86話 カスタマイズ
散弾銃を撃つが、距離が遠すぎるのかゾンビに当たっている気がしない。
「散弾なんてこの距離で使っても意味ないぞ!一番右の人に言ってスラッグ弾をもらってこい!」
「は、はい!」
言われた通りにバリケード代わりに並ばれたスポーツカーに沿いに進むと、一人だけ散弾銃を撃っている人がいた。多分この人だろ。
「すいません。スラッグ弾分けてもらえませんか?」
「お前散弾でやってんのか!?ほらよたくさんあるからもってけ……ってサイト無しでやるつもりか!?」
「え?これにサイトついけれるんですか?」
「貸してみろ」
散弾銃を奪われた。スラッグ弾の箱が山積みになっている横に工具箱がある。その工具箱からサイトを出してきた。なんか上下二連式にはに使わないな。
「ほら、つけたぞ。4倍スコープだ」
渡された散弾銃に着いたスコープをゾンビに向けて覗いてみる。
「どうだ?」
「なんか……なれません」
「だろうな。少しだけ下を狙ってみろ。それでも当たらないならさらに下げてみろ」
「わかりました」
「スラッグ弾を持っていくのを忘れるなよ」
山積みにされたスラッグ弾の箱を3つほどもらっていく。
イザベラのところへ戻ると、イザベラがこっちに気が付いた。
「何そのスコープ?似合わない」
「俺もそう思う」
「でも、サイトが付いているだけでも狙いやすくなるからね」
早速、スラッグ弾を装填してゾンビに向ける。おぉ、それなりに離れたゾンビも狙いやすい。前にもイザベラに言われた胸辺りを狙ってみる。そして、引き金を引いた。
狙ったゾンビは右肩を殴られたようによろめいた。あれ?しっかりと狙ったはずなのに。
「それ、調整してもらった?」
「え?調整いるのか?」
「当たり前でしょ」
イザベラが散弾銃を奪った。なんか奪われてばかりだな。
イザベラがゾンビに向けて撃った。ゾンビは頭を撃ち抜かれたのかその場で倒れた。
「やっぱりずれてる。直す道具なんて持ってないから少し右下狙うようにすると良いよ。あと、反動に慣れてきたみたいだからもう少し上を狙ってみたら?」
イザベラが新しい弾を装填してくれている。やっぱり手馴れてるなぁ。俺の倍くらいの速さだぞ。
「はい。弾もいっぱいもらったんだし頑張って」
「頑張ります」
今度はゾンビの左肩あたりを狙ってみる。引き金を引いて、ゾンビをもう一度見ると、その場で倒れていた。お、当たった。なんか今まで当たらなかったからうれしいな。
「良い感じ!その調子!って言いたいところだけど、マズいね」
確かに、ゾンビの進行が徐々に進んできている。さっきは30メートルほどの距離にいたが、今は20メートルくらいだ。この調子だとあと30分くらいで突破されるだろう。後ろの方ではみんなでバリケードを作っているはずだ。今の進捗状況はどんな感じだろうか?誰か報告しに来てくれないだろうか?
そんなことを思っていると、1人の男性が走ってきた。
「おい!もう少しでバリケードが完成する!頃合いを見て撤退しろ!」
男性の言葉でイザベラの横の人が懐からダイナマイトを取り出した。よくテレビとかで見かけるような見た目のダイナマイトだ。男性が導火線に火とつけると、ゾンビの群れに向かって投げ捨てた。
「撤退だ!急げ!」
全員が撤退を始めた。走り出してしばらくした後、背後の方で大爆発が起こった。その少し後に肉片が降ってきた。ダイナマイトで吹き飛んだゾンビの物だろう。そのまま走ると、バスやトラックが横並びで道を塞ぐようにびっしりと止められている。その中のトラックのキャブ部分に梯子が付いているトラックがあった。
「梯子の付いてるトラックから登れ!」
バリケードで戦っていた人たちが順番に上っていく。俺は最後から二番目か。後ろを振り向くと、ゾンビがゆっくりと迫ってきている。結構倒したはずなのにまだこれだけの数が残ってるのか。
「早く上れよ」
後ろの人がせかしてきた。あぁ。俺の番か。
トラックの梯子をよじ登る、梯子を上り終えた後は最後に上ってくる人の手を取って引き上げる。
「ありがと」
「いえ」
さっきまでいた方を見ると、すでにゾンビがトラックやバスのバリケードに迫っていた。
「早く降りてきて」
トラックの下からイザベラが手招きしている。トラックから降りてトラックの方を見ると、車体の下にはいろいろな家電や土嚢が敷き詰められていて簡単には入ってこられないようになっている。そうだよな。ここを塞がないとゾンビが入ってくるもんな。
「中村さんの様子を見に行くよ」
イザベラについて救急車が並んでいる診療所の方へと向かう。いまだに診療所は人がたくさん並んでいる。中村が収容された救急車のスライドドアを開けて中に入る。中のベットには中村が眠っていた。特に苦しんでいる様子もない。その横には看護婦さんらしき人が座っていた。
「様子はどうです?」
「今は痛み止めが聞いているのかよく眠っています。命には別条はないので大丈夫ですが、やけどの跡は残ると思います」
「それは何となくわかってる」
「それより外の様子はどうですか?」
「バリケードをみんなが築いてくれたおかげで安心です。破られることもないと思います」
「それはよかった。この人はしばらくここで安静にしてもらいます。あとはちゃんと食事をとることですね。それでは私はほかの仕事があるので。何かあったら近くの人に声をかけてください」
看護婦さんはそう言い残すと救急車から出て行った。
「これからどうするんだろうね」
「さぁ?そんなこと俺たちが決めるわけじゃないしどうしようもないよ」
「そうだよね。一応奥の畑の方は無事みたいだし、食料を保管しているところもその奥にあるみたいだから食料の麺に関しては心配しなくても大丈夫そう。でも、一番は電気じゃない?発電機はいたるところにあるみたいだけど、燃料を保管してる空港は火災で全滅だしあとはところどころにあるソーラーパネルだけだね」
「どうする?家に戻る?」
「何かあったら声かけろって言われただろ。俺たちに看病を任せたってことだろ」
「そっか……あの人も忙しそうだもんね」
外ではいろんな人の声が聞こえてくる。中には怒号まで聞こえてくる。そりゃそうだよな。こんな状況じゃ心に余裕ないもんな。まぁ、俺とかイザベラはもしかしたらあまりここに思い入れが無いからかもしれない。
中村はスヤスヤ寝ている……いや、汗がびっしょりだ。一体いつまで見ていればいいんだろうか?
ドゴン
突然大きな音と振動が救急車に伝わってきた。




