62話 トレーラー
トレーラーの荷台の開いたところに車をゆっくりと入れる。その間、イザベラと、運転席に乗っていた男が寄ってきたゾンビに対処している。イザベラは相変わらず散弾銃をフルスイングしている。運転席の男の武器は金属バットか。
「おい。見てないで手伝ってくれよ」
「あっ、はい」
助手席に乗っていた男と一緒に車を固定する。
「お前の連れの女の力どうなってんだよ。ゾンビの首が変な方に折れ曲がってるぞ」
「いやあ、力だけは強いんですよね。ははは……」
とりあえず笑って誤魔化すか。車を固定した後にリアゲートを閉じる。
「車に乗れよ。後ろのベットなら3人座れるだろ」
「中村、あの2人を呼んできてくれ」
「わかった」
俺と、助手席に乗っていた男は先にトレーラーに乗り込んだ。そのあとにイザベラと中村が乗り込んできた。最後にもともと運転席にいた男が乗り込んだ。
「よし。出発するぞ」
トレーラーが発進すると、周辺のゾンビが一斉にこっちを見た。ゆっくりと近寄ってくるがトレーラーの質量にも勝てる訳もなく車体の下部に巻き込まれて消えていった。
「助けてくれてありがとう」
「良いんだよ。困ったときはお互い様だろ」
「ところでどこに向かってるんです?」
「大阪だよ。俺たちは大阪の阪神高速を拠点としてるんだ。そこで俺たちはひたすら環状線を走ってるわけ」
だから、後ろにスポーツカーばかり積んでたのか。大阪って結構な人がいるはずだけど、ゾンビは大丈夫なのか?いろいろ聞きたいことが多すぎる。
「いろいろ聞きたいことあるだろうが、実際に見てみれば早いだろ。そこで後ろに乗せた車の修理もしてやるから」
「なんでそこまでしてくれるんです?」
「車の整備や修理が好きなやつがいるんだ。そいつのところに持っていけば喜んで修理してくれる。ただ、作業を手伝ってもらうからな」
いつもの流れだな。まぁ、働かざる者食うべからずっていうからな。
トレーラーは大きめの国道に出た。
「高速は使わないんですか?」
「高速道路は事故車両が多くてこの車両では通れないところが多いんだ。下道のほうはすでに事前に通った道ばかりで通れる道は全部把握してるし。ただ通れるところも把握してるから使えるところは使う」
トレーラーは迷うことなく道を進む。ところどころ放置された車両で狭いところはあるが、通れないことはない。道を頭で覚えているのか、交差点を迷いなく進む。ゾンビがいても少し速度を緩めるくらいでゾンビを引きつぶしていく。トレーラーは大丈夫なのか?
「そういえばお前たちの名前聞いてなかったな。俺は高田 勇気で、助手席の奴が池田 哲夫だ。俺たちは主に車両回収班で働いてる」
助手席の池田さんがこっちを見て頭を軽く下げた。それに合わせて俺たち3人も頭を軽く下げた。
「今回はスポーツカーばかり集めてきたけど、人が住めるようなワゴン車や、キャンピングカーも集めたりしてる」
「何人くらい阪神高速に住んでいるんですか?」
イザベラが身を乗り出して聞いてきた。
「正確な数字は分からないが、数千人はいるんじゃないか?環状線と北の方以外は第一走行車線を塞いでその場所に人がテントとか車両を家代わりにして密集してるからな」
食料とかどうしてるんだろうか?でも、偏見かもしれないけど、大阪だとお好み焼きとかたこ焼きで小麦粉だけは大量にあるイメージがあるんだよな。そんなことを考えていると、横に座っていた中村が眠っていた。外は薄暗くなってきている。夜でもそのまま走るんだろうか?
