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剣と騎士

 世界暦17xx年、世界の三分の一を支配していた王国があった。

 その王国は代々王族の娘が後を継ぎ、兄や弟がその側近として務めるのがしきたりとして受け継がれていた。

 王国ではその当時、未だ美しく気高くあった若き前女王陛下が何者かによって殺害される一大事となってしまっていた。


 王族では既に前女王陛下の娘であり、次期女王候補であったロミィ王女が居たが、彼女は齢15歳と子供であり、彼女に王国を任せるか否かで国は大きく揺れ動いた。

 然し、彼女の双子の弟であり唯一の肉親であるツァル王子は国一番の剣士であったこともあり、協議の末にロミィ王女の即位が決定する。

 当時15歳である二人は、母親の死を悲しむ暇も無く国の頂点に立たされることとなる。

 周りの家臣や大人達は幼い二人に色々な事を吹聴し、その中には意のままに国を手に入れようと画策する者も居たが、聡明な王女と王子のお陰で国は二人の手によって安定していく。

 ——ある日、王子が失踪する迄は。


 突如起こったそれは国を混乱に陥らせ、また王女に大きな衝撃を与えた。

 王子の所在は不明。

 誘拐か、はたまた殺されてしまった可能性もある。

 王女は全労力をかけ、王子を探す命を下し、また国民にも少しの情報すらも提供するように呼び掛けた。

 暫くして、王子の所在が隣国にあることが分かった。


 それも、王子は自らの脚で隣国へ行ってしまったという話であった。

 当時の世界では、敵対する他国へ無断で亡命してしまうことは死罪であったが故に、この情報は王族の上層部内で機密とされた。

 国民達には未だ所在は不明としていたが、大切なただ一人の肉親に裏切られた王女の悲しみは深かった。

 そしてその王女の悲しみは日を経つにつれ、やがて大きく、怒りとなり、いつしか憎しみと変わってしまっていた。

 その頃、王族の一部から王子が亡命した国と自国で一部の貴族が秘密のパーティを行う事が王女の耳に入る。

 そして、そのパーティには、亡命した王子も参加するという情報も。


 王女はそのパーティへ潜り込むことを決意する。

 仮面で顔を覆うそのパーティは、名の有名な貴族や王族関係者も参加する為に、王女が潜り込んでいることが分かれば、国の存亡にも関わる。

 パーティに潜り込むその日、王女は小さい頃から気に入りであった薔薇のドレスに短剣を隠し込んだ。


 パーティ当日。

 ぐるりと聳え立つ大人達。

 その中に変わらない、金色の髪色。

 そして、失踪した時と同じ白鳥色のタキシード。

 ようやく会えた、ようやっと、その姿をまた見ることが出来た。

 王女は嬉しかったのだ。

 ただ一人だけの肉親に、信頼する弟にまた再会する事が出来て。

 呟く名前に気付き微笑む王子。

 その微笑みを貫くかの如く、一息に、手の内の短剣を腹部に突き刺した。

 深く、深く。

 じわりと広がる白鳥色のタキシードを染める深紅の血潮。

 王女は刮目した。



「ああ、ロミィ。やっぱり君はそのドレスが似合う。

 ずっと愛しているよ。僕の大切なお姫様。」




 倒れ込んだ身体から急激に失われる体温に、ようやく王女は気付いてしまう。

 王子が何故他国へ亡命したのか。

 そして、何故このパーティに参加していたのか。

 気付いた時は既に遅かったのだ。

 もう取り返しもつかなかった。

 その時、王女は王女である事を辞め、ロミィである事を選んだ。



「ああ、ツァル。ごめんなさい、私が愚かだったのよ。

 貴方はずっと薔薇を背負っていたのね。

 私も愛しているわ。これからもずっと、ツァルを愛している。」


 焼け付く腹部の痛みと、広がる赤い滲みはまるで——。

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