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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そして彼女は

作者: 青野百里

 そして彼女は、街に降り立った。

 女子高生の戦闘服、制服姿で。ゆるく巻いたセミロングで。生徒指導の先生にバレない程度のアイラインとカラーリップで。右手に日本刀、左手にアーミーナイフ。両太ももにスローイングナイフを5本ずつベルトで固定して。


 彼女は生まれつき、奴ら、に対する耐性が高かった。だから戦士になった。彼女の目に映るのは、溢れんばかりに膨れ上がった、奴らの群れ。奴らに占領された、わたしの街、の成れの果て。


 ユウコが、また振られた、と泣いた、ファストフード店。エミリが、痴漢を張り倒した、駅。マリが、何時間でも居続けた、本屋。タカシと歩いた、交差点、歩道、マンション。その全てで奴らが蠢いている。


 許せない。

 許さない。


 そして彼女は、雄叫びをあげ、奴らの群れに切りかかった。


 超硬合金あわせ鋼の日本刀が、やすやすと奴らを分断する。レーザー研磨のアーミーナイフが、奴らの牙を、爪を、受け止めると同時に奪う。


 視界の端に、奴らお得意の、血反吐浴びせ、の兆候を捉えた彼女は、日本刀とアーミーナイフを手離し、スローイングナイフを放つ。矢のように飛んだスローイングナイフは、丸々と膨れた奴らの腹を射抜き、破裂音と赤黒い噴水を作った。


 再び日本刀とアーミーナイフを装備して、彼女は走り出す。


 そして彼女は、切って、切って、射抜いて、切って、射抜いて、切って、切って切って、切って、切りまくった。


 終わりに向かって。奴らの親玉。奴らの元凶。奴らの始まりに向かって。切って、切って、切りまくった。


 いつしか彼女の全身は奴らの返り血に濡れ、染まり。ゆるふわだった髪は、べったりと張り付き。武器の柄が粘ついた。彼女は、滑ったら大変だ、と手を拭おうとしたが、拭う物が見当たらない。仕方ないので、奴らの血溜まりができていない地面に擦りつけた。砂や埃が手に付き、滑り止めとして働いてくれた。まだいける。


 そして彼女は、また、切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切りまくった。


 日本刀の刃はこぼれ、折れた。アーミーナイフは突き刺した時に、奴らの肉に絡み取られた。スローイングナイフは投げ終えた。


 それでも彼女は、折れた日本刀と、奴らのようになりつつある自身の爪で、奴らを切りまくった。


 そして彼女は、たどり着いた。奴らの親玉、元凶、始まり……母、にたどり着いた。疲労困ぱいでズタボロの体が、奴らの血で辛うじて支えられていた。


 そして彼女は、突っ込んだ。折れた日本刀の柄を両手で握り込んで。奴らの母に。奴らの母の心臓に。

 ……自身の母に。突っ込んだ。


 そして母は、笑った。両手を広げ、彼女を抱き締めるように受け入れた。

 そして母は、弾けた。

 そして彼女は、浴びた。

 そして奴らは、消えた。

 そして街は、静けさに包まれた。


 そして街に、人々が戻ってきた。人々は歓喜していた。彼女の仲間たちは彼女を、英雄を探した。労うために、祝うために、彼女を探した。


 そして仲間たちは、彼女を見つけた。彼女は何事もなかったかのような綺麗な姿で立っていた。仲間の誰も見たことのない、純白のドレスを纏っていた。彼女は仲間に気づくと、微笑みを浮かべ、歩み寄った。


 そして彼女は、仲間の1人に噛み付いた。仲間の1人が奴らになった。奴らになった仲間の1人が、別の仲間に噛み付いた。噛み付いた。噛み付いた。彼女の周りに奴らが溢れた。溢れた奴らは外に、街に帰ってきた人々に噛み付くために、出ていった。


 そして彼女は、笑った。母のように。最後の母の飛沫で、彼女の耐性は限界を超えた。彼女は母と同じモノになっていた。彼女は、そっと、下腹部に手を添えた。


 命を感じる。わたしとタカシの子。


 そして彼女は、目を閉じた。


 この子は、わたしになってくれるかしら。


 そして彼女は、夢をみた。己の爆ぜる、夢をみた。






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