83話 慣れ
バイクで環状線を1周して倉庫に戻ってくると桐生さんがボンネットを開けて車の整備をしていた。
「1周で満足か?後ろのイザベラさんは不満そうな顔してるけど」
「1周でいいです。明日も仕事なんで」
バイクから降りると地面が揺れた。かなりでかい。街灯や倉庫の壁にかけてある工具が揺れいている。環状線を走っている車も停車してハザードを焚いて止まっている。
「なに!?揺れてる!?」
イザベラがしがみついてきた。
しばらくすると揺れは収まった。かなりでかかったな震度5くらいか?
「かなりでかかったな震度5くらいか?」
「そんなところじゃないですか?」
後ろを振り返るとイザベラが泣きそうな顔をしている。
「なんでそんなに平気そうな顔をしてるの!?すごく揺れてたんだよ!?」
「いや……みんな結構慣れてるし」
そうか、海外だとあまり地震が起きることもないのか。そりゃ怖いよな。
「しばらくの間余震続くだろうな」
「え!?また揺れるの!?」
「仕方ないだろでかい地震の後は大きめの余震がしばらく続くのが日本だと常識なんだ」
「そんな常識やだ!」
「……とにかく帰るぞ」
仮設住宅の家に向かって歩き出す。家の手前の仮設住宅の前にはたくさん人が出ていた。地震で出てきたんだろ。みんなそれぞれ先ほどの地震の事ばかり話している。中にはこれから大きな地震が起こると騒いでいる人もいる。あぁ。誰だっけ?南海トラフがどうとかって言ってる人もいたよな。
「ねぇ。私、すごく嫌な予感がするんだけど」
「やめろよ。そういうこというなよ」
一体どれだけの避難所を壊滅させてきたんだと思っているんだよ。……いや、浜名湖の方は壊滅してないか。
「帰ってきたよ」
家の前に着く。すでに明かりがついていた。中村が先に帰ってきているのだろう。家に入ると中村がリビングで待っていた。机の上には発泡スチロールの入れ物に入った何かが置いてある。この匂いは……焼き鳥か?
「良い匂いするな」
「焼き鳥だよ。今日入ってきたトラックに積んであったらしいの」
「よく腐ってない肉があったもんだ」
「どこかの倉庫の屋根にソーラーパネルがあって電源がずっと生きてたらしいの。それで腐らなかったって言ってた」
「ありがたくいただくか」
「そうだね」
容器を開けると焼き鳥が5本入っていた。全部ねぎまだ。
「私1本で良いよ」
中村がねぎまを1本とって食べ始めた。俺も、1本取って食べ始める。一口食べると、特別美味しいわけではないが、コンビニとかで食べるような味で悪くはない。
「おいしいね。私初めて食べた」
「結構日本観光に来たことあるんだろ?その時食べたりしなかったのか?」
「あんまりこういうのは食べてないよ。和食ばっかり食べてるイメージ」
「焼き鳥も日本食だろ」
「え?そうなの?」
イザベラはそういいながらも2本目を食べ始めた。食べるペース早すぎだろ。中村はすでに食べ終わってお茶を飲んでいる。
「さっき大きい地震あったけど大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなかったらここにいないだろ」
「そういうこと聞いてるんじゃないの」
「俺とイザベラは環状線の方にいたけど特に大きな被害はなかったぞ」
「え?環状線で何してたの?」
「一のバイクの後ろに乗せてもらってたんだ」
「ずるい!」
「妊婦をバイクに乗せるのはちょっと……」
「まぁそうだね」
「そうだ、なんかラジオかなんかのインタビューに答えたんだろ?なんて言ったんだ?」
一気に中村の顔が真っ赤に染まった。
「いや……あの時は勢いで言ったけど面と向かって言うのはちょっと……」
「……そっか。言いたくなったら聞かせてくれ。今日は寝る」
横の部屋に戻ると布団に入る。今日はかなり暑い。……」ここ最近暑かったが夜の方はまだ涼しかった。体感30度は越えてる。扇風機位も欲しいもんだ。それでもなんとは寝ることはできそうだ。そのまま目をつぶっていると眠ることが出来た。
目覚めると。喉がめっちゃ乾いてる。お茶……。
キッチンに置いてあるコップにお茶を注ぐ。うわっ……お茶が外の放置されていたせいでぬるい。いや……ちょっとあったかくなっている。
「ぬるっ……」
「あ、おはよう」
イザベラが部屋から出てきた。髪はかなりボサボサになっている。よく見ると、染めた髪の毛が少し色落ちしている。もう一度染め直した方がよさそうだな。でも、こんなところに髪の毛を染めるものはあるのだろうか?
「髪の毛の色戻ってきてるな」
「何色に見える?」
「難しい質問だな。ってか、ほぼ金色って言ってもいいくらいじゃないか?」
「そこまで色落ちしてる?」
「いつもあっているから少しずつの変化だとわかりずらいんだよ」
「そんなんじゃモテないよ」
「妻いるから」
「そうだったね」
そんなことを話していると中村も起きてきた。
「おはよう。何話してるの?」
「イザベラの髪の毛の色の話」
「あー。もうほぼ金髪だよ」
「え!?」
「気が付いてないの!?2日前くらいからほぼ金髪状態だったよ」
「マジか!?」
「そんなんじゃモテないよ」
「その言葉イザベラにも言われた」
プレハブ小屋前にバキュームカーが止まったのが見えた。やべっ。もうこんな時間だったのか。すぐにつなぎに着替える。
「見張りがんばれよ」
「うん。一も気を付けてね」
家を出ると、バキュームカーの中で煙草を吸ってる大原さんがこっちを見ていた。助手席に乗り込むと車がゆっくりと動き出した。




