85話 やけど
「何だよ……ちょっとした冗談じゃねぇか」
「冗談で人を殴ってナイフを取り出してまで鍵を奪うのは冗談?」
男性はナイフをしまうとそのまま逃げて行った。
「災難だったね」
「あぁ。本当に」
「こっちはだいぶやられちゃったけど、峠は越えたよ。それよりも空港の方が火災でひどいみたい。保管していた燃料が全部燃えてるって」
「ところで中村はどこで警備してるんだ?」
「確か空港で……」
マジかよ。
「俺は今から空港に行く!」
「私も行く!」
イザベラよりも先に車に乗り込んでエンジンをかける。イザベラは助手席に乗り込もうとして一瞬固まった。バリケードの方を見るとひとりの男性が親指を立てていた。イザベラは一礼すると車に乗り込んだ。
「空港の火災ってどれだけひどいんだ!?」
「無線で少しだけ聞いただけなんだけど。滑走路の方の火災が空港の建物にまで広がってるって聞いたのが最後」
空港へとつながる橋へとつくと、空港が真っ赤に染まっているのが遠くからでもわかる。何とか無事であってくれ。反対側の車線には人が何人も歩いている姿が見える。でも、中村らしき人物の姿は見えない。
「前!」
前を見ると、橋のつなぎ目部分で橋がずれている。大体1車線分ずれている。それでも何とか通ることはできそう。徐行しながら通る。
空港にたどり着く。燃え盛る建物に向かって数台の消防車が放水をしているが炎の勢いを止めれない。
「おい!もっと消防車もってこい!」
「しらねぇよ!」
消火活動している人たちが声を荒げている。そんな中建物内から一人の女性が子供を2人引き連れて出てきた。あれは……中村だ!
「おい!大丈夫か!?」
中村に近寄ると、子供達は消防車のある方へと走っていった。中村の方はフラフラだ。
「ほら、肩かしてやるから」
中村の左手は焼けただれいていた。早く治療しないと。って、病院的な役割はこの空港だった。
「まだ……中に人が……」
「……もう無理だ」
建物の方を見ると、すでに入り口から炎が噴き出して少しずつ建物が崩れ始めている。あの中に入れば生きては帰ってこれないだろ。
「あと……ゾンビが……」
「ゾンビ!?」
だめだ。中村から事情を聴きたいけど、これ以上は命に係わる先に治療だ。
「ちょっと!?大丈夫!?」
「車に乗せて治療できそうなところに運ぶぞ。それに空港内にゾンビがいるらしい」
「それマジで!?」
突然イザベラが建物に向かって小銃を向けた。後ろを振り返ると炎に包まれた建物から火だるまな人が出てきた。あれは人間……?ゾンビ?しばらく歩くと火だるまな人は倒れた。それを見届けると、イザベラは小銃を降ろした。
「消火活動してる人にも逃げるように伝えて」
中村を後部座席に乗せてイザベラの方を見ると小銃を再び建物の方に向けている。建物からは火だるまの……あれはゾンビだ。ゾンビが数体出てきている。倒れることなくこっちに向かってきている。
消火活動をしていた人達も消火ホースなどを放置して消防車に乗り込んでいる。子供達も消防車に乗り込んでいる。よかった子供たちの世話まではできそうにないからな。こっちは片腕をやけどした人がいるからな。
橋を渡っていると途中で数人の人とすれ違ったが、さすがに乗せることはできない。後部座席には中村が寝ているからな。後部座席で横になっている中村は苦しそうにしている。腕を見ると……すごい痛そうだ。こういう時どうすればいいんだっけ?冷やせばいいんだっけ?とりあえず環状線のところへ行ってみよう。そこならゾンビも来てないはずだ。
「どこに向かってるの」
「とりあえず環状線の方に向かってる」
「そうだね。あそこなら広いからみんな集まってると思う」
