68話 タイヤ交換
一体ここはどこなんだろうか?隣に見えるコンビニには土山垂水……最後まで読めなかった。ここはマジでどこなんだろう?無線で聞いてみるか。
「ここってどこなんですか?」
『滋賀県の甲賀市ってとこだ。忍者で有名なとこだ。知らないのか?』
「あぁ、そんなとこありましたね」
『なんだよ。思ったよりも反応薄いな。隣のイザベラさんがすごい目を輝かせてるぞ』
「そうですか」
そのまま無線を切った。結構いろいろな県をまたいでいるけど、観光してないな……いや、観光地もゾンビでいっぱいだろうなぁ……。
「修学旅行どこだった?」
「急にどうした?」
「いや、今の無線の会話でふと思った」
「俺は京都、大阪だったな。中村は?」
「私は九州。いいなぁ、京都」
「そうか?京都は退屈だったぞ。寺とかあんまり興味ないし。あ、大阪は楽しかった」
「あのテーマパークいったの!?」
「当たり前だろ」
「いいなぁ!恐竜のジェットコースター乗りたいのに!」
「しらねぇよ!」
前のタンクローリーの車体下からぐちゃぐちゃな肉の塊が出てきた。そして、そのまま踏みつけた。車体全体が揺れた。
「そんなに踏んでパンクしない?」
「大丈夫だろ。普通車と違って分厚いからな」
その言葉を行ったときに突然車体が揺れ始めた。あっ……
「イザベラ?聞こえる?」
『聞こえるよ?どうしたの?』
「パンクした」
『……わかった。この先止まれそうな場所で入るよ』
タンクローリーがスピードを落とした。それに合わせてスピードを落とした。速度的には自転車くらいか。タンクローリーが左ウィンカーを出して大きな倉庫っぽいところの駐車場に入った。駐車場にはトラックが何台も停まって倉庫のシャッターは開いたままになってる。あぁ、ここ運送会社だ。トラック全部、同じカラーリングだ。ここなら装備もそろってるだろ。
タンクローリーの横にキャリアカーを止める。周囲を確認すると、倉庫の中で数体のゾンビがエンジン音に気が付いて向かってきている。運転席から降りると、高田さんが近寄ってきた。
「何を踏んだんだ?盛大にバーストしてるぞ」
「そんなに大きな音はしなかったですよ」
イザベラは倉庫の方へと、ゾンビを殴り倒しに行った。
「さて、俺たちも倉庫の方に行ってトラックのカギを手に入れてくるぞ」
「どっちかの車載工具はないんですか?」
「そんなものは当の昔に壊れてる。だから、そこのトラックから手に入れるんだ」
トレーラーヘッドを見て回ると、左後輪の外側がパンクしていた。これってトレーラー部分を切り離さないと交換できないのか?……それだとしたら、どうやって外せばいいんだ?
高田さんと一緒に倉庫の方へと行くと、頭がつぶされたゾンビが横たわっていた。その奥ではイザベラがゆっくりとゾンビに近づいてゾンビに散弾銃をフルスイングしていた。あいつがやってくれたのか。倉庫横にある事務所をのぞいてみるが、暗くてよく見えない。でも、ゾンビがいる気配はなさそうだ。腰にいれている拳銃を取り出した。高田さんも散弾銃を構えている。トレーラーの方を見ると、中村が小銃を持って周囲を警戒している。
事務所に入ると、いつもながら埃っぽい。争った形跡は無いな。
「どうせそこの壁にある鍵ロッカーに入ってるだろ……ほら、あった」
「どの鍵を持っていくんですか?」
「とりあえず全部だ。まともに車載工具がそろってるとも思えないからな」
鍵ロッカーにあるすべての鍵を取って倉庫へと行くと、服に血をつけたイザベラがやってきた。
「何体倒したんだ?」
「3体」
「体の方は大丈夫か?」
「大丈夫」
「それならこっちを手伝ってくれ」
「わかった。何すればいいの?」
「トラックの後ろに道具箱が付いているからそこから ジャッキとかを取ってきてくれ」
「オッケー」
イザベラが駐車場端にある大型トラックへと走っていった。
「さて、俺たちはトレーラー部分の切り離しだ。俺が連結部を外すからトレーラーヘッドを前進させてくれ」
「でもパンクしてますよ」
「もうホイールも傷が行ってるし使い物にならないだろ。運転席に乗っててくれ。合図を出したらエンジンをかけて前進な」
「はい」
運転席に乗り込んで後ろを見ていると、配線の接続部をなんかいろいろ触っている。前を見ると、イザベラがトラックの後ろ部分で何かやってる。あぁ、車載工具があそこにあるのか。そのまま眺めていると、後ろから声が聞こえた。
「前に出してくれ」
エンジンをかけると、ゆっくりとトレーラーヘッドを前進させる。
「はーい、オッケーだ!」
エンジンを切って運転席から降りると、イザベラが息を切らしながら車載工具を持っていた。
「も……もってきたよ」
「お疲れ。置いといて。ほかのトラックには車載工具あったか?」
「あったけど、持ってきた方がよかったの?」
「いや、そのままでいい。その車からタイヤをもらうから」
「スペアタイヤは?」
「そんなのもとっくにパンクしてるって。それじゃあ、俺は止まってるトラックからタイヤを持ってくるから、トレーラーヘッドからタイヤ外しといてくれ。頑丈そうな場所にジャッキかければ大丈夫だから」
高田さんがイザベラと一緒に大型トラックの方へと向かって行った。なんかあの二人仲良くないか?ふと横を見ると、中村がこっちの作業を見ていた。
「おい、見張りはいいのか?」
「誰が見張りなんてするって言ったの?」
「……はぁ」
「うそうそ。周辺にゾンビはいないよ。いるとしたら、隣の家の中」
中村が指さす家を見ると、2階の窓から人影がこっちを見ている。よく見ると、片腕がない。ゾンビだな。おっと、そんなことしてる場合じゃない。トレーラーヘッドをジャッキアップしないと。トレーラーヘッドの下に潜り込んで頑丈そうなところにジャッキをかけて、せっせと上げてく。……一体どこまで上げればいいんだ?
「おい!大隅!タイヤのボルト緩めたか!?」
「あ!忘れてた!」
せっかく上げたのに降ろさないと。トレーラーヘッドをおろして、タイヤを接地させる。そのあと、タイヤのボルトを外そうとするが硬くて外れない。体重をかけてもびくともしない。
「何してんだよ。気合が足りないんだよ」
高田さんが横取りしてきた。
「うぎいい!……だめだ。外れない」
「気合が足りないんじゃないですか?」
「うるさい!」
そんなことをしている間に、遠くからイザベラが大型トラックのタイヤを転がしてきた。高田さんを見ると、イザベラをじっと見つめていた。多分、俺と同じこと考えてるんだろうな。イザベラが転がしてきたタイヤをトレーラーヘッドに立てかけた。
「イザベラさん。ちょっと、このパイプに力入れてボルト外してみてくれ」
「え?こっちの方向でいいの?」
「あぁ」
ギィイッ
「ゆるんだけど」
高田さんが驚きの表情をしている。
「マジか……」




