87話 再会
「今の音は何!?」
「外に出てみるぞ」
救急車のスライドドアを開けて外に出ると、人々が新たに作ったバリケードの方から逃げている。一体何があったんだ!?
近くの人男性に声をかけて聞いてみるか。
「何かあったんですか?」
「なんかでけぇ奴がバリケードのトラックを倒そうとしてんだよ!銃を持った連中が応戦してるけど鉄の鎧みたいなのを着ていて普通の銃じゃ効いてねぇんだ!破られるのも時間の問題だ!お前達も逃げた方がいいぞ!」
男性は親切に説明してくれたあと、逃げて行った。
「もしかして名古屋で倒した奴が復活でもしたのか?」
「そんなわけ無いでしょ。あの時しっかりと頭に散弾銃叩き込んだんだよ」
「とりあえず行ってみよう」
バリケードの方に戻っている途中で何かが空から降ってきて逃げている人に当たった。飛んできたのは死体……じゃない!ゾンビだ!飛んできたゾンビに当たった人は痛みで苦しんでいる……違う。右足を見ると、変な方向に折れ曲がっている。飛んできたゾンビはそのまま苦しんでいる人を襲おうとしている。
イザベラはゾンビの頭に銃口を突きつけると一発撃った。そのままゾンビは倒れた。
「誰かこの人を運んであげて!」
イザベラの掛け声で寝毛ていた人が数人足を止めて足の折れた人を運び始めた。そのあと、大きな音が聞こえた。これはバリケードの方向だ。
「バリケードが壊されたぞ!」
「早くあの化け物を殺せ!」
バリケードにたどり着くと、バリケードとして使っているトラックが倒されている。その場所にできた隙間からゾンビが入り込んできている。その手前には名古屋で倒したはずの筋肉モリモリなゾンビが右手にトラックのタイヤらしきものを持って仁王立ちしている。
「あいつ防具身に着けてないか?」
「本当だ。防具っていうか鉄板?」
よく見るとマンホールやお好み焼きとかの鉄板が体中に張り付けてあった。あれのせいで銃弾が聞かないのか。見た感じ2重くらいには鉄板を重ねているようだ。
筋肉モリモリのゾンビがタイヤをきれいなフォームで投げてきた。
「あぶねっ!」
「うぎゃっ!」
飛んできたタイヤをよけると、後ろの方で逃げ遅れていた人に当たった。
「おい!大丈夫か……」
声をかけようとしたが頭に当たったのか頭部の部分が原形をとどめていない。これは即死だ。誰がどう見ても即死だ。
「こっち援護して!」
「わかった!」
「もっと火力の出る武器はねぇのか!?」
みんながいろいろな銃を撃っているが聞いている様子がない。でも、ここにある銃で一番強そうなのはイザベラが使っている小銃だ。
「確かずっとまっすぐ行ったところに装甲車が1台止まってる。銃座にはでかい機関銃が付いてたはずだ。あれならあいつの装甲を抜けるはずだ」
「わかった!取ってくる!行くよ!一!」
イザベラが走り出した。その後ろについて走る。結構イザベラ足が速いんだな。
後ろを振り返ると、筋肉モリモリなゾンビに向かって撃っている人たちの姿が見えた。がんばってくれよ。そのまま走り続けると、さっきまで乗っていた俺たちの車が見えた。周囲には誰もいなくなっていた。みんな奥に逃げたんだろ。車の助手席に乗り込む。運転席にはイザベラが乗り込んだ。エンジンをかけると急発進をした。
しばらく走ると、逃げている人たちがちらほら出てきた。さすがにイザベラも速度を落とし始めた。一体どこまで進めば装甲車があるんだろうか?
「そういえば救急車いなくなってたね」
「そうだな。きっと先の方に逃げてるんだろ」
逃げている人が多くなって徐行しながら進まないといけなくなった。いつになったら装甲車が見えてくるんだ?結構な距離進んだはずだ。がんばってくれている人たちにも申し訳ない。
「あった!」
「どこ!?」
人ごみの中に一台の装甲車が止まっていた。自衛隊の装甲車だ。扉を開けて人が乗っているようだ。近くに車を止めて装甲車に向かう。装甲車の上にはかなり大きい機関銃が付いている。あれだけデカければあいつの身に着けている鉄板なんて簡単に貫通できるだろ。
装甲車の中では一組の親子が休憩していた。
「今からこの車使うので出て行ってください!」
「なんですか!?この車は私たちが最初に使ってたんですよ!」
「いいから!この車の機銃で化け物を殺しに行くんです!このままだと化け物とかゾンビがここまで来ますよ!」
「うるさい!その時はこの車で逃げるだけなの!」
なんて自己中心的な考えなんだ。周りの人たちを見ると、目を合わせないようにしてる。あぁ。めんどくさい家族なんだな。
「いい加減にして!」
イザベラが小銃を母親らしき人物に向けた。
「こうしてる間にも戦ってくれている人たちがいるの!その人たちがいなくなったらここにいる大半の人が死ぬんだよ!わかってる!?」
イザベラが怒鳴ると、周りに人が集まってきた。
「こいつらを引っ張り出せ」
「早く出ろ!」
周りの人たちが車のドアを開けて家族を装甲車から引っ張り出した。引っ張り出されるときに抵抗した母親らしき人物は顔面を一発殴られて大人しく引きずり出されていた。……いや……そこまでやらなくてもいいと思うけどなぁ。
「早く乗っていきな」
一人の男性に言われるがまま装甲車に乗り込んでキーをひねるとエンジンがすんなりかかった。あの家族がエンジンをかけて走り出さなかったのは最後の良心だったのかもしれない。
「急いで」
「わかってる」
寝毛てきた人たちがみんな端の方に避けていて来た時よりは速いスピードで戻る。
「見えた!」
「まだ耐えてくれてるみたいだ」
筋肉モリモリなゾンビの手前で数人の男性が頑張っている。こっちに気が付くと少し安心しているのが伝わってきた。装甲車を止めると、イザベラが銃座に着いた。コッキングを引く音が聞こえた後、今までの銃とは違う音が聞こえてくるし、車内に大量の空薬きょうが落ちてくる。
「あっつ!」
空薬きょうがこっちにまで飛んできた。しかも1つや2つどころじゃない。大量に……。
「あづ!」
思わず車から飛び出した。筋肉モリモリなゾンビを見ると、効いてるようだ。さすがにこれだけデカい銃だ。鉄板くらいで防げるはずもなく貫通している。
銃声が止んだ。弾が無くなったのか。あいつは立ったまま動かない。やったか?
「ごめん。倒せてないみたい」
筋肉モリモリなゾンビが雄たけびを上げた。これは一回逃げた方がいいんじゃないか?
「なんかヤバそうだぞ!逃げた方がいいんじゃないか!?」
「そうだね!みんな!車に乗って!」
銃を持った男たちが車に乗り込んでくる。かなり狭い。それにしても、もっと人いなかったか?
「全員車に乗ったね!?一!出して!」
装甲車を反転させて逃げる。
「これ使え!」
後部座席に座っている男性がイザベラに茶色の筒状の物を渡した。ダイナマイトだ。イザベラが導火線に火をつけて後方に投げると、しばらくした後で大きな爆発音が聞こえてきた。




