72話 お風呂
休憩所を出ると、乗っていたバイクを桐生さんが整備をしていた。
「外にお迎えが来てるぞ」
長田さんがピット前に止めてある車のボンネットを開けて何か作業している。その後ろには軽自動車が1台止まっていた。その中にはイザベラが運転席に座っていた。軽自動車に近寄るとイザベラが手招きしていた。助手席に座ると、シートベルトを締めた。
「どう?楽しめた?」
「懐かしかったよ。また、乗りたいな」
「そうだね。コンビニの店長さんに壊されたもんね」
車はピットからタイミングを見て出ると、端の方を走る。
「それにしても、すごいよね。燃料関係は空港に山ほどあるんだよ。写真見せてもらったけど、タンクローリーがずらっと空港の滑走路に並んでたよ」
「よくもまぁそこまで集めることができたもんだ」
イザベラがポケットから写真を1枚取り出してきた。写真を見ると、空港の滑走路に大量のタンクローリーが並んでいる。こんなに集めたら周辺のガソリンスタンドとか全部空っぽなんだろな。
車は環状線1号線をそれて梅田方面に向かった。
「こっちの方に私たち、家をもらったんだから。あ、この車はあとで返しに行ってくる」
ジャンクションのカーブを抜けると、仮設住宅が並んでいた。その上には太陽光発電が取り付けられているのが見えた。さすがに自然エネルギーも利用しているのか。そのまま進むと、車が止まった。
「ここが私たちのしばらくの住まい。前の住民は……察して」
「……あぁ」
これ以上は聞かないでおこう。
「私は車を返してくるから、もう中村さんが中にいるから」
「わかった」
車から降りると、イザベラはどこかに行ってしまった。いわれた仮設住宅に入ると、玄関に見覚えのある靴が置いてある。これは中村のだ。
「イザベラお帰り……って大隅じゃん」
「あぁ。イザベラは車を返しに行った」
靴を脱いで部屋に上がると、机しかない殺風景な部屋だった。トイレと、ユニットバスもついているが、張り紙で使用禁止と書いてある。
「あ、トイレと風呂場は使用禁止だから。下水関係がつながってないからね。台所はそのまま高速下に流してるからいいみたい」
「それより、風呂入ってこなかったの?」
「どこにあったんだ?」
「この先ちょっと行ったらあるよ」
「……それじゃあ、行ってくる」
「はーい」
靴を履いて仮設住宅から出ると、イザベラが風呂場がある方から歩いてきた。
「あれ?どこに行くの?」
「風呂」
「あ、まだ行ってなかったんだね。気を付けていってね」
「あい」
仮設住宅が並ぶ高速道路を歩くと、ところどころ明かりが消えている。どこかに出かけているのだろうか?それとも……まぁ、いいや。どれだけ歩いただろうか。すでに空が暗くなってきた。いきなり、街灯の明かりがついた。おぉ、電力はどうしてるんだろうか?仮設住宅の太陽光発電だと少ないはず。……まぁその内にわかるだろ。
少し進むと、人通りが多くなってきた。それに、少しいい匂いもする。仮設住宅の列が終わると、二つほどデカい自衛隊色のテントが出てきた。その周辺には人だかりができている。その横には祭りの屋台らしきものも見える。いい匂いはこれか。
「兄ちゃん!」
俺の事か?周りを見ても兄ちゃんと呼ばれるような年齢の人はいない。
「お好み焼き食べていきな!今日来たんだろ!?豚肉はと天かすは入ってないけど、味は保証するぜ」
店の親父さんに言われるがまま皿を受け取って出来立てのお好み焼きを食べる。おぉ。ふわふわでおいしい。これが本場のお好み焼きか。
「うまいです」
「そうだろ!ほかのところとは出汁が違うからな!」
出汁の事まで気が付かなかったのは言わないでおこう。1枚を食べ終わった後にお皿を返す。
「おいしかったです」
「そうか!また食べにこいよ!」
「はい」
そのまま横にあった銭湯に入る。テントに入ると、小さいが脱衣場があった。脱衣所の棚はすでにほとんどが埋まっていた。空いているところに服を脱いで入れる。あれ?タオルどうしよう。と、思っていたら、浴場手前に、使用前タオルが置いてあった。これを使えばいいのか。
浴場の中には小さいが、シャワーまでついている。シャンプーも備え付けのものがある。空いているところに座って蛇口を船ると、お湯が出てきた。あぁ、久しぶりのシャワーだ。体や、頭から汚れがすべて落ちるような感覚だ。頭と体をすべて洗った後で浴槽に入る。
「あぁ~」
思わず声が出た。隣のおっさんがクスクス笑ってる。
「良い声だねぇ。今日来たっていう東京の奴か?」
「そうです」
「長いこと入ってなかっただろ。ゆっくりしていきな」
「ありがとうございます」
そのまましばらくゆっくりと湯船につかる。いったい何分ほど入っているのだろうか?気が付くと、隣のおっさんもいなくなっている。さて、そろそろ出るか。ちょっとのぼせてきた。
湯船から出ると、少し立ち眩みがした。ちょっと入りすぎたな。脱衣所で体を拭いてから使用済みタオルの入れ物へと入れる。誰かが回収でもして選択してくれているのだろう。テントから出ると、風が冷たく感じた。
屋台の方はちょっとした列ができて店の親父さんが忙しそうにしている。がんばれ。
来た道を戻って仮設住宅の方へと戻る。途中、武装した数人とすれ違ったが装備は自衛隊並みだった。でも、あの小銃ってアメリカ軍とかが持っているものなんじゃ……まぁ、何かで入手することができたから使ってるんだろ。そう思うことにしよう。
気が付くと、仮設住宅まで戻ってきていた。家に入ると、イザベラと中村がお茶を飲んでラジオを聴いていた。ん?ラジオ?
「やっと、帰ってきた」
「ラジオなんて放送してるのか?」
「うん。お隣さんに教えてもらったんだけど、この避難所だけで聞けるラジオ放送があるんだって。12時くらいまで放送してるらしいんだ」
『今日はお便りを頂いてるぜ。ペンネーム……』
本当にラジオしてる。しばらく座ってラジオを聴いていると、チャイムが鳴った。こんな時間に誰だ?
扉を開けると、知らない人が数人立っていた。
「夜分にすまない。少し、話がある」
「あの……誰ですか?」
「これは失礼した。一応、この避難所を副管理長の長道だ。少し上がってもいいか?」
「かまいませんが……」
そう言うと、数人の人が全員部屋に入ってきた。




