女が奉るなど可笑しいというのに」
「……しかし、スチーチル様。」
「私は、偶然神に掬われただけなのです。
そうして、神の元で仕事をしているだけ。
貴女と何も変わらないのですよ」
「神に選ばれたことが、偶然……」
「そう、神の気まぐれと言っても良いかもしれませんね。
何ら凄い事など致しておりません。
…ああ、そろそろ帰りなさい。
此処に居すぎると、地上には帰れなくなってしまいますよ」
「待ってください! ……スチーチル様は、もう、」
「……ええ、私はもう帰れませんよ」
……おかあ、さま。
祠に寄り添うように倒れていたと聞いたわ。何かあったの?
……お母様、私、スチーチル様に会ったわ。
スチーチル様に? どんな御方だったの? お話はしたの?
……ええ。とても、とても……哀しい方だったわ。




