さらなる出会いと魔法、そして経験
日差しが当たり目が覚めた。
小鳥の囀り、肌を透き通る風、生徒の声、学園のチャイム…
そんなのに気を取られてる暇もなかった。
激しい吐き気…
めまい…
頭痛…
立ち上がるのも精一杯だった…
隣に誰かいる、誰だろう。
「ちゃんと魔力の加減の仕方、教えるべきだったね。ごめんなさい」
【魔法 ヒール】
体が軽くなった、視界もぼやけていない。妙な感覚だ、気持ちがいい。
「魔法よ、ナナシ君もはやく身につけるといいわ」
「会長か、ありがとう」
「いいえ、子供に魔法を使うのは無理があったわね」
「俺の力不足か」
「そのためにこの学園があるわ、1時間後、この教室に来なさい。授業があるから」
授業か… 初めて…じゃないな、どっかで…
「じゃあまたね」
俺は返事もせずにただ黙りこくっていた。思い出せそうで思い出せない… この学園に来る前のことを…来た理由を考えていた
【ゲート】を使ったのは俺じゃない、誰かがやったんだ。誰なんだろう…
ずっと遠くを見詰めて授業までの時間を過ごしていた____
会長が置いてった制服来てみたが、サイズがピッタリだ。真っ黒であの白服とは正反対だ。
んーと、ポケットに入ってるこれがデバイスっぽいな…
[顔を認証、14歳、162cm、健常、良好]
「うわっ!」
腕に巻きついて地図が表示された。
俺は胸の高まりが止まらなかった、なんだこれかっこよすぎる…
そんなことより教室に行かないとな、今いる場所は保健室、そっから…
まぁ適当に行けば着くだろ______
当たり前の如くもちろん迷った。
エントランスに着いたはいいが広すぎてわかんねぇ、大人に聞いた方がいいかもしれないがやっぱ知らない人となると話しかけずらいよな…オーウェン校長も会長もいないしな、まいったな。
うろちょろしてると、ポニーテールの女の子を見つけた、俺と同じくデバイスと睨み合っていたから話しかけてみた。年齢が近い方が接しやすいしな。
「なぁ、お前」
「ちょっと黙って」
とか言って、俺のほっぺを片手で挟んできた。とんでもない握力で身動きがとれない。貧相な体とはかけ離れた力、どっからでてたんだ?この金髪女。デバイスを覗くと日記書いていたらしい。
「終わったわ、何か用?」
終わったわって…いきなり初対面の相手にあんな暴力するか?普通じゃありえねぇまだ地下牢に入れられた方がマシだ。
「あ、あぁ。ここの行き方を教え欲しくてな」
「私と一緒の教室じゃない、あんたが新入生なのね」
「俺のこと知っているのか?」
「まぁね、ナナシ会長から話を聞いたのよ。あんたが馬鹿みたいな魔力使って死にかけたって」
ひでぇ言いよう… こいつはちっちゃい割にはプライドが高いめんどくさい奴だ。話しかけなきゃよかったな、って勝手に去っていきやがった!
なんだアイツ!
「道教えてくれるんじゃなかったのかよ!」
「じゃあ勝手についてきて?」
…う、うぜぇ
______________________________
なんか他の教室とは雰囲気が全然違うな、空気が重い。
「何突っ立ってんのよ、入んないわけ?」
「いや、悪い」
入ってみると、生徒は俺含めて5人の少人数だった。ここに来る途中ほかの教室を覗いたが20人はいたぞ。なんだこの少なさ、そして物音もしないこの静かさ、恐怖を覚える
そこには会長もいた。が、俺の知ってる会長とは思えない感じだ。こっちを見る気もない、ずっと窓を眺めている。
「なんで近くにくるのよ?」
会長のあの雰囲気に近づけず無意識に、ポニーテール女の近くに座ってしまった。
「なんとなく?」
「チッ」
舌打ちされてるよ、そこまでの嫌われ者か?
