79話 修理完了
最後の汲み取り場所に着いたが誰もいない。
「誰もいないですね」
「この雨だからな」
「傘貸してくれないんですか?」
「ここまで濡れたなら、もういらないだろ」
大きくため息をついてバキュームカーから降りる。せっせとホースを引っ張って肥溜めへと持っていく。あれ?ここはだいぶたまってるな。
ホースから液体が出始めた。ふとプレハブ小屋の方を見ると、電気がついていた。誰かいるのだろうか?ホースの排出が止まった。ホースを一生懸命に靴を泥だらけにしながらバキュームカーに引っ張る。ここの畑は妙に泥まみれだ。バキュームカーに戻るころには少しだけ雨がやんでいた。でも、ここまで濡れたならどこまで濡れても一緒だ。
「お疲れ。すぐそこのプレハブで休め。タオルも置いてあるはずだ」
プレハブ小屋に入ると、目の前に置いてある棚にバスタオルが大量に積んである。これを使えばいいのか。種類に関してはバラバラだ。俺が取ったやつは国民的アニメのキャラクターが描かれているバスタオルだ。こんなやつ使ったの子供の時以来だな。頭を拭いていると、大原さんがプレハブ小屋に入ってきた。
「すごい雨だな。少し止んだが、少し外にいるだけでびしょぬれだ」
「そう思うなら傘を貸してくれればいいのに」
「何か言ったか?」
「いいえ。何でもありません」
頭を拭き終えると、バスタオルを使用済みバスタオルの箱へ入れる。中にはほかにも数枚バスタオルが入っていた。これって誰が回収しているんだろうか?
大原さんが頭を拭いていると、プレハブ小屋にまた誰か入ってきた。
「あ、一じゃん。なんでこんなとこにいるの?」
「こっちのセリフだ。この雨の中農作業でもしてるのか?」
「流石に今日は中止だよ。使用済みのタオルとか取りに来たの。この先にランドリールームがあるからね」
「へー」
「コインランドリー並みの充実っぷりだよ今度来てみれば?」
「別に興味ない」
「そっか」
なんか中村がしょんぼりしている。気分転換でもしたいのだろう。
「そうだ。これからバキュームカーを点検に出すんだ。環状線で気分転換でもしないか?」
「なに?ドライブデート?」
「まぁ、そんな感じだ」
「おいまて。あの車に3人も乗れないぞ」
「大丈夫。私は洗濯物を持って行かないといけないからそのあとで行くね」
「わかった」
中村は棚にあった袋に洗濯物を詰めて出て行った。
「さて、行くぞ」
「はい」
外に出ると、雨は上がっていたが、分厚い雲が空を覆っていた。また降り出しそうだな。バキュームカーの助手席に乗り込む。大原さんが運転席に乗ってエンジンをかけると、また雨が降り出してきた。
「また降ってきた」
「長い雨ですね。梅雨は終わってるはずなのに」
「洪水とか起きなければいいけどなぁ」
「この周辺って洪水とか起きるんですか?」
「長年住んでいたけど洪水は無いなぁ。アンダーパスが水没したとかは聞いたことはあるけど。でも……」
「どうしたんですか?」
「いや、ニュースとかネット記事で最近話題になっていたんだが、南海トラフ地震が近々起きるって話題になっててな」
「それ、自分も見たことありますけど、起きる起きる詐欺じゃないんですか?」
「さぁ?でも警戒してこくことに越したことはないだろ」
「そうですけど……」
気が付くと環状線のサーキットにたどり着いていた。バキュームカーをガレージに持っていくと、長田さんが1台のスポーツカーを整備していた。
「お、持ってきたか」
「はい。お願いします」
「代車いるか?」
「いえ、私はいりません」
「大原は?」
「いらないですけど、ちょっと走ってもいいですか?」
「良いぞ。前と同じバイクでいいか?整備は終わってるぞ」
「いや、待ってる人がいるので」
「ドライブデートか」
「大原さんと同じ反応ですね」
桐生さんがバキュームカーのキャブを上げてエンジンルームを点検している。雨も気が付くと止んでいる。
「それじゃあ、俺は帰るから。楽しんでおけよ」
大原さんがガレージから出て行った。そういえば車の修理もしないと。
「お前の車は部品は取り付けてあるから、確認するだけだ」
「連れが来たら確認がてら乗りますね」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
「大隅いる?」
中村がガレージに入ってきた。ちょうどいいや。
「さ、ドライブでも行くか」
「車のカギだ。隣の車庫に入っている」
隣の車庫に行くと、乗ってきた車が止まっていた。洗車してくれたのかキレイになっている。鍵を開けて乗り込むと鍵を差し込んでエンジンをかける。ここまでは普通だ。シフトをドライブに入れてアクセルを踏み込む。お、普通に加速する。このまま環状線でも回るか。
環状線の防音壁から見えるビル群が夕日でオレンジ色に染まっている。でも、どのビルも灯りは一つもついていない。数か月前はビルの看板とか明るかったんだろうな。
「車治ったけどどうするの?後ろの銃とかはそのまま積んであるけど」
「もう少しいてもいいかなと思ってる。まぁ。そこらへんはイザベラも揃った時に話をしよう」
「そうだね。さすがに2人で決めるのはダメだね」
80キロほどで走っていると、後ろからとてつもなく速い車が追い越していった。何キロくらい出ているのだろうか?さすがにこの車ではあそこまでの速度は出せない。
「ねぇ。落ち着いて聞いてほしんだけど」
「なんだ?トイレでも行きたいのか?」
「……はぁ」
「ごめん」
「実は最近具合が悪い時があってね。あれも来てないと思ってたの」
「あれ?」
「それで、道下さんに言ってもらったの」
何を?
中村が懐から取り出したのは透明な袋に入ったボールペンほどの棒だった。




