71話 サーキット
目の前には環状線を超高速で走るスポーツカーがいる。それにピットまで作られている。
トレーラーを降りると、一人の作業着姿の男がやってきた。
「お、今回の車は当りばかりだ……ん?後ろの車は何だ?」
「これは今回助けてくれたこいつ等の車だ。壊れてるらしいんだ。直してくれないか?」
「パーツは腐るほどあるから大丈夫だ。ただ、原因究明のために時間がかかると思う」
まぁ、直してくれるなら何でもいいや。
「とりあえず車を降ろしてくれ。すぐそこに駐車できるスペースがあるから」
高田さんと一緒に車を降ろす。車をピットらしき建物の横に並べる。さて、俺たちの車はどこに?
「その車はそこのガレージに入れといてくれ。時間があるときに見とく。部品探しは手伝ってもらうからな」
「それはもちろん」
「……それにしても、3人とも酸っぱい臭いが……」
「え?まぁ、最近いつ入ったかわからないレベルだしなぁ」
「それならこの先に銭湯あるぞ。自衛隊のヤツだけどな」
「本当!?入りたい!」
「それなら俺が連れて行ってやるよ。トレーラーは誰かに運ばせておくから」
そう言って高田さんが中村とイザベラを近くの車に乗せてサーキット脇にあった車が1台通れそうなスペースへと消えていった。あれ?俺は?
「お前、車とかに興味ないのか?」
「一応、バイクは持ってましたよ」
「お、それならお前が乗っていたバイクがあると思うぞ。何って言ったて品ぞろえは日本一だからな」
歩き出した作業着姿の男の後ろについていくとガレージに連れていかれた。ガレージの中には大量のバイクが並んでいた。国産メーカーに海外メーカーさらには郵便局で使われていたであろうバイクまで置いてある。これは確かにすごい。横ではバイクを整備している人がいる。
「あ、おやっさん!ちょっとここどうすればいいんですか?」
バイクを整備していた人がこっちに向かってメガネレンチを持った手を振っている。おやっさん?この人そんなに年を取っているようには見えないけど。
「はいはい。どこだ?」
おやっさんと呼ばれる人はバイクを整備している人のところに行った。
「あーここか。ここを外すためにはホースを外してからじゃないと外れないぞ」
「え!?本当だ!」
「前にも言ったような気がするんだけどなぁ」
「と……ところでその人誰ですか?」
「この人か?ついさっき外から来た人だ。名前は……聞いてなかったな」
「大隅 一です」
「はじめっていうのか。俺と一緒だな。俺は長田 初だ。こっちで整備をしているのは桐生 流星俺たちは主に車両整備をしている。ほかにも大型車専門の整備班とか自衛隊車両専門がほかにいるけど、俺たちは普通車と、バイクだ」
「あんた、ここに来たってことはバイクに乗りに来たんだろ?」
並んでいるバイクを見ていると、俺が乗っていたのと同じバイクを見つけた。しかも同じ色だ。
「あの赤いバイクです」
「お、一昔前は教習所によくあったな。俺も教習受けたときはそのバイクだったな」
長田さんがしみじみとバイクを見つめている。俺も教習所はこのバイクだった。乗りやすかった記憶があるからそのまま中古バイクを買ったんだよな。
「はい。鍵」
桐生さんが鍵を投げてきた。それをキャッチすると、バイクのハンドルロックを解除してガレージ内の広いところに引っ張り出す。キーをオンの位置にしてスイッチを押すと、エンジンがかかった。1発でかかった。ちゃんと整備されている証拠だな。懐かしい音だ。こんなことになる前はいつも聞いていたはずなのに、あのクソ店長に……まぁ、このことは忘れよう。
「良い音だろ。ただ、マフラーがノーマルなんだよな」
「自分の持ってたのもノーマルだったのでこっちの方が馴染みますね」
「まぁ、ノーマルはちゃんとメーカーが考えて作ってるから。それじゃあ、一周走って来いよ。大丈夫。周りの車と同じように走ればいいから。遅ければ勝手にみんな抜かしていくよ」
そういいながら長田さんがヘルメットを渡してきた。ヘルメットをかぶってバイクにまたがる。その横の環状線では様々なスポーツカーがかなりの速度で通り過ぎていく。
「タイミングを見て出てくれ」
ピットの出口のところから車が途切れるのを待つ。あの赤い車が行ったら行けそう。赤い車が通りすぎた瞬間にアクセル全開で出る。やっぱりこの加速だよ。可変バルブが切り替わる瞬間がすごく良いんだ。メーターを見ると、すでに120キロは出てる。その横をドイツ車のスポーツカーが軽々抜かしていった。さらにそれを追いかけるように国産スーパーカーが抜かしていく。環状線のカーブに差し掛かると、壁には大量の傷があった。かなりの人がここで事故ったんだろうな。事故った人が無事ならいいけど……。
カーブを曲がると、遅い車がいた。追い越す際に車内を見ると、中学生くらいの子供が運転していた。よくハンドルとアクセルペダルに足とか届くのか?それにしても、環状線をサーキットにするとは思い切った行動だと思う。ほんらいなら 居住区とか農業ができているならそっちにした方がいいはずなんだけどな。今度は後ろから迫ってきた国産セダンの車内を見ると、おばちゃんが運転していた。そっか。やっぱりストレス解消にみんな利用してるんだな。
一周してピットに戻ってくるとピットの前に古いスポーツカーが止まっていた。確か漫画やアニメで有名になった車だ。よくこんなきれいな状態で残っているもんだ。車の中から中年の男性が出てきた。
「お!見ない顔だね。新入り?」
「どうも、初めまして」
「そのバイク選ぶとはなかなかいい趣味してるね。これからよろしく」
中年男性はそのままピットの奥の方へと消えていった。ピットの奥には何があるんだろうか?
「ピットの奥には何があるんですか?」
「ちょっとした休憩所だ。利用したいなら行けばいいぞ。ただ、バイクは元あった場所に戻しといてくれ」
「はい」
バイクを元あった場所に戻すと、中年男性が消えていった扉に入ると、小さい休憩所になっていた。休憩所にはウォーターサーバーと、車、バイク雑誌が置いてあるだけの部屋だった。その部屋には数人の男性が雑誌を読んでくつろいでいた。
「お、さっきの」
「どうも」
軽くお辞儀すると、中年男性がウォーターサーバー横の紙コップを取って渡してくれた。紙コップを受け取ると、溝を入れて飲み干した。
「さっきは聞かなかったけれど、どこから来たんだ?」
「東京です。そこから太平洋側を進んできました」
「それは大変だっただろ。ゆっくり休めよ。ここはみんないい人ばっかりだからな」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
紙コップをごみ箱に捨てると、休憩所をでた。




