9話 崩壊
「イザベラ……お前、撃たれて死んだはずじゃ」
「そんなことより逃げるよ!」
パリン
事務所の窓が割れた。割れた窓からゾンビが手を伸ばしている。その後ろには順番待ちのようにゾンビが群がっている。入り口の方には、ゾンビは集まっていないようだ。
「中村さん。立てる?」
「……ありがとう。でも……大丈夫なの?」
「ほら!この通り!だから、逃げよう!」
イザベラが腹を中村さんに見せつけた。イザベラの腹は傷一つない綺麗な腹だった。
「はい!受け取って!」
イザベラがバスの鍵を投げてきた。中村さんにも同じように鍵を投げ渡した。
「私が先導して道を確保するから!」
イザベラが事務所の扉を開けて外に出た。それに続いて俺と中村さんも出る。駐車場にはゾンビはまばらにしかいなかった。事務所の裏の方に集まっていたのか。
パン
進路上に立ちふさがりそうなゾンビの頭をイザベラが拳銃で撃ちぬいた。中村さんも狙ってみようとチャレンジしているが、銃口がぶれぶれだ。
「無理に撃たなくてもいいぞ。イザベラが倒してくれる」
「え?イザベラさんって元警察とか?」
「いや、地元の方で教えてもらったらしい」
「そこ!お喋りしてないでバスに乗り込んで!」
鍵についているプレートについている番号のバスに乗り込み、エンジンをかけると燃料メーターの針がFのところまで動いた。燃料を入れる必要は無さそうだ。他のバスは……知らん。
ゆっくりと発進した中村さんのバスについていく。ここまで長い乗り物は運転したことない。多分、こするぞ。
ガリリ
駐車場に停めてあったSUVに擦った。あー、SUVの方のフロントバンパーが外れた。まぁどうせ捨てる予定の車だしどうでもいいけど。
中村さんのバスに付いていきながら着た道を戻る。しばらく走ると、遠くに工場が見えてきた。工場からはいくつもの黒い煙が上がっている。これは、ゾンビに襲撃されたな。
先頭を走っていた中村さんのバスが停車した。それに続いて俺と、イザベラのバスも後ろに停車する。中村さんがバスから降りてこっちに向かって走ってきた。
「なにか、ヤバそうな感じがしない?」
「ヤバイもなにも、ゾンビに襲われてるんだろ」
「どうするの?助けに行くの?」
「助けたいところだけども、状況が分からないことには近づきにくいな」
「それなら、バスの上に登って車内に有った双眼鏡で様子を見れば?」
イザベラが双眼鏡を手渡してきた。なんで観光バスの中に双眼鏡が?しかも、どうやってバスに登ればいいんだ?……近くの放置車両にバスを近づけて放置車両を踏み台にするか。
「ゾンビが近くによってきたら私と中村さんで対処するから安心して」
バスのエンジンをかけて放置車両に近づけると、放置車両を踏み台にしてバスの上に登る。イザベラと中村さんを見るとよって来たゾンビを1体をバットでボコボコに殴っている。容赦ないな。
工場の方を見ると、駐車場の方では数人の男が銃を連射しているのが見えるがすぐに弾切れになってゾンビに襲われてるのが見える。あれだけ銃声を響かせれば周辺のゾンビは寄って来るのは当たり前だ。
「どう?だれか生きてそう?」
下でイザベラが服に返り血をつけてこっちをみている。同じく中村さんも服を血で汚している。
「生きている人は発見したけど、すぐに死んだ」
「屋上の方はどうですか?」
中村さんに言われて屋上を見てみると、数人の人がこっちに気が付いているのか布らしき物をこっちに向かって振っている。その下を見ると、工場の入り口からゾンビがどんどん進入している。あぁ、これは無理だろう。
「屋内まで入られている。多分助けに行っても、俺達がゾンビの仲間入りするだけだ」
「……一応バスで行ってみない?もしかしたら、隠れている人がいるかも」
もう一度、屋上を見ると屋上までゾンビがやってきたのだろう。ゾンビに襲われて倒れる人や、屋上から飛び降りる人が見えた。
「マジで行くのか?」
「バス1台で行って駐車場で少しだけ生きている人を待ちましょう。5分立っても現れないようなら……諦めましょう」
「ゾンビが集まってきてバスが動けそうに無くなっても出発するぞ」
イザベラと中村さんが無言で頷いて、バスに乗り込んだ。俺が降りるまで待ってくれよ。
バスに乗り込むとイザベラが運転席に指を指す。俺に運転しろって事か。もう、慣れてきたよ。
「さぁ!進んで!」
「すいませんが、お願いします」
川沿いに進んでいくと、以前通ったときよりもゾンビが多い。だが、この車なら突破できないことは無い。
ドガッボコッ
ゾンビを跳ね飛ばしていくと、跳ね飛ばしたゾンビは車体の下に巻き込まれて潰されている。だが、車体へのダメージもデカイ。フロントガラスの下のほうにヒビが入った。
工場の駐車場に停車すると、クラクションを3回ほど鳴らす。すると、隠れいていたであろう生存者と駐車場付近でうろついているゾンビがバスに寄って来る。
「うわあああああ!」
「頼む!たすけてくれえええ!」
そりゃ、ゾンビの横を走りぬけようとすれば襲われるだろ。それにしても、予想以上にゾンビが集まってきた。生存者はことごとくゾンビに襲われてるし。
「もうだめだ。諦めるぞ」
「そうだね」
ゾンビがフロント部分を必死に引っかいているが、流石にフロントガラスを割るのは無理だろ。エンジンをふかしてゆっくりと進むと、ゾンビが車体の下に消えていった。
「待って!1人走ってきてる!」
「ダメだ!止まったら囲まれて終わる!」
走ってきている人を見ると、田所さんだ。
「飛び乗って!」
イザベラがバスの扉を開けた。
「一!このままゆっくり走って!」
イザベラも結構鬼だ。しかし、田所さんはバスに追いついてきて飛び乗った。見た感じ40代なのにがんばるなぁ。
「はぁはぁ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないだろ!みんな死んだんだ!」
「一体何があったんだ?」
「君達がバスを取りに行ってから20分後だったかな。ゾンビの集団が押し寄せたんだ。各自対処していたが、数に押されて……この状況だ」
「これからどうするの?」
「浜名湖に向かえ。高速道路を使えば日が沈む前にたどり着く」
田所さんの言う通りに高速道路を使うためにインターチェンジに向かった。