消防車も後ろからついてきている。環状線にたどり着くと、すでにサーキットのように車が走っていた道は人が集まっていた。倉庫の前で車を止めると、桐生さんが倒れたバイクを必死に起こしていた。
「無事だったか。ってその怪我どうした!?」
「医者とかいないか?」
「少し進んだ先で救急車が数台並んでる。そこでけが人を治療してる。そのやけどならすぐに列を飛ばしてみてくれるだろ」
「ありがとうございます」
車を人を押しのけるようにゆっくりと進む。みんなこっちを見てくる。いや……睨んでるといった方がいいか。それもそうだ。こんな状況で車なんて使っているもんな。しばらく進むと救急車が数台並んでいる。その横にはベットやベンチに横たわってる人たちがいる。これが桐生さんが言ってたやつか。
できる限り近づいて車から降りる。エンジンを止めて後部座席から中村を降ろす。診察待ちの人たちを中村を背負いながら進む。
「おい!順番くらい守れ……」
若い男性が途中で言葉に詰まった。中村の腕を見て言葉に詰まったのだろう。こんなやけどを見せつけられたら俺でも順番を譲る自信はある。
列の先頭には椅子に座って対面しながら怪我をしている人の治療をしている医者っぽい人がいる。医者っぽい人がこっちを見ると、一瞬固まった後、治療していた人を放置してこっちに来た。
「このやけどは!?」
「空港の火災に巻き込まれてなったらしくて……」
「いつなった!?冷やしたか!?」
「25分ほど前です。応急処置的なことはしてません」
「おい!救急車の中の奴はあと回しだ!先にこの人だ!」
周囲があわただしくなってきた。すぐ横にある救急車の中で治療されていた人が救急車から出ていった。
「中のベットに運べ!あとはこっちでやる!」
救急車内に中村を運ぶと、救急車から追い出された。そして救急車の後部のドアが閉められた。何が起きたかよくわかってない。横では小銃を持ったイザベラもポカーンとしていた。
「素早い判断だね」
「あぁ。これなら命は大丈夫だろ」
車に戻ると、桐生さんがいる倉庫の方がなんだか騒がしい。
「何だろう?行ってみるね」
「あぁ。俺も」
人ごみをかき分けながら進む。騒ぎの場所に近づくにつれて俺たちが向かう方向とは逆の方向に逃げてる人がいる。イザベラが状況を聞こうとしてもお構いなしで逃げていく。
人ごみが途切れると、スポーツカーがバリケードとして使われていた。スポーツカーを台座代わりにして小銃を撃っている人がいる。スポーツカーの向こう側にはゾンビが大量にいる。こんなところまで押されたのか!?
「なんでこんなに押されてるの!?」
「知らねぇよ!?最初はまばらに来ていたゾンビが一気に押し寄せてきたんだ!」
「もしかして」
イザベラが高速道路横の防音壁に向かって走り出した。そのままジャンプすると、防音壁の上に飛び乗った。周りの人が驚いた顔で見ている。イザベラは下を見た後、防音壁から降りた。
「高架下のゾンビが全部いなくなってる」
「マジかよ。かなりの数いただろ!?」
「考えるのはあと!みんなで協力してゾンビの殲滅!それとバリケードの構築!」
周りの人がイザベラに圧倒されて固まっている。
「……この嬢ちゃんのいう通りだ!早くやるぞ!」
「あぁ!そうだな!」
「俺たちでここを守るんだ!」
おぉ……みんなのやる気が。
「一も戦って!」
「いや俺の腕前を知ってるだろ!」
「そこら辺の人たちよりは上手だって」
そういいながら近くに停めた車の中に走っていった。車の中から散弾銃を持ってきた。
「使い方は大丈夫だよね」
「まぁ……大丈夫だけど……」
当てれるか心配だなぁ。
イザベラと一緒に防衛線へと向かう。防衛線では数十人の人が小銃をゾンビの群れに向けて単発で撃っている。だが、徐々に押されている。
俺も、当たるかわからないけど一緒にゾンビに向けて散弾銃を構えて引き金を引いた。




