89話 周囲の目
筋肉モリモリなゾンビの拳をイザベラが受け止めている。
「早くして!」
「わかった!」
装甲車に駆け寄る。運転席では男性がぐったりしている。筋肉モリモリなゾンビがこっちを向いた。なんで俺ばっかり狙うんだよ!
「あんたの相手はこっちよ!」
イザベラが筋肉モリモリなゾンビの足にしがみつくと、持ち上げて……持ち上げた!?見た目だけで150キロくらいはありそうなのに……すげぇ力だ。そのまま、防音壁の方へと放り投げた。
今のうちに装甲車の中から男性を助け出す。装甲車のドアを引っ張るがなかなか開かない。ひっくり返されたときに車体がゆがんだのか?しばらく頑張っていると、中の男性が気が付いた。
「ドアが開かないんです!一緒に開けるの手伝ってください!」
「わかった」
中からかなり小さい声だが聞こえた。ドアをもう一度引っ張ると、少しだけ開いた。
「もう一度行きますよ!」
ドアを引っ張ると、人が一人通れそうな隙間が開いた。男性が出てくる。
「おい!みんなのところに急ぐぞ!ゾンビが来てる!」
後ろを振り返るとかなりの数のゾンビが迫ってきている。急いでロケットランチャーを持っている人のところまで走る。イザベラは防音壁にたたきつけられた筋肉モリモリなゾンビの足を掴んで横転している装甲車に向かって投げた。
「今!」
「おう!」
ロケットランチャーを構えた中島さんが装甲車に投げられて倒れた筋肉モリモリなゾンビに向かって撃った。一直線に弾が飛んでいく。筋肉モリモリなゾンビが起き上がろうとしたところに胴体に直撃した。大きな爆発音と共に煙に筋肉モリモリなゾンビが包まれた。
「今度こそやっただろ」
「それ生きてるフラグですよ」
少しずつ煙が消えてく。煙が無くなると、そこには胴体部分が無くなっている筋肉モリモリなゾンビがいた。少しの間、様子を見るが、動く気配がない。ってか、あの状態で動いたりしたらそれこそどうすればいいのかわかんねぇよ。
「ようやくやったよ」
イザベラが近寄ってきた。
「流石にあそこから再生することもないだろ」
「念のため頭に1マガジン分撃ちこんでおくね」
イザベラは肉の塊となった筋肉モリモリなゾンビに近づくと、頭部分に銃口を向けてしっかりとすべての弾を撃ちこんだ。筋肉モリモリなゾンビの頭は原形をとどめてない。
「さて。これからだけど……」
急に視線を感じた。
周りを見ると、みんなこっちを見ている。なんだ?よく耳を澄ますと、話し声が聞こえる。
「あの力……人間じゃないだろ」
「人間じゃねぇだろ」
みんなが怖がっているのがわかる。……普通に考えればあんな巨体を持ち上げて投げ飛ばしたもんな。
民衆の中から男性が出てきた。長道さんだ。
「あの化け物を倒してくれてありがとう。……だが、大変言いにくいのだがここから出て行ってもらう」
「……この力のせい?」
「……そのとおりだ。その代わりに、好きな車と燃料、それに弾薬と食料も渡す。せめてもの例だ」
それならこのまま居座らせてくれよ。……と言いたいところだが道長さん一人でどうにかなるような状態ではないのは確かだ。まさか、追い出されるとは思ってなかったよ。
「中村さんはちゃんと面倒見てくれるんでしょうね」
「治療中のあの人か。それはもちろんちゃんと面倒を見る」
「私も一緒に行くよ」
声がした方を見ると、中村が立っていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫かって聞かれたら大丈夫じゃないよ。痛み止めがだいぶ聞いてるけど、結構痛いよ」
「それなら、ここにいればいいじゃない」
中村がイザベラに何か小さい声で話した。よく聞き取ることが出来なかった。今度はこっちに小さい声で話しかけてきた。
「長道さんはああ言ってるけど、周りの人たちはそうでもないみたい」
……案外、この避難所は裏では陰湿だな。
「幸いゾンビはかなり少なくなっている。今のうちに戻ろう」
長道さんの先導の元、数人程さっきの戦闘してくれた人たちと共に、進む。本当にゾンビがかなり少ない。あっという間に環状線のサーキットまでたどり着いた。そこら中に死体が転がっている。車もいたるところに放置されている。近くの車をのぞいてみると運転席が血まみれになっている。さすがにこれはちょっと……。
「好きな車を選んでいいぞ」
「流石にスポーツカーは無しでしょ」
「そうだな……SUVとかがいいな」
「それならガレージの隣にうってつけの車があるぞ」
案内された先には1台のSUVが止まっていた。フロント部分にはグリルガードが付いている。それにボンネット部分から上に煙突が突き出ている。あれって冠水したところでも進めるってやつじゃなかったけ?
「この車でいいんじゃないの?」
「良いと思う。荷物も乗るし」
「わかった。いま荷物を用意しよう。ここらへんで大体の物資は揃うはずだ。君たちはそこのガレージで休んでいるといい」
「自分たちも用意します」
さすがにまかせっきりもあまりいい気分じゃないしな。それぞれ分かれて物資を探す。俺は……ガソリンでも探すか。ガレージの中に入ると、さっそく真っ赤なガソリン缶を見つけた。ガソリン缶を持ち上げてみると、中身は空っぽだった。
「空だ……」
奥の方にもまだある。持ち上げてみるが、どれもこれも空だ。……ほかの場所も見てみるか。
隣のガレージに行こうとしたらガレージの中から長道さんが出てきた。
「そっちのガレージにガソリン缶なかったか?」
「ありましたよ。空のガソリン缶がいっぱい」
「ちょうどよかった。すぐそこにタンクローリーがあってガソリンを入れる容器が欲しかったところだ」
長道さんを案内して、ガソリン缶を持って着いていく。少しだけ歩くと、小型のタンクローリーが止まっていた。長道さんは手馴れた様子でホースを引っ張ると、ガソリン缶に注ぎ始めた。
「慣れてますね」
「そりゃ、何回も使ってるからな」
あっという間にガソリン缶4つに給油が終わった。
「本当に良いんですか?ここまでしてもらって」
「本当はみんな感謝してるはず……はず。本当は……いい人たち……なんです」
がんばれ長道さん。
車のある場所まで戻ると、すでにみんな集まって荷物を積み込んでいた。食料関係も結構な量がある。弾薬の方は……多いのか少ないのかよくわからない。
「食料は約1週間分に、ガソリンは80リットル、弾薬……小銃と拳銃の弾倉5つに散弾銃の弾が30発ほど……さすがに多すぎじゃないか?」
「あるのに越したことはないよ。それに戦う相手はゾンビだけじゃないからね」
「石川県に向かうなら京都と福井県境に気をつけろよ。警備班を壊滅させた子供たちがいるからな。……おっと、中村さんに薬だ。化膿止めに痛み止めだ。すまないが、こっちの分も考慮して3日分しかない」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、気を付けて」
車に乗り込んでエンジンをかけた。




