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77話 仮設トイレ

 扉をぶち破って出てきたのはかなり大柄のゾンビと、数体のゾンビだ。小銃を持った2人がよく狙いを定めて一斉に射撃を始めた。


 タタタン


 一回の射撃で素早く3発撃っている。これはアメリカ軍が使っている小銃か。確か3点バーストだっけ?手前の大柄なゾンビはあっという間にその場に崩れ落ちた。次にその後ろの数体のゾンビも流れるように頭を撃ち抜いた。すげぇ。イザベラより上手いんじゃないか?


「これで片付いたな」

「なんで上ってきたんだ?すべての非常階段と梯子は壊して登れなくなっているはずなんだが」


 小銃を持っている2人のうち1人が非常口に近づいたとき、足を掴まれた。


「何だこいつ!?」


 小銃を下に向けて撃つがそのまま引きずり込まれていった。


「うわあああ!やめろ!」


 もう1人の相方が非常口から下に銃口を向けながら覗いたが撃つことなくため息をついた。


「助けに行かないの?」


 家の中から中村が声をかけてきた。


「無理だ。下をのぞいてみろ」


 恐る恐る非常口から下をのぞいてみると、壊れて降りられない非常階段の下には何かが大量にうごめいているのが見える。小銃を持った人がライトで下を照らしてくれた。

 すると、さっきの人が落ちたであろう場所に100……いや、それ以上のゾンビが群がっている。ゾンビの群れはそのまま左右の高架下に大量にうごめいている。……これは諦めるのも納得だ。


「本部、聞こえるか?」

『どうかしたか?』

「仮設住宅裏の非常階段をゾンビが上ってきて扉を破壊した。ゾンビは排除したが、非常口の安全確認をしようとした初倉はつくらがゾンビに引き込まれて死んだ」

『そうか。すぐに塞ぐために応援部隊を送る。それまで、そこの警備に当たってくれ』

「あぁ。わかった。だが、もう一人ぐらい警備するやつをくれよ」


 あ、この流れはこっちに話が来る奴だ。


『仮設住宅に住んでるやつを一人警護につけろ。拳銃でも渡しとけ』

「はいはい」


 小銃を持った男が、無線を切った後、こっちを見つめている。あぁ。やっぱり。


「おい。そこの女。警護を手伝え」

「私?」

「そうだ。行けるだろ?」

「多少は……」

「今の無線は聞こえていただろ。拳銃を渡すから、応援が来るまで警備を手伝ってくれ」

「はい」


 イザベラが拳銃を受け取った。さて、隣の住民らしき人も、部屋に戻ったことだし、俺と中村も帰るか。


「中村、部屋に戻るぞ。イザベラ、頑張れ」

「大丈夫だよ」


 仮設住宅の部屋に戻ると、中村が冷蔵庫の中からペットボトルに入っているお茶を持ってきてくれた。そのあと、キッチンに行くと、コップを2つ持って戻ってきた。


「今日、もらったの」


 食べかけのお好み焼きっを食べ始める。完全に冷めてしまっているが、それでもおいしい。窓からイザベラを見ると、小銃を持った男と、何か話しているようだ。お好み焼きをすべて食べ終えると、コップに入っているお茶を一気に飲み干した。外からディーゼルエンジンの音が聞こえてきた。ようやく扉の場所を塞ぐ奴がやってきたのか。外を見ると、クレーン付きのトラックがやってきた。トラックから2人の男が降りてくると同時にイザベラが帰ってきた。


「ただいま」

「おかえり」

「扉の方はもう大丈夫なのか?」

「トラックの荷台にある鉄板を溶接して完全に塞ぐんだって。ゾンビも上がってくる気配がないから見張りの方は大丈夫だって」

「そうか。それなら俺は寝る。明日も頑張らないといけないからな」

「それは私たちも一緒だよ」

「それは失礼しました」


 隣の部屋に行くと、布団に入る。外からは溶接しているであろう音が聞こえてくる。さ、これでゾンビにおびえなくていいな。目を閉じると、スッと眠っていた。




「起きて!迎えに来てるよ!」

「ん?」


 中村に起こされて起きるが、まだ外は薄暗い。早くないか?

 すぐに着替えて外に出ると、大原さんがバキュームカーの隣で煙草を吸っていた。あれ?昨日吸ってなかったよな。


「来たか。昨日は伝え忘れていたんだが、今日は車を点検してもらうことになっているんだ。だから早めに仕事」

「そうだったんですね。昨日、煙草吸ってなかったですよね?」

「ちょっと遠慮したんだ。嫌なら吸わないぞ」

「大丈夫ですよ」

「それなら遠慮なく吸わせてもらう」


 バキュームカーの運転席に乗り込むと、エンジンをかけて出発する。助手席では大原さんが煙草を吸い始めた。さっき吸ってなかったか?こりゃかなりのヘビースモーカーだな。

 まずは門のところだったよな。門のところへと行くと、1台の大型トラックがプレハブ小屋前に止まっていた。フロント部分には手作り感満載のバンパーガードが取り付けられていた。


「食料ですかね?」

「さぁ?俺たちにはこういうことは一切知らされないからな。あと、知っていてもどうしようもない」


 プレハブ小屋から男の人が数人出てきた後、トラックの方へと向かって歩いて行った。


「おい。早くしないと遅くなるだろ」

「すいません」


 ホースを引っ張っていって仮設トイレの汚水を吸い取る。吸い取っている間に後ろに人が来た。この女性なんかどこかで見たことあるような……。


「まだかかりそうですか?」

「隣にもあるんでそっち使ってください」

「かれこれ10分も入って出てこないんですよ。もう限界なんです」

「……大原さん!一度止めてください!」


 ホースの吸引が止まったのを確認してホースを引き出す。それと同時にトイレを待っていた女性が俺のことを押しのけるようにして仮設トイレに入っていった。


「どうした?」


 大原さんが様子を見に来てくれた。


「いや、トイレに入りたいって人が……」

「隣空いてるだろ」

「それが、10分くらい出てこないって」

「……それはそれで心配だな。声でもかけてみるか」


 大原さんが仮設トイレのドアをノックする。


「おい。大丈夫か?」


 突然さっきトイレに入った女性が飛び出してきた。しかもきちんとズボンを上げきれてない。あ、今思い出した。昨日車の部品を探しているときに見た車で車中泊していた人だ。


「ちょっと!隣の人!ゾンビ!」

「何言ってるんだ?ゾンビなんているわけないだろ。そんなことよりズボンをちゃんと上げろよ。パンツ丸見えだぞ」


 大原さんが冗談を言うと同時に仮設トイレの扉が内側から叩かれた。それもかなりの力だ。これはゾンビだ。


「おい!門を守っている奴を呼んで来い!」


 つなぎを来た男の人が門の方へと走っていった。それと同時に仮設のトイレが破られてゾンビの腕が飛び出してきた。

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