「もう少ししたら路肩で寝るぞ。さすがに暗い中進むのは危険すぎる」
トレーラーを路肩に寄せる。当たり前のことだが、ゾンビがエンジン音を聞いてこちらに近寄ってくる。エンジンを切ってもこっちに近づいてくる。
「……大丈夫なの?」
「運転席が高い位置にあるから上ってこれないよ。何回もやってるから大丈夫」
「そう……なの?」
イザベラが不安になるのも周りを見ればわかる。トレーラーの周りにはすでに6体ほどのゾンビがうろうろしている。そのうち1体はトレーラーの運転席側のドアをベタベタ触っている。そのまま日が沈んだ。周りは真っ暗だが、ゾンビがドアをぺたぺた触っている音が聞こえてくる。高田さんと池田さんははすでに眠っている。フロントガラスから月の明かりが少し差し込んできた。横を見ると、イザベラはまだ眠っている。中村の方はこっちを向いていた。そして、目が合う。
「ねぇ、みんなよく寝れるよね」
「ほんとに。それな。俺たちがおかしいのか?」
「でも、ゾンビは本当にドアを破れないみたいだね。いろいろ考えてもしょうがないし寝よ」
……そう言い残して中村は寝た。のか?俺も目をつぶれば寝れるかな?しばらく目をつぶっているが……寝れそうにない。それにしても大阪か。かなりの遠回りになった。できればガソリンも満タンにできればいいんだけど。
ぼーっとしていると高田さんがいびきをかき始めた。しかも、途中で止まる。これって、よくテレビでやってた睡眠時無呼吸症候群ってやつだっけ?中村はついに眠ったみたいだ。イザベラの方は……あ、目を覚ましている。
「いびきうるさすぎ」
「……同感。寝れないことはないかな?」
「すげぇな」
「一も、目をつぶって静かにしてるといいよ。眠れなくてもそうしてるだけで少しは効果あるらしいよ」
「へぇー。早速試してみる」
イザベラの言う通り何も考えずに目をつぶるが、寝れそうにはない。このまま大人しくしてるか。……一体何時間たったんだろうか?外はうっすら明るくなってきた。結局のところ寝れたのかどうかわからない。明るくなっても外のゾンビは暗くなる前よりも数が増えている。だが、こっちに人がいるのに気が付いてないのか誰もこっちを見てない。ドアを触っていたゾンビはフロント付近で歩いてる。
しばらくすると、運転席の高田さんが起きた。
「お、起きてたか。さて出発するか。おい。池田、起きろ」
「んあ……おはようございます」
池田さんが足元にある箱から何かを取り出した。取り出したものをよく見ると、防犯ブザーだった。なるほど、防犯ブザーを投げてゾンビを話してから出発するんだな。池田さんが窓を開けて防犯ブザーの紐を引き抜いて外に投げた。防犯ブザーが大きな音を鳴らしながら遠くに飛んで行った。それを目で追うようにゾンビたちが防犯ブザーの方へ向かって歩いていく。しばらくするとゾンビが防犯ブザーの周りに密集している。なんかシュールな見た目だな。
「さて、行くか」
高田さんがエンジンをかけてトレーラーのエンジン回転数を上げないように発進させた。ゾンビの方はまだ防犯ブザーに集まっている。音が鳴っている限りあのままか。それはそれでかわいそうだな。
「少し遠回りになるが、名古屋を避けて大回りで行く。名古屋はヤバい」
「何がどうヤバいんですか?」
「お前たちがどこから逃げてきたのか知らないが、名古屋にも同じように都市高速を使った避難所があったんだが大柄なゾンビが暴れまわって壊滅したらしい。しかも、逃げてきたやつの証言だと、高架道路を破壊して、自衛隊も歯が立たなかったらしい」
浜名湖で聞いていた話は少しだけだったがそこまで酷いことになっているとは思ってもなかった。名古屋を避けるとすればかなりかかるな。トレーラーは高速道路のインターチェンジへと向かった。高速道路は事故車両とかが一台もない状態だ。しかもゾンビも歩いてない。どうなってんだ?
「おい。なんでこんなにきれいなんだよ。俺たちが走ったところは事故車両とかゾンビがいたぞ」
「名古屋を避けるために数日と数人の犠牲を払って車両とゾンビ、そして、ゾンビが入ってこれないようにインターチェンジとジャンクションを封鎖したんだ」
トレーラーは事故車両と、ゾンビのいない高速道路を進む。




