64話 くしゃみ
「おい!早く逃げるぞ!」
そういいながら池田さんはトレーラーに向かって走り出した。その瞬間筋肉モリモリなゾンビも走り出した。向かう先は池田さんへと一直線に走る。その速さは走り出しは遅いもののあっという間に加速していく。
「避けて!」
「うわああああ!」
「こっちを向け!」
中村が小銃を数発、筋肉モリモリなゾンビの背中に叩き込んだ。池田さんの手前でギリギリ止まった。
「無線で応援とか呼べないのか!?」
「呼んだとしても数時間はかかる!無理だ!」
筋肉モリモリなゾンビが中村の方を向いて再び叫びだした。今度は中村の方に走り出した。中村は中央分離帯を越えて反対車線へと逃げる。
「一!そっちにゾンビ!」
振り向くと、手が届きそうな距離までゾンビが迫ってきていた。とっさに拳銃を取り出して頭に向けて撃つ。運よく1発で頭に当たってくれた。イザベラの方を見ると、数体のゾンビ相手に散弾銃を振り回している。だが、きちんとフルスイングをしてないせいか、ゾンビが仰け反ってひるむだけだ。
反対車線の方では結局、筋肉モリモリなゾンビが中央分離帯のガードレールを壊して中村を追いかけていた。中村は追いつかれるギリギリのところでかわしている。だが息が上がっているのがここからでもわかる。援護しに行った方がいいかもしれない。
「高田さん!池田さん!イザベラを助けてやってください!俺はあの化け物を相手してきます!」
「わ、わかった!」
「大隅!これもってけ!」
池田さんから散弾銃が渡された。イザベラが持ってるタイプとは違うな。よくアメリカ軍の人が待っているのをテレビとか動画で見た気がするな。
「それは引き金を引けば弾が出る。いわゆるセミオートってやつだ。中にはスラッグ弾が8発入ってる」
「わかった!ありがとう!」
池田さんと高田さんがバールや金属バットを持ってイザベラの方へと走っていった。これでイザベラは大丈夫だろ。中央分離帯を越えて中村と合流する。筋肉モリモリなゾンビは中村の方を見て唸っているだけで、突進してくる様子はない。
「おい。どう状況なんだ?」
「見た通り。なんか、止まってる。それより、そのショットガンは?」
「池田さんから渡された。中にはスラッグ弾が8発入ってる」
「それ全部あいつの頭に叩き込んでよ」
散弾銃を構えて頭に狙いを定めて引き金を引く。
ドン
おぉ。かなりの反動だ。これだけ強ければあいつの頭も一発で吹き飛んで……あれ?当たってない。違うな。当たってないんじゃなくて避けられたんだ。よく見ると、首を傾けている。
「おい。中村。お前何発あいつに当てた?」
「最初に背中に打ち込んだ3発だけ。あとは1マガジン分撃ったけどかすりもしてない」
筋肉モリモリなゾンビが叫べ始めた。後ろから物音がしたと思ったら、こっちの合流地点からもゾンビが上ってきている。
「早く蹴りをつけないと!囲まれる!」
「わかってる!……来るぞ!」
こっちに筋肉モリモリなゾンビが全力で走ってきた。間一髪のところで避けると、筋肉モリモリなゾンビはそのまま合流地点を上ってきたゾンビの群れに突っ込んで止まった。止まった時に蹴散らして倒れたゾンビの首根っこをつかんで持ち上げた。
「何する気だ!?」
大きく振りかぶって……ゾンビを……投げてきた!避けようと思った時にはすぐ目の前に投げたばされたゾンビが迫っていた。
「うげぇ!」
投げられたゾンビが腹部に命中した。痛い。息がうまく吸えない。でも、早く起きないと、投げつけられたゾンビが……
「あー」
ようやく息ができるようになった。拳銃を取り出すと、上に乗っかっているゾンビの頭に拳銃を押し当てて撃つ。ゾンビの血が少し顔にかかった。力の抜けたゾンビをやっとの思いでどかすと、目の前に普通のゾンビが迫ってきていた。次から次へときりがない!拳銃を向けると、今までとゾンビの年齢が違う。小学校低学年くらいの女の子だろうか。右足に食いちぎられたような跡がある。あそこから感染したのだろう。引き金を引こうとした手がなかなか動かない。
「早く撃って!」
「くそっ!なんでこんなことに!」
引き金を引く。今度も頭に当たった。小さい体が力なく倒れる。今までは運よく出会わなかっただけだろうがついに小さい子供まで……
「あいつを倒す方法考えてよ!」
「そんなの簡単に思いつくわけないだろ!」
大体、名古屋の避難所を壊滅させたほどの奴だろ。そんな奴にこんな貧相な武器で勝てるわけないだろ。戦車かロケットランチャーでも持ってこないと無理だ。ここは危険かもしれないが、高速道路を離れて町中に逃げるのがいいかもしれない。イザベラ達の方を見ると、ゾンビの数はかなり少なくなってきているみたいだ。筋肉モリモリなゾンビは周りに集まったゾンビを蹴散らして遊んでいる。ゾンビでも遊ぶのか……とにかく、逃げるなら今のうちだな。
「イザベラ達と合流するぞ。ここから逃げる」
「それがいいと思う。このまま戦ってもきりがないからね」
「さっさと行くぞ」
壊れた中央分離帯からイザベラの方に行くと、ちょうど最後の1体を倒し終わっとところだった。
「逃げるぞ!いったん巻いてからまた戻ってくる」
後ろで叫び声が聞こえる。後ろを振り向くと、筋肉モリモリなゾンビの周りにいたゾンビがすべて倒されている。すぐに全員で合流地点を降りていく。降りていくと、瓦礫や車両で塞がれている料金所が目の前に現れた。塞がれている隙間からはゾンビが数体群がっているのが見える。全部こうやって塞いでいるのか。よく見ると、端の方がきちんと塞がれていなくてゾンビが必死に抜けようとしている。
「こっち!」
料金所の横の斜面を降りて住宅街へと進む。住宅街にはゾンビは少ない。料金所の方から破壊音が聞こえた。どこかの住宅に隠れてやり過ごすか。
「ここら辺の家に隠れましょう」
「おぉ」
全員でそれぞれ家のドアを開けていく。
「こっち開いていたよ!」
中村が鍵の開いていた家を見つけた。素早く家の中に入る。家の中は物音一つもしない。ゾンビもいないだろ。しばらくこのまま隠れるか。
「いつまで隠れている気だ?」
「そんなこと聞かれても……」
さっきゾンビを投げつけられたところが結構痛む。……結構どころじゃない。深呼吸をするとかなり痛い。もしかして肋骨でも折れてるのか?
外から足音が聞こえる。もしかすると奴かもしれない。全員が息を殺して通り過ぎるのを待つ。
「へっくち」
そんな中でイザベラがくしゃみをした。……冗談はやめてくれ。外から足音がどんどん迫って来るのが室内からでも分かる。
「奥に逃げろ!」
言い切る前に全員家の奥へと走って逃げる。逃げた瞬間に玄関が壊されて筋肉モリモリなゾンビが入ってきた。家の壁や扉を破壊しながらこっちに向かってくる。マジでしつこい!家の奥に進むとキッチンに出た。冷蔵庫横に裏口がある。そこから逃げよう。
裏口の扉を開けて外に出た。