泣けるぞ、ほんと。 そーいえば、名前を聞いてなかったけど、聞いたところで無視安定だなこりゃ。でも一応…
「名前聞いてなかったな、俺はナナシ。お前は?」
「…」
はは、ですよねー。わかってまし___
「授業を始める!」
オーウェン校長がそう叫ながら教室に飛び込んできた。
チャイムがなり、俺は天使を滅ぼすための第1歩を踏み出した。
どうやらこの教室には最近、戦争ににでてた者の生き残りらしい。天使は単独行動が多い、しかし大人数で行くと気配を察知され皆殺しがありがちだ。最大で20人が丁度いいみたいだ。だから1クラス20人なのか、20人でも多いと思うがな。
しかし、天使は強い、凶暴化したのもいるそうだ、そんな奴らに20人でかかって生き残る者はいない、全滅みたいだ。しかし、数人程度残るクラスもたまにある。こんなクラスにはオーウェン校長が直属し、自ら訓練してくれるみたいだ。
そんなところに俺がいるのが謎だな。
みんな無傷のようだか、嗅覚を研ぎ覚ますと血なまぐさい。こんな雰囲気なのは人の死に直面したからか?
「ミカ君次は君の番だ」
今、ひとりひとりオーウェン校長と手合わせしてもらっている。「実力を測る、本気でこい」言っていた。
最初に白髪の青年が剣を使って戦った。オーウェン校長が防御体勢をとった途端、青年が動いた。目で追いつけない剣捌きでオーウェン校長を攻撃した、攻撃を受けたまま何も動じず、青年の攻撃の乱れをつき背負い投げで終わった。
次に黒髪の青年、先程の白髪の青年と顔つきが似ていた、どうやら双子のようだ。あいつも剣を使うらしいがバチバチと閃光を放っていた。あんなのくらったらひとたまりもない。しかし、オーウェン校長はまた素手で戦うつもりらしい。
青年が動いた、白髪の青年以上の素早さで一瞬の瞬きで居場所を見失う動きだった。太刀筋も素晴らしかったが、その剣を素手で受け止めた。火花が彗星の如く飛び散ったが、それをもろともせず、青年の「参りました」で戦いが終了。
次は俺の番だった。もちろん実戦もしたことがない俺からしたらやるだけ無駄だ。魔法もシャウトしかやった試しがない。しもか力加減で死にかける、どう立ち向かえばいいんだ…
待機中にいろんな作戦を考えていたが…一番可能性があるのはシャウトからの剣から一撃を入れる。よしこれでいこう、やるか。
「【魔法 シャウト】」
よし、オーウェン校長の周囲を黒い霧で覆った。
これで俺がどっから攻撃を加えてくるかかの読み勝負だと思ってるはずだ!そこを見せかけての剣を投げ込めば…
そう、俺は剣の構え方すら知らない。近距離は無理だ、遠距離で立ち向かう。
「おらっ!」
剣を全力でぶん投げた。重たくて投げづらかったが、いい感じに飛んだ。あとは当たることを祈るのみ!
「痛てぇええ!!」
怒涛の叫びとゴチンなにかに当たった音が鳴り響いた。オーウェン校長の姿は見えないが、あの発言からどうやら本人当たったらしいな、やったぜ。
「新入生、おもしろいことするじゃない。剣を投げるなんて馬鹿な発想するのね」
後ろをみるとポニーテール女が笑いながらそう言った。会長もクスクス笑っていた、双子の青年は苦笑い。前のピリピリムードはどこへ行ったんだよ。
「そんなに変なことをしたか?」
黒髪の青年が返事をした。
「剣を投げる人をなんて初めて見たよ」
白髪の青年が続けて言った。
「はい。こんな騎士道に反する事は思いつきもしません」
騎士道ってなんだよ、俺は騎士じゃないぞ。仕方ないだろ、いきなり戦えなんて言われても、お前らみたいな剣捌きできるわけじゃないんだから。
「まぁ。賢明な判断だったと思うわ、ナナシ君」
会長がニヤつきながら答えてきた。
みんなしてなんだあの顔は頭にくるな。これでも真剣にやったんだけどな…
「次は私の番ね。新入生見てなさい、剣は使わないけど、魔法を使った見本をみせてあげるわ」
あの野郎…なんてうざいやつなんだ!
「気持ちはわかるけど、そんな顔をしない方がいいよ。彼女はあれでも名家の魔術師なんだ」
背後から俺の名前呼びかけた奴がいた。
「挨拶が遅れたね、僕の名前はルシ。こっちは弟のミカ」
「はじめまして。ミカと言います」
双子の青年だ、どうやら穏和な人で黒髪の奴がルシ、兄であって、こっちの白髪で健気なのは弟のミカってわけか。近くで見ると髪色が違うだけで顔はそっくりだ。
「俺はナナシ」
「君の戦いも色んな意味ですごかったけど、あの子ももっとすごいよ。僕達の実力じゃ辿り着けない領域の魔術を扱うんだ」
「あんな性格な奴が?世の中理不尽だな」
「二人ともはじまりますよ。」
会話を止め、向こうの二人を見た。俺は夢でも見ているのだろうか。目をこすりもう一度見るがやはりあの女浮いてる!俺を見てニヤついてやがる…うぜぇけど、すごいな。
「新入生には防御魔法は使わなかったみたいだけど私には使うのね」
頭にできたタンコブを押さえながらオーウェン校長は「無駄に魔力を使いたくないが、お嬢ちゃんの魔法は計り知れないからね、一応警戒するさ」
あのおっさん俺のこと舐めやがって…タンコブだけで済んだことに感謝しとけ!
