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75話 スイカ

「仕事頑張ってるみたいだね」


 イザベラが籠の中にトマトをいっぱい持っている。


「あぁ、大変だぞ。代わるか?」

「遠慮しとく」


 肥溜めの方を見ると、かなりの量がたまってきた。


「ストーップ」


 ホースの液体が止まった。


「何してる!早く戻って来い!」

「はーい!……それじゃあ、いくから」

「頑張って」


 ホースを持ってバキュームカーに戻ると、大原さんが腕を組んで立っていた。


「どうした?遅かったな」

「一緒に住んでいる人と会いまして」

「様子はどうだった?」

「元気そうにやってましたよ。トマトをいっぱい持ってましたね」

「さ、次だ」


 バキュームカーに乗り込んで次の肥溜めへと行く。今度は畑一面にスイカが広がっている。すげぇうまそう。


「食べたいだろ」

「はい」

「ただ、そんなに甘くないし、ぬるいぞ。……さて最後の場所だ」


 スイカ畑の真ん中に肥溜めがあるのが見える。最後か。長かったな。ホースを引っ張って肥溜めの方へと歩いていく。なんか農作業している人が避けて行ってるような気がする。まぁ、こんなものを引っ張ってればそうなるわな。

 さっきと同じように肥溜めの中にホースを入れる。……あれ?匂いに慣れてきたのかそんな臭わないぞ。


 ホースから流れる液体を眺めていると、後ろから足音が近づいてくるのが聞こえてきた。振り向くと、中村がクワを持って立っていた。


「やっぱり大隅じゃん。何して……おえっ。くっさ!」

「まじ?」

「何も感じないの?」

「最初は臭かったけど、今は特に……」

「この匂いになれたんだね。とりあえず、家には風呂に入ってから帰ってきて」


 ……なんか心に刺さる。

 おっと、もう止めないと。


「ストーップ!」

「頑張ってね」

「おう」


 ホースの液体が止まったのを確認してからバキュームカーに戻る。


「帰ってきたな。誰かと喋っていたようだが、彼女か?」

「そういう関係では……」

「さて、車はここに置いてすぐそこのプレハブ小屋に行くぞ。そこでスイカでもごちそうになるぞ」


 大原さんがバキュームカーにカギをかけて、二人でプレハブ小屋へと向かう。プレハブ小屋に入ると、かなり高齢のおばあちゃんが椅子に座って扇風機に当たっている。


「元気そうだな」

「何しに来たんじゃ?」

「昨日言っただろ。スイカを新人に食わせてやるんだ」

「あぁ、そんなこと言ってたのう。ほれ、そこに置いてあるのう」


 机の上に半分に切ったスイカが置いてある。


「ほかの新人も食べるから残しといてほしいんじゃ」


 ほかの新人ってまさか。プレハブ小屋の横に軽トラックが止まった。助手席からはイザベラ、荷台からは中村が降りてきた。運転席のおばさんは……知らない人だ。

 運転席のおばさんは降りることなくどこかに走り去っていった。イザベラと、中村がプレハブ小屋に入ってきた。


「あれ?また会ったね」

「あぁ。スイカ食えるらしいぞ」

「もう聞いてる。早く食べたいな」


 高齢のばあちゃんが手際よく、包丁で半分に切ってあるスイカを3等分に切った。そのうち一つのスイカを手に取って食べる。


「……あんま甘くないな」

「だろ」

「いや、でもほんのちょっとくらい」


 中村がスイカを頬張る。


「うん。甘くないね」

「こんなもんなの?私、初めて食べるからわかんない」

「初めて食うのか?」

「うん。私の国じゃ存在自体は知っていたけど、食べる機会がなかったからね。スーパーにも並んでないよ」


 国によって食文化も違うもんだな。

 スイカを食べ終えると、皿の上に皮を置いた。


「それじゃあ、後片付けは俺がやっとくから、今日はみんな帰っていいぞ」


 そういえばここにずっといるわけじゃないことを伝えてなかったな。


「あの、大原さん」

「どうした?」

「俺たちは……車の修理が終わるまでここにいるつもりなんです。永住するつもりは……」

「そうだったのか。せっかく覚えるのが早いと思ってたんだけどなぁ。上の方には俺から話しとくよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、俺たちは戻りますね」


 プレハブ小屋を出ると、すでに日が傾いていた。これはつく前に完全に夜になってそうだな。3人で道の端を歩いていると、目の前からドイツ製のセダンが走ってきた。セダンが隣で止まると、窓が開いた。


「今帰りか?」

「桐生さん。どうしたんですか?」


 桐生さんが運転席に座ってこっちに身を乗り出して話しかけてきた。


「今から車の部品探しに行くぞ」

「今からですか?」

「あぁ。早い方がいいだろ。後ろに乗りな」


 後部座席に乗り込む。


「……結構臭うぞ」

「……先に風呂に入っていいですか?」

「あぁ、どうせ行く途中にあるから行ってこい。待っててやるから」


 助手席の方には桐生さんと一緒に整備していた人が乗っていた。イザベラと、中村も後部座席に乗り込んできた。さすがに3人乗るのはキツイ。


「私たちは銭湯まででいいよ。そのあと、隣の屋台で食べてから帰るから」

「そうか。そうしてもらえると、助かる」


 車はあっという間に戦闘にたどり着いた。


「それじゃあ、ここで待ってるから、ゆっくりと匂いを落としてこい」

「はい」


 銭湯に入ると、昨日と同じように服を脱いでシャワーをする。ふと、思ったんだが、匂いはこの服に染み付いているんじゃないか?……まぁその時はその時だな。しっかりと、体と頭を洗って銭湯から出た。そのまま、セダンの後部座席に乗り込んだ。


「お、戻ってきたか。……匂いはどうやら服の方だな。まぁいいや。早速行くぞ」


 車がゆっくりと走り出した。

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