最初にふわふわ浮かんでるポニーテール女が攻撃を仕掛けた。巨大な火柱がオーウェン校長向かって放されたが、一見ただの右のストレートであの巨大な火柱かき消された!意味がわからん!
ムキになった(らしい)ポニーテール女が今度は火の玉をマシンガンのようにぶちかました。オーウェン校長もパンチで打ち消していくが、流石にあの数と速さの火の玉には追いつけず、サイドステップで一時避け、走って避けることに変更したようだ。地面には無数の大きな穴ぼこだらけで威力が高そうだ。
ポニーテール女とオーウェン校長との距離がだいぶ離れたところで、急にポニーテール女が地面に降りた。どうしたんだ?
「どうやら魔力切れのようね、浮遊魔法を行いながら攻撃魔法。あの戦法で今の魔力じゃ5分が限界ね」
「けど、あの歳でこれだけできればすごいよ、伸びしろがある」
「昔の兄さんみたいですね」
魔法に詳しくない俺にはさっぱりわからない。俺には人外れの魔力があるみたいだがいつかあんなこともできるようになるのか。
これでオーウェン校長との訓練が終了したみたいだ。
そういえば、会長はなにもしてないな。会長は訓練しないのか聞いてみたが「私は補助系の魔法が特化してる代わりに攻撃魔法を覚えられないの。だから手合わせをお願いしたってしょうがないわ」
どうやら、魔力は誰にもあるものだが、魔法は人によって使えるものが変わってくるらしい。話を聞くかぎり、浮遊魔法はポニーテール女の家系の特有の魔法であるみたいだ。俺に浮遊魔法が使える期待も薄れたどころかゼロになったな…
「どうだった?新入生。あれがシャーロット家の浮遊魔法よ」
清々しい満面の笑みで俺に話しかけてきた。
シャーロット家?聞いたことないが、名家なのは間違いないんだろうな。
「素直にすごいと思ったよ」
「うふふ、そうでしょ!また見せてやらないこともないわ!」
「マリーよ、私の名前。それじゃあね」
「…ああ、じゃあなマリー」
そんな悪いやつじゃなさそうだな。
そのまま双子の青年と会長にも別れの挨拶を交わし帰ろうとした。が、俺はどこに帰ればいい?昨日は保健室で過ごしたが…
この学園では一人一人に一部屋用意されるところが屋敷を持つことも出来る。こんだけの学園の広さで3000人の人間がここにいるんだ、屋敷をみんなが持てる余裕もあるもんだ。
「住む場所が見つかるまで私の家に住むがいい。私は独り身だから寂しかったところだ、どうだね?」
と、オーウェン校長が家を提供してくれるらしい。是非お願いしますと俺は頼んだ、1人だと不安だしな。
オーウェン校長の住んでる所は学園の真ん中だ。この場所では学園外の様子を見たりと監視塔の役割も持っているらしい。邸内は新品のようにとても綺麗だった。オーウェン校長よると仕事で帰ってくることはほぼなく、月に1回程度だそうだ。
「寂しいとか言っていたがあまりここにいることは少ない。君が自由に使うといい」
とのことだ。俺は与えられた部屋ですぐにベットに入り込み今日の1日を終わらせた。
何も知らない所に、記憶失われた状態で目覚め、自分の名前もわからない。そんな不満だらけなのにその場の状況に適用して、応じる自分がよくわからかった。
考えるだけで無駄だ、今はここで力をつけよう。やることは天使を殺すこと、滅ぼすこと、それだけが頭によぎっていた。天使、それを聞くだけで殺意が湧く。何故なのか。
そんなことを考えながら眠りに落ちていった。
シャーロット・マリー
14歳、159cm
シャーロット家の7代目
マリーは学園にいたので無事だったが、家族は故郷で天使によって亡くなる。
人見知りで、人との接し方が下手くそである。
ナナシとはタメであるため話しやすい模様。
*使用魔法*
・浮遊魔法エア ・火属性魔法